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第6章:ウェアラブルデバイスとIoTの衝撃(前編)

5年前の拙著を引用しながら、この5年間で起きていることの「答え合わせ」と、5年後の展望を考えるコラムにしています。『ビジネスに役立つデジタルコンテンツとエンタメの話』

 ここまでは、すでに存在しているサービスやモノ、業界について、「再定義」や 「再構築」の必要性をみてきました。ここからの章は、 世紀になって存在感を増している新たなモノやサービスです。その存在自体が、社会や人々の生活を「再定義」 しようとしています。
 まず、本章では「ウェアラブルデバイス」について、みてみます。 「ウェアラブルデバイス」の前哨戦として、スマートフォン時代の現状から話をはじめましょう。

スマートフォン時代の 意味すること

 時事通信社が2014年 月に実施した携帯電話に関する世論調査で、日本人のスマートフォン使用者の比率が 52.7%となり、初めて5割を超えました。前年同時期 に調査した 43.7%から大きく数字を伸ばし、本格的なスマートフォン時代の到来を告げています。読者の中には、「まだ半分?」と思われる方も多いかもしれません。
 世代別のスマートフォン使用率には大きな差があり、20代では 93.4%、 30代は 85.7%となっています。若い世代ほど、友人はみんなスマートフォンを使っている状況ですが、 60代以上でも、前年の調査に比べると、5.3ポイント増となっているのでやゆす。ガラパゴス型と揶揄されるほど独自の進化を遂げた日本の携帯電話「ガラケー」が高性能なのは事実ですが、スマートフォンへの移行は着実に進んでいます。 コンテンツビジネスにとって、最も大きな変化といえる「クラウド化」ですが、これは、スマートフォンの普及とセットで起きた変化です。ユーザーがいつでもどこで もインターネットに接続できる常時接続のスマートフォンをもった状態だからこそクラウド化は進んだのです。
 スマートフォンは、これまでの携帯電話と違って、汎用的な機能を持っています。 ポータブル音楽プレイヤー、スケジュール帳、ゲームプレイヤー、デジタルカメラ、 デジタルビデオ、ICレコーダー、地図帳など日常生活で便利な機能が満載ですが、 重要なのは、基本OSを搭載していて、何にでも使えるということです。
 要するにPCを常に身につけ、気軽に使える状態になっているということです。それでいて、電話である以上、電波は繋がっていますから、人が常にオンラインである
 「常時接続」の状況が実現していることになります。 スマートフォンのOSは、グーグルのアンドロイドとアップルのiOSの2つが独占しています。自らは携帯電話をつくらずに、アンドロイドOSを無償でライセンス 提供しているグーグルと、自社製品のみにiOSを搭載しているアップルは、対称的 な戦略をとっています。しかしどちらも、開発者に対して情報を公開し、誰でもアプ リをつくり、流通させることができる仕組みを提供している点は共通です。プラット フォームをオープンにしているので、さまざまなプレイヤーが投資をしたり、アイデ アを出すことができ、結果として、技術革新が行われます。アプリも膨大な数がつくられますし、進化のテンポが速くなっているのです。
 コンテンツ提供者にとっても、全世界で自社商品を流通させることが可能になった のは、スマートフォン時代の大きな変化です。

IoTって何?

 もう1つ、近年のキーワードに触れておきましょう。 「IoT」。あなたも聞いたことがありませんか?
 ビジネスの世界で、IoTという言葉が頻繁に聞かれるようになっています。IoTとは、「Internet of Things」の略で、身の回りのモノが、 インターネットに繋がることで、これまでになかった機能や性質を有するようになる ことを意味しています。外出時に、携帯を使って自宅のエアコンのスイッチを入れる のもIo Tですし、冷蔵庫が庫内の食材から調理可能な料理を判断してレシピを教え てくれるというのもIo Tならではのサービスです。
 本書の中でいえば、「スマートテレビ」や「コネクテッドカー」が、いち早くIoTとなった商品です。あらゆる製品が、ネットとつながって賢くなろうとしています。
 もう一つ「M2M」という言葉もあります。これは Machine to Machine の略です。機器同士が通信をして、人間による操作、介在なしに、 コミュニケーションをして動作するシステムです。
 たとえば、「ロボットカー」同士が、直接コネクトして、渋滞や衝突を回避する技 術は「M2M」になります。IoTもM2Mも、これまでのモノを「再定義」する概念だということが、わかりますね。
 IoTがすでに存在する製品が、ネットとつながることで「再定義」されるのに対して、ウェアラブルデバイスは、これまでになかった種類のモノです。人とインターネットとの関係をより緊密にする機器となっています。

