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Chapter5:新時代型エージェントに求められる専門性 <3>(デジタルメディア活用)

『新時代ミュージックビジネス最終講義』(2015年9月刊)は、音楽ビジネスを俯瞰して、進みつつあるデジタル化を見据えてまとめた本でした。改めて読み返しながら、2021年視点での分析を加筆していきます。
 アーティストと対等なパートナーとなって、音楽活動を成功に導き、ユーザーを喜ばせ、自分もしっかり稼ぐ。そんな新時代型エージェントになる方法について本章では考えていきます。

デジタルメディア活用の考え方

 近年は、さまざまなデジタルメディアが普及しています。日々、新し いサービスが開発され、ローンチされています。ユーザーから支持を集 めているサービスの情報には敏感でいましょう。インターネットの世界 は、数ヶ月で景色が変わることも珍しくありません。半年前の常識が、 もう通用しないというような事態も日常茶飯事です。
 理解をしやすくするために具体的なサービス名も使って説明します が、サービスに栄枯盛衰があることを前提にして、考え方を身に付ける ような理解を心がけてください。考え方を身に付けるという目的のためなので、個別の機能について網羅的に説明することはしていません。細かなノウハウは、書籍で学ぶには変化が早すぎます。自分で試したり、 ネットを検索したりして工夫してください。
 デジタルメディアの特徴の1 つは、得られる効果が複合的だということです。楽曲を聴かせる、アーティストの存在を広める、マネタイズする、ブランディングするなど目的は幾つかありますが、優先順位を明確 にしつつ、複数のメリットを手に入れましょう。大まかな方向性としては、“人気者にする”というような目標設定が有効な場合が多いと思います。

動画共有サイト活用法
 音楽を広めることにかけては、動画共有サイトのパワーは圧倒的です。スマートフォンが普及したことで、ますますその傾向に拍車がかかっています。動画の重要性を理解しましょう。ただし、以前からある高価な予算を掛けたミュージックビデオ(MV)が必要かというと、そういうわけではありません。音楽同様に、動画も超低コストでの制作ができるようになりました。動画共有サイトで楽曲が聴かれ、拡散していくことを目的にするのであれば、アーティストサイドからの面白いアイデアが 1 つあれば、実現可能です。
 最も有名な動画共有サイトは、言うまでもなくYouTubeです。 YouTuber という新ジャンルを生み出して、YouTube からの広告収入だけで、年間数千万円を稼ぐスター YouTuberも出てきています(欧米では数十億円プレイヤーも出現)。動画再生数に応じた広告収入も意識 しましょう。
 ただ、気を付けないといけないのは、何のための YouTube 動画なのかです。YouTubeの規約に則って広告収入を増やそうと思えば、最初に広告を流したり等、広告の存在が大きくなります。楽曲を聴かせたり、 自分たちの動画を見せるプロモーションが目的なら、広告は控えめにした方がよいでしょう。
 YouTube には、膨大なユーザーが存在します。関連動画やタグ付けを活用した、他の動画からの流入を意識しましょう。検索語からユーザーの嗜好を推測しておくことも必要です。
 他にも、日本独自のカルチャーを持つニコニコ動画も大きな存在感があります。ユーザーのコメントが動画の上に重なっていくことで、時間差でも共感を産むという仕組みは絶品でした。ただ、ニコニコ動画は、 アニメ、ゲームとボーカロイド関係を中心としたオタク系カルチャーが強いという明らかな傾向があります。アーティストとの相性を意識する必要があるでしょう。
他にも Twitter が買収した 6 秒動画のVineも面白い存在です。6秒の繰り返しで拡散するという、まさに動画版 Twitter という発想が独特です。一方、Facebook 傘下になった写真共有サイト Instagram は 10 秒 間までの動画機能を付けて対抗しています。
 この分野でも日本独自の MixChannel という動画サイトが 10代を中 心にユーザー数を急増させています。音楽については、2015 年現在、 著作権を含めて違法状態で、原盤権などを無許諾のコンテンツもたくさん存在し、音楽のプロの立場としてはかかわりにくい側面もありますが、中高生の恋人同士がキスした動画をアップして盛り上がっているというのは、これまでの日本になかったカルチャーです。眉をひそめる大人の気持ちも分からなくはないですが、こういう怪し気なところから新 しい音楽のムーブメントが生まれがちだなと思って見ています。少なく とも彼らの“恋愛”シーンに音楽を上手くはめられたら、大きな影響力を持てる気がします。
 これからの音楽プロモーションに、動画は避けて通れません。MTV がアメリカで生まれたのは 1981年ですから、30年以上経っています。 音楽を広めるための動画は、従来のミュージックビデオの枠を大きく超 えたさまざまな可能性を秘めています。

