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5-2:クリエイターエコノミー時代の職業作曲家〜スマートな印税分配の仕組みは必ず訪れる(「AI時代の職業作曲家スタイル」全文公開)

 AIと並んで、Web3のキーとなる技術、ブロックチェーンの音楽領域での活用についてはどうでしょうか?


クリエイティブ・コモンズのビジネス実装

 僕が、ブロックチェーンテクノロジーについて知ったときに、最初に思ったことは、著作権の分配はこれで変わるなということでした。クリエイターが中心となった透明性のある、フェアで便利な仕組みが構築できるからです。
 インターネットの広がりとともに始まったクリエイティブ・コモンズという活動があります。2001年にアメリカにNPOが作られ、日本にも支部があります。クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)を提供している国際的非営利組織です。
 CCライセンスとはインターネット時代のための新しい著作権ルールで、作品を公開する作者が「この条件を守れば私の作品を自由に使って構いません」という意思表示をするためのツールです。
 クリエイター自身が自分の作品の利用方法を定めるという思想は素晴らしいのですが、アカデミックな背景を持つ人達によるムーブメントで、テクノロジーの裏付けや収益分配の仕組みを持たない性善説に基づくもので限界がありました。コンテンツをビジネスにしているプロデューサーにとっては、実効性の無い「綺麗事」にも見えてしまいます。
 ブロックチェーン技術を使えば、クリエイティブ・コモンズ思想のビジネス実装が可能になります。クリエイター個人の意思を情報として、改ざん不能な形でコンテンツに付与することができるからです。

アナログベースの著作権管理の現状

 JASRACは批判されることの多い団体ですが、世界で有数な優秀な著作権徴収団体です。近年は、高齢者しかいなかった理事会に30代も立候補するようになり、委嘱理事に鈴木貴歩さんを始めとした「デジタルとグローバル」に明るい人が加わるなど改革が始まっていますが、70年以上の歴史を持つ団体の仕組みはアナログ時代の方法論を引きづらざるを得ない実情も残っています。
 NexToneが着実に実績を積み上げ、上場企業として実力をつけたことで、競争も生まれて、日本の国内市場の徴収分配の仕組みは秀逸な状況と言えるでしょう。ただ、根本的な問題があります。アナログベースの分配の構造自体は変わっていないことです・
 大きく、3つの時代遅れな仕組みがあります。

時代遅れ1:四半期ごとの使用料分配の仕組み

 プロの作家になって最初に経験するのは、印税の分配が「遅い」ということです。
 様々な使用者から著作権を集めます。支分権と言われる、使用の仕方ごとに著作権使用規定を定めて、広く集めている訳ですが、その仕組はアナログベースのものです。音楽出版社に支払うタイミングは、3月、6月、9月、12月の回となっていますから、そこで3ヶ月は要します。音楽出版社からの作家への分配は2ヶ月後というのが一般的です。明細の発行も、やっとcsvなどになりましたが、これまでの慣習で60日掛けて、正確な分配金額と明細発行をするという状態が続いています。作家にエージェントがいる場合は、そこから2~3ヶ月を要します。音楽業界で長くしていると慣れしまうのですが、今のテクノロジーを使えば、ユーザーが支払ってから数日後に作家に払うことは可能です。
 Spotifyで音楽配信をすると、Spotify for Artistという解析ツールが見られるようになります。そこでは、前々日までのユーザー行動がわかります。ストリーミングの原盤及び著作権の使用料は、毎月のユーザー数と広告収入と再生回数で決まるので、支払いは一ヶ月単位になっていますが、ユーザー行動自体は翌々日には可視化されています。
 著作権では放送使用が日本でも海外でも大きな割合(全体の約3割)を占めていますが、放送使用については、サウンドマウス(イギリス)やBMAT(スペイン)というMusicTechカンパニー、日本ではNTTデータなどがオーディオフィンガープリント技術を活用して全放送番組をクローリングすることで、楽曲使用状況がリアルタイムに近い形でわかるようになっています。
 
 このように様々な調査や試算を積み上げたアナログ時代には四半期ごとの分配しかできなかった状況はテクノロジーの進化によって様相が変わっているのですが、著作権徴収分配には生かされていません。

P175著作権分配の期間

時代遅れ2:国を超えた分配の非効率

 この「遅さ」は、国境を超えると、より深刻化します。世界の音楽著作権団体は、相互管理契約に基づき、自国の著作権使用料を権利者の母国の著作権団体に支払いますが、その頻度は年一回です。著作権使用に関する情報も不正確な場合が少なくありません。音楽出版社間で国を超えた分配を行うケースもありますが、アナログ時代のルールに基づいていることは同様です。
 現在の音楽消費の中心は、ストリーミングサービスです。クラウド型のグローバルで行われているサービスですから、著作権の徴収分配は、国ごとに行うこと自体が、そもそも非効率です。CD時代に行われてきた商慣習、契約関係を引き継ぐために行われているだけで、作曲家にとっては、Spotify等のサービス事業者から直接受け取る方が合理的です。
 実際、Kobult Musicなど、デジタルに特化したアドミニストレーション型の音楽出版社は、作曲家に配信事業者から一元的に徴収する仕組みを提供して、一気にシェアを伸ばしています。
 音楽が「デジタルとグローバル」が主戦場のビジネスになったことは、このような変化も呼び起こしているのです。

