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最終章:時代を予見する力を持とう

 序章で紹介した田坂広志氏の言葉に、「未来を予測はできないが、予見はできる」 というのがあります。
 変数が複雑に絡みあう未来を正確に予測するのは不可能です。宝くじの当たり番号も競馬の勝ち馬もわかりません。プロ野球やJリーグの優勝チームすら確実に予測す ることができないのが未来です。
 けれども、歴史の流れを知り、現状を正確に把握し、その本質的な変化を見抜けば、おおまかな行き先、方向性について「予見」することは不可能ではありません。
 僕は数年前に、音楽サービスの近未来が予見できている自分に気づき、驚きました。音楽ビジネスの未来について必死に考え続けていたからだと思います。
 音楽の章の中で紹介した、スポティファイに代表されるオンデマンド・定額課金型 のストリーミングサービスの合従連衡がはじまることは数年前に予見できました。こ のビジネスモデルは、権利者に売り上げの約7割を支払うモデルで利益率が低く、 サービスの差異化にも限界があります。巨大化してスケールメリットを求める力学が強く働きます。おそらく世界規模で2つ、多くて3つに収斂されることが予見されます。ジャンルに特化するサービスや、インド、ブラジルなど自国の音楽文化が豊かでそれだけで完結し得る国や、中国のように政府の統制が厳しい国でドメスティック (内国型)サービスが存在するケースはあるでしょうが、グローバルにみると世界で 数社に絞られるはずで、その席をめぐる争いはすでにはじまっています。フェイスブックとの関係が深いスポティファイが有力候補であることは間違いありませんが、 アップル、グーグル、アマゾンといったネットの巨人達も黙っていません。スマートフォン製造メーカーとして世界でシェア最大のサムスンも侮れませんし、マイクロソフトも諦めていないでしょう。KDDIが子会社化しているアジアナンバー1である台湾発のKKBOXはダークホースといえるでしょう。この戦いに参戦するとすれ ば、2015年は、そろそろタイムリミットで、これから音楽系サービスを立ち上げ るのであれば、オンデマンド・ジュークボックス型のストリーミングサービス以外で活路をみいだす必要があるでしょう。世界でこのような見立てをしているアナリスト がいるかどうかは未確認ですが、僕はこの予見にはかなりの自信を持っています。
 2015年1月に、この予見を裏づけるニュースがありました。ソニーが自社による ストリーミングサービス「MUSIC UNLIMTED」の中止と、スポティファイと提携した「PLAYSTATION MUSIC」の開始を発表したのです。日本 の会社が候補からなくなるのは残念ですが、オンデマンドで月額課金型のストリーミングサービスの分野でのレースから降りるというソニーの判断は賢明だと思います。
 ただ、日本国内の「PLAYSTATION MUSIC」のサービス開始は未だ検 討中という残念な姿勢です。日本にも3万人くらいの MUSIC UNLIMITED ユーザーはいるはずで、ユーザーに対して無責任です。ソニーグループの経営戦略に一 貫性がないことも露呈してしまっています。1日も早く、平井社長が提唱する「ワン・ ソニー」の精神で「PLAYSTATION MUSIC」の日本での開始を望みます。
 本書ではとり上げられなかったデジタルコンテンツの分野としてソーシャルゲーム があります。あらゆるコンテンツが無料化との戦いを強いられ、コンテンツ業界がビ ジネスモデルの「再構築」に四苦八苦している中、最も順調に収益を上げているのが ソーシャルゲームのマネタイズモデルです。無料で多くの人に遊ばせながら、ヘビー ユーザーにたくさんのお金を使わせる、フリーミアム型のビジネスモデルは全てのコ ンテンツ産業が学ぶべき教材です。人が人を巻き込む仕組みと、「アイテム課金」という「フリーミアム」応用型のマネタイズモデルは、さまざまな示唆を僕たちに与えてくれます。
僕のホームグランドであるアーティストマネージメントにおいては、ファンクラブ を改変して、「ソシャゲー型」にするのが急務だと思っています。旧来型のファンク ラブのモデルは、コンサートチケットの優先予約と会報発行などを売りに、年間60 00円程度の一律料金の会費制になっています。有名になったアーティストのファン に会費を払わせるという、いわば「囲い込み型」のビジネスモデルです。ソーシャルメディアの普及で、この従来型ファンクラブのモデルが時代遅れになっています。熱心なファンには「アイテム課金」型のメニューを用意して、好きなだけお金を遣って もらい、同時に、アーティストや楽曲を拡散する、エバンジェリストの役回りも務め てもらうのが今の時代に合っています。端的にいうと、「会費をたくさん払ってくれ たら、ポスターを渡しますから、目立つところに貼ってきて下さい。その写真をツ イッターで投稿して下さい」というようなサービスです。人が人を集める仕組みは、 アーティストビジネスでは、ソシャゲー以上に有効だと思うので、ファンクラブのビ ジネスモデルの「再構築」に、ぜひトライしてみたいです。
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<2020年のPost Script>
 5年前の認識を特に訂正の必要は感じませんでした。
 ただ、ストリーミングサービス寡占化の動きに対して中国IT企業の言及が一切ないのが、変化を物語っていますね。巨大な消費市場と共産党政府のファイヤーウォールを使って外資サービスを排除する中国IT企業振興策によって、BATを始めとしたIT財閥が中国に出現しています。音楽サービスについては、TENCENT(騰訊)が強く、Spotityとは株を持ち合うことで、お互いのテリトリーを分け合ったようです。Spotifyは中国でのサービスは、少なくとも一旦は、諦めたのでしょう。TENCENTは当初Spoticyの買収を望んだとの報道もありますから、桁外れの資金力が窺えますね。
 音楽サービスは諦めたソニーですが、アニメとゲームが絶好調で好業績をこのしています。グループ内の連携も取れているような印象です。

 エンターテイメントとコンテンツビジネスの状況を俯瞰して横断的に読み解くこの本の視点は僕がスタートアップを夜に送り出す時のベースとなる視点でもあります。
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