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アルケミーという名の実験は成功したのか

はじめに

《Alchemy》
[名]
1. 錬金術◆不可算
2. 魔術、秘術、秘法、魔力
発音 ǽlkəmi、カナ アルケミィ、変化 《複》alchemies、分節 al・che・my

英辞郎 on the WEBより

アルケミーとは:
「アルケミー」は、MTGアリーナのフォーマットです。スタンダードをベースに、デジタル・マジックならではの新規カードや再調整されたスタンダードのカードが使えるこのフォーマットでは、変化が早く常に進化を続ける体験を味わえます。

マジック:ザ・ギャザリング公式HPより

2021年12月9日にアルケミーという公式フォーマットがMTG Arena上で制定されて以降、デジタル専用カードを中心に回るこのフォーマットは常に界隈に賛否両論を巻き起こしてきた。

アルケミーは、「デジタルならではの利点を活かしてより強固で多彩な環境を作ることができる」とWotCも制定時に述べている。
そして、ここからは筆者の推測を含むが、この「これまで以上に多彩で挑戦しがいのある環境」はスタンダードのような紙の環境にもいずれ求められるもので、WotCはそれも見据えてアルケミーで多彩な環境を作る実験をしているはずである。

実験なので成功もあれば失敗もある。
そこで本記事では、筆者がWotCの中の人になり、アルケミーでこれまで2年半ほど行ってきた実験の成果を紹介しようではないか!

なお、本記事は下記のラード氏の記事を大いに参考にさせていただいている。
ラード氏はアリーナオープン入賞6回のリミテッド強豪とは思えない記事を日々執筆しており、是非そちらも参照されたい。


実験失敗…

《執拗な仔狼》実装当時のスタンダードは緑単アグロが環境Tier1の一角であり、その緑単に実質1マナ2/3のクリーチャーを与えるのはあまりに楽観的でした。
そこで、(アルケミー:イニストラード現在)環境において存在感のない赤単デッキを強化すべく、緑から赤にリメイクしたカードを実験的にデザインします!
これにより赤系のアグロデッキを選択するプレイヤーが増えることを期待しています。

うん、良調整、良調整!

《現実の断片化》は各種力線から《聖トラフトの霊》を1ターン目にサーチするという私たちの想定していない使われ方で環境を支配してしまい、私たちはこれを重く受け止めています。
そこで、適正に使用されるために、完全ランダム・2マナ・追放ではなくデッキに戻す効果にした《ゾヨワの裁き》をデザインしました!
このカードは適正なカードパワーを有していると考えており、様々な競技シーンでの活躍を期待しています。

うん、良調整、良調整!

全カードに事実上「続唱」を付与する《舞台座一家のお祭り騒ぎ》のカードパワーは私たちの想定以上に高く、マナコストの再調整を以てしても様々なコンボの温床となるため、他の複数のカードを再調整・禁止せざるを得ませんでした。

私たちはやはり続唱は個別のカードにのみ付与されるべきだと考えを改め、「発見」をデザインしました。
《血編み髪のエルフ》もモダンで解禁されて以降は適切なカードパワーを示しており、既に続唱がメカニズムとして問題ないことは示されています。
そこで、《血編み髪のエルフ》と同じ4マナで、速攻を廃し、ETBにキャスト限定の安全弁までつけた《地質鑑定士》をデザインしました!
打ち消しにも弱くなっており、スタンダードやパイオニア範囲で《血編み髪のエルフ》の代替としての活躍が期待されます!

うん、良調整、良調整!


実験成功…?

2マナ火力にアドバンテージを付与することの効果を《静電破》で検証し、私たちはさすがにそれが軽すぎると理解しました。
そこで、3マナ火力で同様にアドバンテージを稼げる《ナヒリの戦争術》を生み出しました!
赤系デッキを悩ませる《黙示録、シェオルドレッド》も倒すことができる高火力にデザインしたため、間違いなく赤単デッキの救世主になるでしょう!

みんな5点火力は《魔女跡追いの激情》と《焦熱の射撃》を使ってるって?
気のせい気のせい!

タップインの代償に終盤のマナフラ受けになる門サイクルは、HBGのリミテッドにおいて退屈なゲームを少なくするため大変好評でした!
これを参考に我々はONEの球層サイクルやLCIの洞窟サイクルを創造し、これらも大変多くの好評を得ることができました。

どの環境もアグロ強すぎないかって?
気のせい気のせい!

出すだけでアドバンテージを確定する《運命の占者》のカードパワーは規格外であり、私たちは泣く泣く再調整を行いました。
この反省を活かし、ETBではなく攻撃誘発とし、手札ではなく衝動的ドローにする代わりに、2マナと軽くエスパーカラーから赤単色に変えた《太陽の執事長、インティ》を創造しました!

原型をとどめてないって?
気のせい気のせい!

《結束した大口、ロスガ》の効果は次のクリーチャーに限定されるため、アルケミーとは思えないほど低いカードパワーとなり私たちは反省しています。
そこで、5マナにする代わりに後続を全て強化できるようにし、計画で使用感もロスガに近いものにした《鉄道の喧嘩屋》を発明しました!
私たちはこれが構築で間違いなく使われるカードパワーであると信じています。

リミテ番長が生まれただけだって?
気のせい気のせい!

