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『愛なのに』 #映画感想文

映画『愛なのに』を観てきた。城定秀夫監督、今泉力哉脚本。

今泉力哉監督の『街の上で』を観た人なら記憶に残っているかもしれないが、あの映画で中田青渚が演じた衣装スタッフの役名が「城定イハ」で、彼女が自分の名前の漢字を説明するときに「映画監督の城定秀夫」を引き合いに出していた。

僕はあれを見て、「ははぁ、今泉力哉は城定秀夫のファンなのか。ひょっとしたらこれは今泉力哉から城定秀夫へのラブ・コールなのかもしれないな」と思った。

同じ年に公開された今泉監督作品『あの頃。』では脚本が冨永昌敬で、この組合せもすごいなと思って、映画を観たら実際面白くて、僕は twitter に「今度は今泉脚本、冨永演出の映画を観たい」と書いたりしたのだが、

(「今井脚本」は「今泉脚本」の書き間違い)

そうこうしていると耳に入ってきたのが今回の L/R15企画である。

今泉監督と城定監督のコラボレーションとして、この『愛なのに』と『猫は逃げた』の制作が発表され、前者は今泉が脚本を書いて城定が演出、後者は城定が脚本を書いて今泉が演出と聞いて驚いたのだった。

僕は『愛がなんだ』で完全にノックアウトを食らって、それ以降の今泉作品は全部観ているし、それより前の作品も何本か遡って観た。

一方、城定秀夫については『アルプススタンドのはしの方』が初めてで、それまで名前も知らなかった。あの映画は原作となった高校生の戯曲のほうにスポットが当たって、監督については「それを料理した手練れ」みたいなトーンで軽く触れられただけで、それほど注目もされなかったように思う。

でも、あの映画のテーストと今泉力哉のテーストは合っているなと思った。

その後、佐藤二朗原作・監督・脚本・出演の『はるヲうるひと』を観て、エンドロールに「脚本協力 城定秀夫」の名前を発見し、その「協力」の内容や度合いは分からないが、世間で言われているように、確かにこの人は幅が広くて多才な人なのだと僕は直感した。

僕は観ていないが、城定秀夫は首藤凛の脚本による『欲しがり奈々ちゃん~ひとくち、ちょうだい~』も撮っている。

さて、前置きが長くなったが、この『愛なのに』はそういう風に他の監督や脚本家と精力的に組んでいる2人の監督の夢の合作第一弾なのである。

で、実際映画を観てみると最高に面白かった。よくもまあこんな設定を考えたなあと思う。

古本屋の店主・多田浩司(瀬戸康史)は万引をした高校生・矢野岬(河合優実)に「結婚してください」と言われる。前からずっと好きだったのだそうで、その後も毎日のように告白の手紙を書いて古本屋に届けに来る。

しかし、多田のほうは学生時代に告って振られた一花(さとうほなみ)への思いが吹っ切れない。その一花は亮介(中島歩)と同棲中で結婚式の準備の真っ只中である。その亮介はと言えば、2人が今まさにお世話になっているウェディング・プランナーの美樹(向里祐香)と浮気している。

ワンカット長回しを中心とした画作りで、映画はテンポ良く進んで行く。古本屋の狭い店内を活かした構図も面白い。

一つ感心したのは居酒屋のシーン。この映画の中では多田が旧友2人と飲むところと、意気消沈した一花が独りで飲むシーンの2つがあるのだが、こういう場合は背後に他の客を配置した上で、人物の正面から撮っていることが多い。

ところが、この映画ではカメラは人物のずっと手前にあり、背後にはもちろん他の客がいるが、カメラは見切れている手前の客たちを舐めながら人物を捉えている。とても自然な居酒屋の風景だ。

台詞は如何にも今泉力哉だと思うリアルでおかしみの感じられるもので、映画館の中で時々笑いがこぼれる。城定秀夫は「(恋愛の)エグ味や下世話な要素を笑いに昇華している」と言っている。さとうほなみは「もぉー。全員がおバカさん!」と言っている。そういう映画である。

次作の『猫は逃げた』ともども、お互いにもらった脚本にいろいろと書き足したり構成を変えたりしたようだ(だから両作ともクレジットでは共同脚本になっている)。ハナからそれを想定してあまり書き込んでいなかったりした面もあるようだ。

今泉力哉はこう言っている:

どうしても自分は人物を座って喋らしちゃうことが多いんですよ。でも、『愛なのに』はカメラワークがしっかりしていて人物の動かし方しかり、すごい勉強になるなあと思いました

(パンフレットより)

人物の動かし方が城定さんはアクティヴで、今泉ベースの世界観なのにテンションの上がり方が熱っぽくなるというのはありますよね。

(パンフレットより)

この辺を読んでも2人の組合せがうまく化学反応を起こしているのがよく分かる。

ともかくパンフレットに載っている対談がめちゃくちゃ面白いのである。

この企画がどんな風に立ち上がって、それぞれの映画のタイトルはどんな風に決まって、どのシーンがどんな風に書き足されたか、等々、今泉/城定ファンには大受けすること請け合いである。

それから、セックスシーンは昔ピンク映画を作っていた城定秀夫らしく、結構執拗で、これは今泉監督作品からは出てこないなと思った。

ちなみに、『窮鼠はチーズの夢を見る』でも好演していたさとうほなみは“ゲスの極み乙女。”のドラマーだから、まさか脱ぐとは思っていなくてびっくりした。

ま、それは置いといて、めちゃくちゃ楽しい映画だった。その一方で、「愛を否定すんな!」って、すっげぇ啖呵だなと思った。そういうカタルシスもある。愛に溢れた映画だ。

見終わった途端に『猫は逃げた』が待ち遠しくてたまらなくなった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

お題募集 #映画感想文 に応募するために、自分のブログからいくつか映画関連の記事を転載してみました。2/28 が締め切りなので、この記事で一旦終わりにします。

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