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はじめに〜エンターテックがあらゆるビジネスに有益な理由(マガジンの説明です)

 この本を書いたのは5年前になります。著者として10冊の本を出版している僕ですが、オーガナイザー的なキャラクターでの監修や共著が多く、単著として全編を1人で書き切っている本は『新時代ミュージックビジネス最終講義』とこの本の2冊しかありません。僕は書籍のタイトルは編集者の決定に従う主義なので、書名への質問はご勘弁ください(笑)ただ、中身は、当たり前ですが、自分なりに考え抜いて、確信を持って読者の方に投げかける意味があることを書いたつもりです。未来予測的な側面を持つ本書を改めて取り上げるのは、5年前の自分への「答え合わせ」になります。どのくらい的を得ているのか、外しているのか、5年前の自分にでダメ出しすることは、5年後の自分に有効な作業となるでしょう。5年間の社会の変遷を確認しながら、改めてエンターテインメント×テクノロジーの近未来を考えるために、書いていきます。そんな趣旨ですから、本マガジンについては、質問、疑問、ツッコミ、批判など大歓迎です。もちろんコメント欄も開放しますし、僕のメルマガやSNSを通じて遠慮なくご連絡下さい。

「エンターテインメント×IT」 からビジネスヒントを得よう

 エンターテインメントは、テクノロジーの発展と普及を先導してきました。どんな に優れた技術であっても、多くの人の生活習慣を変えるのは簡単ではありません。む しろ先端的であればあるほど難しいものです。生活を変えるには「楽しそう」「面白そう」「使っていたら異性にモテそう」「友達 に自慢ができる」とユーザーが受け止めてくれることが必要です。衝動が人々を突き動かさなければ、新しいサービスは広まりません。 これが、エンターテインメントがデジタルテクノロジーを牽引する理由です。生活を変えるには「楽しそう」「面白そう」「使っていたら異性にモテそう」「友達 に自慢ができる」とユーザーが受け止めてくれることが必要です。衝動人々を突き動かさなければ、新しいサービスは広まりません。 これが、エンターテインメントがデジタルテクノロジーを牽引する理由です。

 本書は、デジタルで変化している時代の「新常識」を正しく理解するために、エンターテインメント分野から紐解くものです。
 エンターテインメントが、技術の発展を先導してきたというのは、見方を変えれ ば、テクノロジー開発の実験室がエンターテインメントの分野だったともいえます。 エンターテインメントの視点を持つというのは、その実験室を「のぞき見」すること で、デジタルの近未来を知ることにもつながります。
 僕の本業は音楽プロデューサーですが、音楽以外のさまざまなエンターテインメン ト分野のプロデュースも行っています。最近は、「コンテンツビジネス・エバンジェリスト」という肩書きを名乗り、経済産業省監修の「デジタルコンテンツ白書」の編集委員やコンテンツ系のITベンチャー、大企業の新規事業に関するアドバイザーも 務めています。
 古い友人からの「いろんなことやってるね?」という問いかけに対して、こう答えています。  

「ホームラン王を目指して野球を指導しているつもりだったのに、最近は『アウト3つでチェンジで良いと思いますか?』とか、『野球場の設計はどうしましょうか?』とか、そんなことばかり聞かれているような状況だよ。野球業界で言うなら僕は複数の球団(クライアント)のコーチみたい。これまで前提としていた枠組みを変えないといけない時代だから、音楽プロデューサーであり続けるために、音楽ビジネス全体の再構築にも取りくまないといけないと思っているんだ。」

 野球のルールや球場のサイズが変わる時代に、闇雲に素振りだけ続けていても勝てません。これまではホームランだったはずの打球が、スタンドに入ったらアウトというルールに変わっているかもしれないのです。