ポストスマートフォン時代の 主役はウェアラブルデバイス

 ウェアラブルデバイスが注目されている一番の理由は、ポストスマートフォンの最有力候補だからです。情報の流通の中心がスマートフォンが担っている現状から、ウェアラブルデバイスを通じて行われるようになると予測されています。
 ウェアラブルは英語で、「身につけている(wearable)」という意味です。 携帯電話、スマートフォンも、かなり身近な存在でしたが、ポケットに入れるか、手で持つかして使わざるを得ません。ウェアラブルデバイスは、身体の一部に装着でき るという考え方でつくられています。
 これまでのインターフェースは、キーボードを打つか、画面を直接タッチして操作 するという方法でした。「ウェアラブルデバイス」では、もっと直感的に、ストレスなく、声や身体の動きで機器やアプリを動かすことができるのが特徴です。
 現状の「ウェアラブルデバイス」には大きく、「眼鏡型」と「腕時計型」の2つの流れがあります。人間の身体では、耳の周りと手首が「黄金エリア」といわるほど、血管が集まっているので、人体情報がとりやすいのです。その部分に装着するだけで、脈拍や発汗情報などがわかります。また、普通の眼鏡や腕時計をつける感覚で生活にとり入れることができ、他人からみても違和感、抵抗感がありません。「腕時計型」については、すでにいろいろな商品が発売されています。2015年4月には、話題のアップルの「Apple Watch」が発売されました。
 新しい機器の説明には、SF映画やコミックのアイテムを使うとスムーズなことがあります。眼鏡型ウェアラブルデバイスは、人気漫画『ドラゴンボール』の架空の装置、「スカウター」をイメージするとわかりやすいかもしれません。片耳のヘッドフォンに片目だけ透明のメガネがついているような形をしている「スカウター」を装着すると、 相手の強さが数値で表されるという機能があるのです(あくまで漫画の話ですが)。
 アメリカの医療現場では、ベテランの医師が、手術をするときに眼鏡型デバイスの「グーグルグラス」を使用し、それで記録された映像を研修医がみて勉強するという 使われ方もしています。グーグルグラスは、両耳にかけて固定し、片方の眼の近くに、透過型の映像を映すというプロダクトです。手術をしながら、ハンズフリーでそ の患者のCTデータやカルテを確認することもできるため、医療の現場に大きな変革をもたらしています。
 また、整備士や作業員は両手の塞がった状態で、商品のデータを確認したり、バーコードを見るだけで自動的に読みとったりするなど、利便性が高く、多業種からのニーズがあると思われます。
 注目の眼鏡型デバイスとして、オキュラスリフト(Oculus Rift)があ ります。ゴーグルのような形状で目の前に3Dの画面がある状態になるので「ヘッド マウントディスプレイ」と呼ばれています。バーチャルリアリティを体験できるアプリケーションとセットで使われます。
 2014年に代官山で行われたThe Big Paradeという音楽×ITのカ ンファレンスイベントで、「Oculus Rift」を体験しました。立った状態で、手すりにつかまり、オキュラスリストをかけて、3D動画によるジェットコースター の疑似体験をしました。スピードや落下感があまりにもリアルで、腰が引けて、ス タッフに背中を支えられてしまいました。これが自宅で体験できるようになると、映像表現も大きな進化を遂げると実感しました。「疑似体験」の質の高さは半端ではあ りません。
 腕時計型のウェアラブルデバイスは、「スマートウォッチ」という表現も使われま すが、「時計の再定義」というよりは、腕時計の形をした、もしくは腕時計と同じよ うに装着するデジタルデバイス、という解釈が自然です。すでに、他業種の会社から さまざまな形の商品が発売されています。
ナイキは、2012年に「Fuel Band」という日常のあらゆる動きを数値化し、記録できるリストバンド型ウェアラブルデバイスを発売しました。売り切れが 続くような人気商品でしたが、2014年に開発からの撤退が発表されました。僕も 欲しいと思っていたのでとても残念でした。撤退の理由は不明ですが、現状のスマートフォンと連動したインターフェースとして腕輪型デバイスが機能することは実証できたので、他社との連携なども含め、次世代に向けての検討をしているのではないか と勝手に推測しています。腕時計型のウェアラブルデバイスは、導入期を過ぎ、これから本格的な普及期に入ると思います。
 腕時計型の場合のポイントの一つに、健康管理というテーマがあります。脈拍や血圧など、腕に常時装着していることで入手できる情報をクラウド上で管理し、世界中 の医療機関からもアクセスできるビッグデータができれば、医師の診断も精度が上がることでしょう。
 将来的には、血圧や脈拍に急激な変化があれば、緊急連絡がいくような仕組みにすることも可能です。まさに毎日、健康診断しているようなものですね。(後編に続く)
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<2020年のPost Script>
 ウェアラブルデバイスに関しては、期待が高かったほどには、実際は普及しなかったというのが現在地点のようですね。誰がスマートフォンを持つ時代の「次」のデバイスは、様々な産業に大きな影響があるので、注目度は高いですが、思った以上に時間がかかっています。5年前に書いた内容は今も有効で、そういう意味では予測が外れたということではないと思いますが、期待値が高いまま、具体は広まらずに足踏みしています。新規事業、特にスタートアップは「タイミング」が重要だとよく言われますが、タイミングを読むことの難しさを改めて感じました。
 2020年になっても、「ウェアラブルデバイスの本命」が見えてこないとは意外です。音声認識の技術とクラウド処理が進んで、スマートスピーカーの普及が一般化し始めているのと対照的です。
 「メガネ型」については、VRやARの文脈からのデバイスの発展や裸眼で見える3D表現などに追い抜かれてしまいそうです。一番イメージがしやすかった「腕時計型」も、ヘルスケアに関する技術の進捗待ちになっている印象です。高血圧の薬を飲んでいる僕としては、自動的に血圧を測って、高くなったらアラートしてくれるツールが出たら即買いたいなと思います。

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