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第1章:コーライティングの基礎知識3〜対面 or オンライン or ??

2015年4月刊行の『最先端の作曲法・コーライテイングの教科書』(リットーミュジック)は、日本におけるコーライティングムーブメントを予見し、牽引する役割を果たしたと思います。2022年〜2023年視点で読み返し、世界のクリエイターが取り組み続けているコーライティングの意義と改めて解説します。

コーライティングの方法論

 では続いて、実際にどうやってコーライティングを進めていくの かを紹介していきましょう。みんなで集まってわいわい言いながら 作るのが基本ですが、さまざまなバリエーションも存在します。

■対面型1:ファーストデモ先行タイプ

 これはバンドがセッションで曲を作るのに、とてもよく似たやり方かもしれません。大きな流れとしては、初対面の人間が何人か集 まって、その日はファーストデモ(メロディとコードだけの簡単な デモのこと。音源制作の出発点になることからこう呼ばれる)を作るところまでで終えて、あとはネット上でやりとりをするような形です。
 この場合に大事なのは、とにかく相手と話すこと! 実際に伊藤 がコーライティングをする際も、まずはランチでも食べながら、お茶を飲みながら、3時間はミーティングです。世間話などをしながら、相手のパーソナリティや性格を知る。自分がいままでかかわってきた曲、相手が作ってきた曲を披露し合い、相手の音楽的個性や 音楽業界での住処を知る。そこから、「このチームでこういう曲を 作ってみてはどうか?」とリファレンス曲の出し合いなどをすることになります。
 これは、お互いをよく知り、最も適した目標を設定するため。特に海外でコーライティングをする場合は、お互いの国の音楽、流行り、文化を紹介するには、YouTubeがとても便利です。簡単に音源&映像を一緒に見ることができるので、YouTubeで見せ合ったMVなどが、最終的にリファレンス音源になるということがほとんどです。 そんな感じで話が済んだら、楽器を弾ける人間は楽器を持って、「どんな感じにする?」なんて言いながらジャムっぽい形でコーラ イティングを始めることになります。コード進行をお互いに提案し ながら、メロディも考え、1番だけかワンハーフがある程度まとまってきたら「じゃあ録るか!」ということで、iPhoneなんかでエアー録音。だからすごいガチャガチャしたデモですけど、この段階ではコードとメロディが分かっていれば良いわけです。伊藤が参加している場合であればその場で仮歌詞も書いてしまうので、ファーストデモとはいえ、楽曲のイメージはかなり具体的なものになります。
 楽器を持ち始めてから録音までは、だいたい1~2時間といったところでしょうか。コーライティングという作業では、最初のおしゃべりのとき以外には、ダラダラした時間は全然ありません。曲を作り始めたら、結構ガツガツいきます。「Aメロのコードちょうだい!」「Bメロ後半のメロディもっとドラマチックにしてみて!」「サビ転調したいけど、どこにいける?」などのリクエストを受けてすぐに対応できないと、二度と呼んでもらえませんからね ......。
 ある意味、なんでもいいのでスピーディにたくさんのアイデアを出せるようにしましょう。コーライディングではじっくり自分の中で完成されたアイデアを出すのではなくて、スピーディにたくさんのアイデアを出して、キャッチボールしながらケミストリーを生むことが大切。だから瞬発力がとても重要だし、これこそコーライティ ングの醍醐味なのです。
 さて、1番だけかワンハーフのファーストデモが完成したら、その日の作業は終了。「はいおしまい、飲みに行こう!」という感じです(笑)。そこから先は、トラックメイカーが持ち帰り、家でトラックを作る作業になります。ネット上で意見交換をしながら、ブラッシュアップをしていくという形ですね。
 ですからファーストデモ先行タイプでは、後半はネット型のコー ライティングに移行することが多いと言えます。そう考えるとト ラックメイカーは作業量が多いのですが、その対価はアレンジ料として支払われることになります(後述/P049~)。

■対面型2:トラック先行型

 3人集まった中の1人がトラックメイカーで、「いろいろ用意してきたから聴いてみて」というところから始まるパターンもあります。使えそうなトラックがあったら、それをベースにメロディやコー ド進行を考えていくという形ですね。
 ただ、トラックメイカーが音を出し始めると会話が止まってしま うので、コミュニケーションを取りづらいという側面もあります。 キックが「ドン、ドン、ドン、ドン」と鳴っている状態では、やっ ぱり細かい話はできませんからね。それにトラックメイカーは前のめりな人が多く、どうしてもパソコンに張り付いてしまいがちで す。そうなると、お互いをよく知るとか、共通の目標を設定するということよりも、“そのトラックをどうするか”というところに フォーカスしてしまうことになります。
 なお、トラック先行型の場合はボーカリストがいると、良いケミストリーが生まれるケースが多いですね。トラックメイカーが持ってきた幾つかのトラックから1つを選んだら、それをループで流す。ボーカリストはそれに合わせて、即興で歌う。「これいいね!」っ ていうメロディが出たら録っていく、という作業をディレクタータ イプが上手にまとめていくと、短時間で素晴らしい曲ができてしまうことがあります。この場合、ボーカリストがビビらずにどんどん歌えることが大切ですね。

