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私たちのハッカソンはどこに繋がったか ?(2017/4)

私の勤めている放送局は2014年から3回にわたって、大阪の本社でハッカソンを実施しました。以下は、その成果について私が2017年の4月に系列の刊行物に投稿した文章です。

私たちはこのハッカソンをやったことが、旧来のテレビの悪弊から脱するのに大きな力があったと考えています。もちろんまだその泥沼から抜けきってはいないのですが、それぞれの社員が「あ、いつまでもここにいてはいけないんだ」と気づくきっかけにはなったと考えています。

少し古い文章になってしまいましたが、せっかく「放送とインターネット」というマガジンを作ったので、ここにも転載しておきたいと思います。お読みいただければ幸いです。


ハッカソンでなくても良かった

別にハッカソンでなくても良かったのです。ただ、このままテレビの閉じた空間に籠もっていてはいけない、外の、とりわけインターネットの世界と繁がりたい、と考えたのが最初でした。

それでまず大阪市が中心となってGRAND FRONT OSAKAに作った大阪イノベーションハブに参加しようと考えました。もっとも、それを会社に具申したころには、既に世間で流行りつつあるハッカソンの実施を意識してはいましたが…。

ハッカソンとは一体何なのか? ここではあまり詳しく説明しません。

「HackathonとはHackとMarathonを合成した造語で…」というのは、「アメリカンフットボールは4回の攻撃で10ヤード進むと…」と同じ定型句で、そんな説明で関心のない人を引き込めるとは到底思えないからです。

ただ、基本線だけ押えておくと、

① エンジニア、デザイナー、プランナーが集まって、予選のアイデアソンも含めると丸3日、ほぽ缶詰になってITのプロダクトを作る。
② チーム参加もあるが、個人で参加して初対面の人とチームを組むのが基本。
③ アイデアやプレゼンを競うイベントではないので、いくら発想が優れていて発表が上手でも、作ったアプリやガジエツト、サービスなどが動かないと評価されない。

ということかと思います。

とは言え、私たちも最初はハッカソンなんて見たこともなくて、まずは手分けしてあちこちに見学に行くことから始めました。

大きかったのは我々と同じ2014年にTBSさんが先んじてハッカソンを開催されていたこと、しかも、そのパートナーがNTT西日本という関西の企業で、開催場所も大阪であったことです。私たちは勉強するつもりで押しかけて、逆にその面白さの虜になりました。

放送局らしいハッカソン

初回は2014年10月の最終土曜にアイデアソンを、翌週の土日にハツカソンを開催しました。50名の想定に対して120名を超える応募があり、正直驚きました。

テーマは放送局らしいものをということで、「ITで視聴者をアッと言わせる新しい番組を生み出す」としたのですが、しかし、実際にやってみると、 一般人にテレビ番組を考えてもらうのはハードルが高く、そう簡単に面白い企画は出て来ないと後から思い知りました。

ただ、私たちが考えたもうひとつの仕組み、決勝のハッカソンに進んだ8チームにひとりずつ当社の社員を加えるという試みは割合うまく機能し、参加者と当社の社員の間に、ある種の化学反応を起こしたようでした。それは今までに経験したことのないインタラクティブな物づくりであったのかもしれません。

ハッカソンの最大の成果はそれでした。3回実施して3回とも、 一番大きな成果はそれでした。そして、その効果は参加者のみならず、スタッフとしてこのイベントに加わった社員たちにも波及しました。

1年目は冷笑的だったのにいざ見てみると面白そうで、来年は是非手伝いたいと言ってくれる人も出てきました 。一方、敗れたチームのメンバーからは雪辱を期した番組企画書が出てきました(結局放送には至りませんでしたが)。

アプリが目的ではない

第2回のハッカソンは2015年の10月末から11月にかけて実施しました。今度は予め6つの番組やイベントを提示して、それをさらに良くするための斬新なITサービスの開発を求めました。

その結果、決勝に進んだうち、優勝した企画「てくてくの書」が当社のイベント「平城宮ラジオウオーク」で(ガジェットの量産ができなかったため「試験的に」ではありましたが)採用され、別の企画「VOICE CHOICE」が実際にアプリ「トラなび」になってラジオのプロ野球阪神戦の中継で使われ始めました。