「蛸壺化」した日本の 「ギョーカイ」を俯瞰しよう
 多くの日本の産業であることですが、特にエンターテインメントの分野では、一つ 一つの業界が、それぞれ一つの「村」のような共同体を形成しています。カタカナで 「ギョーカイ」というと強い排他性を感じませんか? 「よそ者」にはわからない、村人にだけ通じる言葉を使い、明文化されていない独自の「掟」をもっています。経済が成長している過程では、有効に機能していたのですが、成熟市場になり、グローバ ル化が進んだことで、つじつまが合わないことが増えてきました。
 近年、デジタル化が進んだことで、従来の業界の壁が溶けていて、「村」にとって 最適だったやり方が、他業種と連携する際に、足かせになっています。長年かけて築 いた洗練されたシステム環境の居心地のよさから離れるには勇気がいるものです。
 僕は業界団体の理事を長年務めましたので、日本社会の意思決定の仕組みも肌感覚で知っているつもりです。利益が相反する事態では、管轄省庁が行司役を務め、業界ごとの団体代表が集まって話し合っていくのが基本的な構図です。コンセンサスを積 み上げていくやり方ですので、時間がかかり、足して2で割るような妥協的な結論に いたることも少なくありません。アメリカのような「みんながやりたいようにやっ て、最後は裁判所で決める」というやり方が、社会の仕組みとして優れているとは思 いませんが、時代の変化に遅れがちな日本のやり方も決してよいとはいえません。
 本書では、それぞれの「村の掟」の問題点と、解消のための処方箋を示したいと思います。音楽プロデューサーの僕にとっては、エンターテインメントに関する業界は、いわば「隣村」で、訪れたこともありますし、土地土地の「方言」も知っていま す。僕が育った「音楽業界村」と共通する課題も抱えています。デジタル化について は、音楽業界が最初の実験室になっていますので、「先兵役」としての知見が役にた つこともあるでしょう。従来の「村の掟」に縛られて、内側だけをみていると、少しずつ縮んでいく市場に 対して、打つ手がないようにみえます。それは一つ一つの業界が「蛸壺化」している からです。ところが、視点を高く上げて、複数の「蛸壺」を俯瞰してみると、驚くよ うなビジネスチャンスがたくさん転がっています。
 これまで積み上げたノウハウがすべて無効になっているわけではありません。視野 を広げて、前提条件を組み替えて、「村」を超えて連携することが大切なのです。「村の開放」ができれば、日本経済の活性化にもつながるはずです。
 僕は、学者や研究者ではありませんから、本書では、あらゆる事象を網羅的に解説 ることは目指しません。デジタル時代の変化の本質を探りながら、業界を横断して、新しいヒット・コンテンツとスター・クリエイターを生み出そうと、もがいている僕の、現在進行形の思考の断面をおみせするつもりです。僕自身がビジネスパーソ ンだからこそ伝えられるビジネス発想のヒントをお伝えしたいと思っています。読者 のみなさんが、新たな視点で、ビジネスアイデアをみつける機会としていただけたら 嬉しいです。また同時に、消費者としてプライベートライフを豊かにする情報もたく さん盛り込んでいますので、新しいサービスを試して、エンターテインメント生活を 充実させるきっかけにしてみてください。

「バズワード」の本質を 理解しよう

 最近、新聞や雑誌などを読んでいて、突然、目にする新しいカタカナの言葉に驚くことはありませんか?
 注目される新たな言葉を「バズワード」といういい方をしますが、そこには必ず新しい見方、考え方が表されています。バズワードの流行は、広告業界人やビジネスコンサルタントが意図的に仕掛けている場合も多く、クライアントにもっともらしいと 思わせるプレゼンテーションをするために、いかにも新しそうな概念としてみせるためのテクニックでもあります。何か狙いがあるはずなので、そのバズワードを仕掛けた人たちの思惑も知っておくことが大切です。
 たとえば、「ソーシャルメディアの時代は、ユーザーとの〝エンゲージメント〞が 大切だ」といわれています。「エンゲージメント」とは、「約束」という意味です。耳あたりがよい表現で、嫌いではありませんが、音楽事務所を長年、経営してきた立場 でいうと、あまりにも当然のことです。ファンとの信頼関係を継続し、醸造していくというのは、アーティストマネージメントの「いろは」の「い」です。音楽業界的な 言葉でいうと「コアファンをつくって、大切に増やしていく」と翻訳できるでしょう。僕らが何十年もやってきていることです。
 流行のバズワードは、時に便利ですが、煙に巻かれて、振り回されることもあります。その言葉が意味することの本質を見極めることが大切です。デジタルやインターネットに苦手意識がある人は、さまざまなバズワードの意味と使われる理由を知ることで、コンプレックスが解消できることでしょう
 本書では、予測外れや失言をおそれず、僕自身が実際にプロデュースするときの ベースにする考え方をリアルにお伝えしていきます。独断的な内容も含まれるでしょうから、異論反論、大歓迎。それをきっかけに議論が広がり、みなさんの脳みそを刺 激する機会となれば本望です。

10人に小さな発見を与えれば、1000万人が動き出す

 本書のタイトルは「10人に小さな発見を与えれば、1000万人が動き出す」です。
 フェイスブックやツイッターといったソーシャルメディアが日常的に使われるようになって、情報の媒介は、「人から人」が大きな流れになりました。以前からクチコミは重要でしたが、ソーシャルメディアの発達で、クチコミが可視化され、拡散する速度が著しく速くなりました。
 ですから、コンテンツや商品を広めたい時、最初に興味を持つ人は10人で良いのです。その人達が、驚きを持って、フェイスブックでシェアすれば、少なくとも100人位の友達には響くでしょう。紹介された人達が興味を持って、さらに広めれば、1000万人にも届きます。そんな、ソーシャルメディアとのつきあい方も本書の中で確認していきます。
 デジタルの発展によって、変わりはじめている時代を知り、ワクワクしながら、近未来をポジティブにむかえましょう。

『10人に小さな発見を与えれば、1000万人が動き出す。〜ビジネスに役立つデジタルコンテンツの話』(2015年6月刊)から

 5年ぶりに冒頭の「はじめに」を読み直して、自分の基本姿勢は変わってないなと思いました。日々の生活については、音楽プロデューサーの領域から随分はみ出して、エンターテック分野の新規事業創出、起業家育成に割く時間が増えていますが、自分のスタンディングポイントはここだったなと改めて思います。

 本書は出版社および編集者との話し合いで、日本の一般的なビジネスパーソン(そういうターゲット設定が可能かどうかは別にして)と学生を対象に、発想と情報の整理の仕方をお手伝いするために書いたものでした。順に追っていくと赤面することもありそうですが、答え合わせと補足をしながら、紹介していこうと思います。お付き合いください。

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