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カセットテープとフィルム現像が織りなす日々〜『PERFECT DAYS』を観て

 ヴィム・ヴェンダースは好きな監督の一人です。代表作と言われる『ベルリン天使の詩』は、個人的にはそれほではなかったのですが、映像の質感や、時間の捉え方に魅力を感じます。
 エグゼクティブプロデューサーとしてもクレジットされる主演の役所広司とつくった映画、舞台は東京ということでこれは見逃せない、映画館で観たいと思いました。


「映画好きが好きな映画」と投稿した意図

 観た直後に僕がSNSに投稿した感想は「こういう映画が好きな人が映画好きだと僕は思います」でした。映画好きの友人知人には是非、観てほしいなと思い、でも「これはマストシーでしょー!」みたいなテンションは似合わない映画ですから、静かな感じでつぶやきました

 僕がこのnoteに書くのは、もちろんオススメしたいからです。ネタバレ的なことは最小限にとどめますし、そもそもびっくりするような物語の展開みたいなものは無いのですが、後半は、観た人と共有したい質問などをします。映画を観る前に情報が無い方が良い方はこのサントラのプレイリストまでにして、そこから下は、観てからにしてください。

モチーフとして登場するカセットとフィルム

 主人公の平山は、トイレ掃除の仕事に向かう軽自動車の中で、毎日カセットテープを聞きます。70年代の洋楽がほとんどで、少しカルチャー度が高い感じのアーティストが中心です。Lou Reedのあの曲は「Perrfect day」というタイトルで、映画『TRAINSPOTTING』で使われていたことを映画を観ながら思い出しました。この辺の曲に心が揺さぶられるのは世代的なこともあるのでしょうが、カセットテープの持つ音質的特性と楽曲のチョイスが合致しているなと思いました。
 平山が掃除の合間でサンドイッチを公園を食べながら、木漏れ日を撮ろうとして、空に向けてシャッターを切ります。(ちなみに、代々木八幡宮の前庭のベンチです。僕が2年半前まで代々木上原に住んでいる頃に散歩していたところなので、ひと目でわかりました。)定期的に現像して、気に入ったものだけを残しているようです。
 デジタルに取って代わられたアナログなアイテムを、その質感を求めて使い続けるのは、主人公のパーフェクトな日常の重要な要素のようです。無口な平山は、淡々とそれを続けています。

東京の下町の普通の景色

 銭湯や、浅草駅の通路にはみ出すような居酒屋など、下町らしいところを自転車で巡るのが平山の日常です。住んでいる古いアパートからは、スカイツリーがいつも見えています。僕が住んでいる谷中からは4kmくらい離れていますが、毎日、部屋の窓からスカイツリーを眺めているので、親近感がありました。
 首都高速に乗って、渋谷方面に移動して、トイレ掃除をして帰ってくるというのが展開ですから、まさに東京を舞台にした映画で、東京生まれの東京育ちの僕が、思い入れを持つのは当然なのかもしれません。

監督のイメージが具現化した作品

 カンヌ映画祭で最優秀男優賞を取った役所広司の演技はもちろん素晴らしいです。日本人俳優のキャスティングも絶妙で、田中泯の浮浪者役にはサブカル感もあります。商業的にも成功する可能性は十分あると思います。ただ、映画としては、監督がイメージする映像を形にしたという種類の、いわゆるアート的な映画です。僕はそういう映画が好きなので、冒頭の投稿にもつながっています。
 ついでにいうと一番好きな映画監督はウッディ・アレンです。あの洒脱で人を食った感じのシナリオと音楽やロケ場所のセンスも好きで、エンタメとしても楽しめます。北野武監督は、素晴らしい才能だなと思いますし、観るようにしています。『首』は同時代の天才の作品を見届ける喜びはありますが、血や戦争シーンや男色には興味がないので、楽しむという感じではありませんでした。『アウトレイジ』はシナリオの展開は楽しめますが、拳銃でどんどん人が死ぬのはねー(笑)『座頭市』は、僕にとっては音楽とタップダンスの映画で大好きでした。
 そんな感覚でいうとヴィム・ヴェンダースはカセットやフィルムなどの小道具的なチョイスや選曲などがとても好みです。役所広司という日本人俳優とタッグを組んで、今の東京を描いてくれたことは東京人としても本当に嬉しいです。

無粋ながら知りたくなったこと、観た人と語りたい

 深い感動を覚えながら映画館を後にして、静かに映画を振り返る中で、疑問が湧いてきました。抑制的に、日常を描いている映画で、無粋な行為だなと思いながら、映画を観た人と、語りたくなっています。

主人公はどういう経歴を経て、今の仕事に就くことになったのか?前職は?
 高いインテリジェンスと豊かな感性があり、真面目な勤労観を持つ平山は、今の状態になるまでにどういう経緯があったのでしょうか?学生時代は何を学び、どんな職についたのでしょう?思い出してみてもヒントは見つけられませんでした。そこは描くところでは無いのでしょう。人間性に魅力を感じると、その人のことを知りたくなりますよね?綿密なプロットは立ててつくっている映画でしょうから、人物設定はあるはずです。どこかで明かされていたら教えてください。

父親との確執は何なのか?
 何らかの事件があって、ドロップアウトして、社会の片隅で生きていくというのは珍しくありませんが、平山の笑顔にはトラウマを抱えているようには感じられませんでした。過去を消化している爽快感があります。諦めということもあるのかもしれませんが、それにしては陰のない笑顔ですし、日常を前向きに暮らしています運転手付きの高級車で娘を迎えにきた妹に父親の急病を知らされた時に、見舞いに行くことで解消するという展開を予測しましたが、平山は行きませんでした。悟りにすら見える彼が死に際の父に会いに行かないという選択をさせる過去は何だったのでしょうか?色々考えたのですが、すっとハマるストーリーを思い付けていません。
 器量が大きく、抑制された平山の人格と、それでも許せない、縁を拒む父親との確執はなんだったのか気になります。

 観て何日も経ってから、シーンを思い出し、観た人と語りたくなる映画、そんな映画が僕は好きです。『PERFECT DAYS』まだの方は是非観てください。そして語りましょう。コメントなど歓迎です。レスします。

モチベーションあがります(^_-)