■対面型3:コーライティングキャンプ/セッション

 クリエイターが自発的に集まる以外に、コーライティングキャンプやコーライティングセッションというイベントが欧米では盛んに行なわれています。後の章で詳しく紹介していますが(CHAPTER 3)、これは有力クリエイターやレーベル、音楽出版社などが主催して、たくさんのクリエイターが参加するお祭りのようなものです。初対面の人間同士がグループ分けされ、1日や2日で曲を完成させることになります。
 “山口ゼミ”でも何度かコーライティングキャンプを開催していますが(P82~参照)、普段とは異なる環境で、今まで一緒に作業 をしたことが無い人と、タイトなスケジュールで曲を完成させるというのは、とても良い刺激になっているようです。
 それに“寝食を共にする”と言いますが、そういった意味でも、 クリエイター同士では普段生まれない人間関係や、なんとも言えない高揚感は、まさに合宿の感覚です。

■ネット型

 対面型での作業の後半からネット型に移行することが、これまでの基本でした。やはり、会って話してお互いを理解した上でないと、 一緒に曲を作っていくのは難しいな、というのが正直なところで す。しかし今後は、最初からネット型というパターンも増えていくでしょう。
 ネット型での作業は、現状ではFacebookグループやメッセージ を利用するのがオススメです。メールでのやりとりはリアルタイム での会話感が無いのと、既読が付かないので、どうも調子が出ないんですね。チャット感覚で、ネットでも瞬発力重視で作業をしたいものです。
 以前、伊藤がメールベースでコーライティングをした時は、「リアクションがなかなか来ないなぁ」なんて思っていたら、すごく作り込まれたものが送られて来て、困ったことがあります。こちらとしては、どんなアイデアを持っているかを知りたいだけなので、時間をかけて作り込む作業は要らないわけです。フラッシュアイデア でも良いから、投げかけてほしい。そういう意味では、ネット型のコーライティングでもスピード感はとても大切です。メールだとど うしても遅くなるし、緊張感も薄れるし、テンションも下がってし まいます。それに、気づいたら1対2の作業になっていて、2人で作っ たものが報告されるという流れになってしまったりする。これでは ケミストリーは生まれません。この時も、途中からメールを止めて Facebookのメッセージでやりとりをするようにしたら、スピードもぐんと上がって、テンションも高いまま作業を進めることができ ました。
 ちなみに伊藤の場合は寝るのが早いので、23時までに勢いよくやり取りをして、最後に宿題的なメッセージを送信、相手がそれを受け取って作業を行ない、朝の6時にはまた伊藤が音を聴いてレスをするみたいなスピード感でネットコーライティングをすることが多いですね。これくらいフットワークが軽ければ、ネットでもちゃんとできると考えています。
 ネットコーライトティングをできるようになったことによって、 海外のクリエイターとも気軽にコーライトすることができるように なったし、多くの曲を生み出すことができるようになりました。 LA在住のクリエイターが、「Why don't we have lunch ?」(明日ラ ンチでもしない?)って夜中にメッセージしてくるくらい身近に感じられるし、10曲を同時進行でコーライトすることもできます。 あとはネットとはいえ、人間関係こそが良好なコーライティングを 支えますので、ネット上の言葉もそうですが、ネット以外の場所でのコミュニケーションも大切にしましょう。
 SkypeやFaceTimeを使うクリエイターもいますが、対面型に近い形で作業をできるというメリットがある反面、お互いの時間を拘束してしまうところがデメリットですね。いろいろ試して、参加者の性格や生活パターンに合わせて自分に合った方法をみつければ良いでしょう。メッセージ機能を活用すればFacebookを使ったネットコーライティングと同様のことが可能です。

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2022年8月付PostScript

 コミュニケーションを取りながら、ケミストリーを目指しつつ、創作していく方法について、具体的なイメージを持ちやすい説明になっているの出はないでしょうか?
 コロナ禍もあって、オンラインでのコーライティングの機会が増え、必要性も上がってきています。ツールも増えてきて、ZOOMやGoogle Meetsを使うケースもありますが、基本的なTIPSは変わってないですね。

 日本におけるコーライティングムーブメントの震源地、いわば「本家」である山口ゼミは現在、秋期生を募集中です。プロ作曲家への最短距離を走りたい方にオススメです。オンライン説明会もおこなっていますので、興味のある方はどうぞ。

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モチベーションあがります(^_-)