でも、アプリができ上がることがハッカソンの目的ではありません。もちろんそうなれば嬉しいのですが、いずれにしても2週間やそこらでアブリを完成し、審査も通過して一般公開までこぎつけるのは無理です。それはあくまでハッカソンが終了した後の別展開なのです。

また、新規事業やベンチヤー育成に繁げるべきだと言う人もいますが、それはハッカソンとは異なる発想の展開です。

3年違続で参加してくれたデザイナーのひとりが言っていましたが、ハッカソンはむしろスポーツのようなものなのです。実業に直結するからではなく、交流を通じてしか得られない無形の何かを求めて人が集まるのです。

それを受け止めるために私たちは、 1年目から参加者、API協資社、スタッフのためのFacebookグループを開設しました。それはイベントの展開を点から線に変え、情報拡散のハブにもなってくれました。

2回目のハッカソン終了後、ITのことはさっばり分からないと言っていた営業マンがいきなりSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト=アメリカの有名なITと音楽のイベント)を視察に行きたいと言い出して周囲を驚かせました(そして、実際に会社の研修制度に応募して行ってきました)。

さらに彼はハッカソンに参加した編成マンと組んで、自ら企画・セールスしたIT系の単発番組2回のOAを実現しました。

全てが繋がって広がる

さて、3度目のハッカソンは少し時期をずらせて2017年の2月に実施しました。170名を超える広募があり、多くの協賛企業からご支援をいただきました。また、今回は初めて予選の段階から10名規模の社員(若手から大物プロデューサーまで)と3人の芸能人にも参加してもらい、加えて(制作畑出身の)当社の社長にも予選から審査員を務めてもらいました。

今回のテーマは「今が旬の6つのテクノロジーを使って当社の番組・イベントをもつと面白くするITサービスを開発しよう!」でした。この2年あまりの間にVR(仮想現実)やAI(人工知能)などの技術が長足の進歩を遂げたこともあり、非常にレベルの高いものになりました。

優勝したのは、芸能人チャレンジャーとして参加した漫才コンビ「ラフ次元」の空道太郎が加わったチームで、 VRを使って漫才コンビのツッコミ役を体験するというものでした。リハーサルでは動かなかったシステムが本番では見事な挙動を見せ、審査員全員一致の優勝を勝ち得ました。そして、その動画は当社直営の配信サイトに上がり、本社周辺で毎年大きく展開しているイベント「チャリウッド」でも展示されることになりました。

審査員のひとりからは「このハッカソンはなんでこんなに盛り上がるの?ちょっと、これ、 おかしいよ」とのお言葉をいただきました。

ファシリテーターの伴野智樹さんからは「日本三大ハッカソンのひとつに育った」という、過分なお褒めもいただきました。

それはひとえに参加者とスタッフ、協賛企業が繋がって広がって行った結果だと思っています。ここで知り合った人たちとの交流は決して途切れることなく続いています。当社直営の動画配信サイトのコンテンツ管理システムやデジタイズのワークフローも、実はこういう交流の中からできあがってきたものなのです。

私たちがここ何年かでやってきたマルチスクリーン型放送研究会(マル研)、ハッカソン、動画配信、チャリウッドなどのイベント、そしていくつかの番組が、ここに来て漸く繁がり始めた気がします。そしてこの流れはいつか視聴者をも巻き込んで行けるものだと信じています。

多分それがハッカソンの成果なのです。長らく単なる一方通行の箱でしかなかったテレビが、ある意味インターネットと同じように「繁がって広がる」ものへ生まれ変わるためのきっかけになってくれればと思っています。

私たちはそれがやりたかったのです。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

この記事 ↓ の中で、参加者のひとりであった池澤あやかさんが MBSハッカソンについて語ってくれています。

最後のハッカソンから4年経ってもまだ憶えていてくれて、全然無関係なインタビューで MBSハッカソンの名前を挙げてくれたことを、私たちはものすごく嬉しいし、誇りに思います。

私たち自身、運営側にとってもそうでしたが、参加された皆さん一人ひとりにとっても、あれがナニモノかであったら良いなあと思っています。
改めてありがとう。

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