《雪生まれの身代わり》は刺激的なカードで大変好評でしたが、Xシングルシンボルはあまりに軽すぎました。
そこでスタンダードに適したカードパワーにするためにXトリプルシンボルに調整しました。
トリプルシンボルはさすがに重たいと考え、生成する個数を増やすことでカードパワーを調整しました。

スタンダードに数十マナ平気で出すデッキがあるだって?
気のせい気のせい!

《ナイトクラブの用心棒》を呪文もバウンスできるようにした《タリオンの玉座守り》は小気味良いカードパワーで好評でした!
この効果は紙でも再現できると考え、《エイヴンの阻む者》という形でこれをリメイクしました!
このカードは適切な範囲で高いカードパワーを有しており、私たちは大変満足しています!

なんか白くなってないかって?
気のせい気のせい!

《街裂きの暴君》のランデスorバーン効果は非常に強力で、環境での使用率も支配的となり私たちは反省しています!
そこで、ランデス効果を強制にする代わりに基本土地を与えるようリメイクしました!
驚くべきことにこのランデスは対象を取らないため、あの《睡蓮の原野》すら破壊できます!

下環境で4マナの対策カードは間に合わないって?
気のせい気のせい!

《時計技師、ルスコ》のような《真夜中の時計》という別のマナファクトを創出する効果は大変好評でした!
この効果をなんとか紙でも実現できないか考え抜いた末に、私たちは《落星の学者、ロクサーヌ》を生み出すことに成功しました!

そもそもロクサーヌが紙と思えない効果だって?
気のせい気のせい!


実験成功!

環境のクリーチャーのインフレに合わせ、私たちは3マナの全体除去カードが白にも必要であると考え《神聖な粛清》をデザインしました。
しかしながら、先行3ターン目までにアグロデッキが展開したすべてのクリーチャーを追放できてしまうのはあまりに強力であり、速攻を持たない赤以外の環境のアグロデッキの多くを駆逐してしまいました。

そこで、私たちは3マナ以下→2マナ以下と対象を狭める代わりに、エンチャントやバトルのようなパーマネントにも対処できる《一時的封鎖》をデザインしました。
このカードは3マナのパーマネントに対処できない点でアグロデッキの勝ち筋を残しやすく、適正なカードパワーに留まっていると考えます。

こういうのでいいんだよ、こういうので!

《銀行への仕事》は継続的なアドバンテージ源として優秀なカードですが、赤黒デッキにおいては同じマナコストの《波の巨人、クルシアス》という強力なカードが優先され、なかなか活躍することはできませんでした。

そこで私たちはより幅広いデッキで使用されるカードとすべく、赤単色の《ファイレクシアの幻視》をデザインしました。
マナコストは1マナ重くなっていますが、宝物トークンの代わりに永続的に使用可能なパワーストーン・トークンを生成できるため、ビッグレッドのような赤のミッドレンジデッキをサポートすることを期待しています。

こういうのでいいんだよ、こういうので!

《海塔への幽閉》は除去でありながら「二体掛かり」を有する《衛兵隊の兵士》を創出するカードであり、事実上1:3交換を取れるカードとして非常に強力でした。
このカードに代表される「二体掛かり」は特にリミテッドにおいて強力であり、アルケミーホライゾン:バルダーズゲートのリミテッドにおいて白が圧倒的な勝ち組カラーとなってしまいました。

そこで、《衛兵隊の兵士》の代わりに傭兵・トークンを生成する《法による束縛》をデザインしました。
このカードパワーは《海塔への幽閉》に比べると適正なレベルであり、リミテッド環境を支配するほどの存在感は示しておりません。

こういうのでいいんだよ、こういうので!


実験大成功!

私たちは《チーム結成》のカードデザインが美しいと感じており、何とか似た効果を紙で再現できないか熟慮を重ねました。
その結果、ライブラリーの総数を数えることなく近い枚数からカードを探すことができる、《泥沼の略奪》をデザインしました。
計画を持たせることでいつ唱えるかをより戦略的なものとするこのカードをデザインできたことに、私たちは今も満足しています。

う~ん、マンダム!

私たちは《自我破砕》のような相手自身のクリーチャーを脅威とさせる効果は、青白の狡猾さを強く表しており大変気に入っています。
そして《反射網》は最近そのデザインに成功した好例であり、すぐさまそのデザインを紙に取り入れられないかの検討が始まりました。
幸いにも私たちはこのデザインが装備品と相性が良いことに気づき、《同化の神盾》というリメイクに成功しました。
クリーチャー除去では脅威を取り除けない点は《反射網》にも勝り、構築でも活躍できると確信しています。

う~ん、マンダム!

《待ち追いの鑑定人》は当初《鏡割りの寓話》との強いシナジーにより過剰なカードパワーとの評価もありましたが、私たちとしては適正なカードパワーでデザインできていると信じていました。
それを証明すべく、私たちはほぼ同等の効果の《敵意ある調査員》を紙でデザインしました。
公開当初、《敵意ある調査員》に対しては様々な評価がなされていたように思いますが、今までのところスタンダード・パイオニアの競技シーンにおいて存在感を示しながらも適正なカードパワーを保っています。
私たちの《待ち追いの鑑定人》に対する評価が間違っていなかったことを証明でき、大変光栄です!

う~ん、マンダム!


おわりに

いかがだったであろうか。

このようにアルケミーという名の実験は着々と成果を残してきており、特にここ半年ほどの成功例の多さは目を見張るものがある。

アルケミーを制する者は、紙をも制す。
皆さんもデジタル専用カードの飛び交うアルケミーで今まさに行われている実験を是非体感されたい。




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