時代遅れ3:作品内容を持たないデータ管理

 もう一つブロックチェーン技術で解決可能な大切な課題があります。
 現状の著作権管理は、(代表)音楽出版社が著作権管理団体(JASRAC/NexTone)に作品届を出すところから始まります。音楽出版社がレーベルA&Rや作詞作曲家からメールなどを使って作品情報を集め、とりまとめるというやり方が一般的でクリエイター主導にはなっていません。そこにあるのは、作詞家作曲家名、楽曲名、リリースしたアーティスト名などの外形的な情報で楽曲そのものを識別する事ができる情報はありません。
 楽曲のメロディの楽譜やMIDIデータ、歌詞のテキストデータなどは著作権団体のデータベースには一切含まれていません。ここでも性善説的なアナログな仕組みが前提になっているのです。
 著作権情報のデータベースは、基本となるメロディや歌詞なども含んで、セットで管理できた方が便利で、新たなサービスが提供できそうというのは、誰でも考えることではないでしょうか?

 これら問題は、ブロックチェーン技術の活用で一気に解決可能です。 
 特に3の解決は、これからの音楽で重要になる、音楽家同士のコラボレーション、リミックスやn次創作などの活性化にもつながり、新たな市場が生まれる期待がもてるのです。

印税分配にはデジタル通貨が最適

 3.0型の職業作曲家はテクノロジーとビジネスに敏感であることが重要だというのが本書の一貫した主張です。アナログ時代に先人達が積み上げた著作権管理の仕組みに感謝しつつ、とてつもなく時代遅れになっていることも知っておきましょう。ユーザーが使った数日後にクリエイターに入金されることは、問題なく可能で、かならず来る未来です。
 僕自身はスタートアップスタジオの活動を通じて、この未来ができるだけ早く来るように取り組むでいます。

 本書の趣旨とはずれるので細かくは紹介しませんが、僕が代表を務めるStudioENTREがデジタルプラットフォーマー社と取組を始めた、クリエイタートークン事業はこの未来の実現を早める施策です。デジタルプラットフォーマー社は、世界トップクラスのブロックチェーン技術の知見を持つ日本の会社、地域デジタル通貨の発行などの実績があります。我々は物理的な地域ではなく、音楽クリエイターの人的ネットワークを一つのRegion(地域)を捉えてデジタルトークンを提供します。
 現状では投機性をもってしまう暗号資産(ビットコイン等)を避け、法定通貨(とりあえずは日本円で開始し、将来的にはドル/ユーロなどの国際通貨とのバケット制に)が価値を担保するステーブルトークンの形で、デジタル通貨の利便性を取り入れます。少額分配、国際送金などの手数料を大きく下げるとともに、音楽家の活動に便利な機能を取り込んでいく、音楽家、クリエイターたちの関係性をグローバルなコミュニティと見立て、音楽家のコミュニティの活性化に有益な「価値の移転」(お金と信用のやりとり)を担保します。ブロックチェーン技術を使って、スマートコントラクトというクリエイターを中心とした著作権契約の可視化もセットで提供する予定です。2024年秋から少しずつ始まりますので、注目して、可能な範囲で関わってみてください。

JASRAC/CISACはDAO化する!?

 その先に見えているのは、著作権徴収分配の徹底的な合理化です。ルールは決まっていて運用するだけなので、著作権の聴取分配にはDAOが最適です。
 最近中もされている新しい概念DAO(Decentralized Autonomous Organization)は日本語では分散型自律組織と呼ばれています。従来型の中央集権ではなく運営されるAIとも親和性の高い近未来型の法人格です。DAOの話題を目にしたら、「あ、JASRACが将来なるかもしれない形態だ」と思ってみてください。
 実際には、膨大な関係者が関わっていますから、DAO的な組織への移行のプロセスは煩雑で困難が伴うでしょう。しかし、完全に可視化され自動化されて、手数料が最小化される形での著作権管理の仕組みが可能であることが共通認識になれば、そこに向かうことになるでしょう。これは歴史的な必然として、DAO的な組織になっていことは不可避であると僕は考えています。10年後にこの本を改めて読んでもらえれば、この予見の正しさが証明できるはずです。

モチベーションあがります(^_-)