ライブ配信サービス

 ライブ配信サービスも重要なメディアです。以前は USTREAM が注目を集めていました。ニコニコ動画が始めたニコニコ生放送は、有料で試聴するファンクラブ的な機能も取り込んで、活況を呈しています。 USTREAMとニコ生があれば、もう十分かと思いきや、新しいサービスがどんどん出てきています。
 いま一番盛り上がっているのは、何と言ってもツイキャスでしょう。 スマホで簡単に映像の生配信ができるというところに特化して、若年層を中心に爆発的にユーザー数を増やしています。2015年には、ツイキャス配信にチケット販売ができる新しい機能も付加しました。その名の通り、Twitterと組み合せて使いやすく、インスタントなソーシャル拡 散で即、見せる個人メディアというあり方が、時代にフィットしていま す。2015 年4月にユーザー数が 1,000 万人を超えたと発表されました。
 DeNAが2013 年に始めた ShowRoom も注目です。ライブアイドルブームを取り込んで、売上、ユーザー数ともに着実に成長しているようです。サービス構想を聞いた時には、中国で大成功した YY.com と全く同じ企画で、日本の IT 企業が中国のサービスを模倣する時代が来たのだと驚きましたが、その徹底した思い切りの良さが功を奏したようです。技術的にも安定していて、マネタイズできるサービスとして大きく成長させています。今後はアイドル以外のジャンルにも展開を広げようとしているようです。コアファンの熱量を上げながらマネタイズができるので、試してみる価値はあるでしょう。

プレイリストプロモーションの可能性
 ストリーミングサービスは、音楽をコミュニケーションの場で活躍させるチャンスを増やすということはこれまでも見てきました。欧米では既に、ストリーミング発のヒット曲が出てきています。
 プレイリストプロモーションは、アーティストや楽曲を広めていくために、日本でも主流の 1 つになるでしょう。
 日本人の感覚でプレイリストというと、10~20曲程度の起承転結がある、一種のコンピレーションアルバムをイメージすることが多いかも しれません。中年以上の世代は、大切な彼女とのドライブデートのために、導入から流れをつくって、曲の順序にも注力したことでしょう。
 しかし Spotify のプレイリストは、それとは全然違います。曲の束、 固まりとイメージした方が分かりやすいかもしれません。人気プレイリストの曲数は 100 曲超です。順番が無いわけではありませんが、流れは意識されていません。人気順に並んでいるようなイメージです。
 新人アーティストの楽曲が注目されるためには、ストリーミングサービスのプレイリストは有効です。既に CAZEET や Lorde などの成功例も出ています、海外でのプロモーションは、人気プレイリストに収録して推してもらうことが重要です。
 ニューミドルマン的な視点だと、“Spotify にいる J-POP ファンを網羅するプレイリストを自前で作れないか?”という問題設定が正解です。
 日本で始まったAWAやLINE MUSICも、プレイリストを売りにし ています。アーティストのユーザー獲得法としてのプレイリストプロモーションを研究・実践していきましょう。(続く、、)
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2021年1月付PostScript
 SNSについての言及は6年前だとかなり昔の話に感じますね。ヒットの震源地となっているTikTokは影も形もなく、今はなきvineへの言及があります。ただ、少なくとも音楽との関係性におけるSNSの捉え方については、ずれないのがわかってもらえるのではないでしょうか?
 当時、鳴り物入りではじまったUSTREAMもとっくに姿を消し、中国サービスを模した投げ銭型のSHOWROOMは一つのデファクトになっていますね。
 ユーザーの行動履歴をAIでブーストするTiktokの成功は、2020年代の新たな動画SNSの主流になることでしょう。音楽はユーザーがブーストするもの、memeと言われる流行の伝搬は音楽との相性がよいことは間違いありません。

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