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テレビの中の固定観念──商品名と裏番組

“テトラポット問題”を読んで

土木学会WEB情報誌『from DOBOKU』〜土木への偏った愛 さんの記事「祝結婚!NHKを巻き込んだaikoさんの"テトラポット問題"を振り返っておく」を読んで、ああ、NHK ってそうだったなあと思い出しました。

NHK は「宣伝行為に加担しない」というポリシーを守るために、かつてはかなり厳格、と言うか過敏な言葉狩りをやっていました。

上記の記事にあるように、山口百恵の『プレイバックPart2』の「真っ赤なポルシェ」が「真っ赤なクルマ」に言い換えさせられたとか、aiko の『ボーイフレンド』の「テトラポット」が議論の対象になったとか…。

民放でももちろん商品名を安易に一般名称として使わないように、例えば「ホッチキス」とか「宅急便」などと言うのは避けるようにはしています。しかし、「真っ赤なクルマ」はどう考えても行き過ぎでしょう(笑)

「真っ赤なクルマ」では何の状況も表していません。「真っ赤なポルシェ」だから絵が浮かぶのであって、だから詞になり歌になるのです。これを同じ意味だからクルマで良いだろうと考えるのは作詞者の阿木燿子に対する冒涜だと僕は思います。

「真っ赤なクルマ」なんて歌ったら、下手したら、「何それ? 消防車?」とか言われそうですし、だいいち著作権法上の同一性保持権の侵害じゃないのでしょうか?

NHK が宣伝に加担しないと言うのであれば、それはそれでよろしい。でも、根本的な考え方の問題として、歌詞の中にポルシェが出てくることが、それだけで果たしてポルシェの宣伝になるのか?ということがあります

そこを勘違いしていると思うのです。百恵ちゃんが「真っ赤なポルシェ」って歌ったがために、皆がこぞって「真っ赤なポルシェ買いに行こうぜ!」ってなるのか?(高くて買えないってw)

裏局、競合メディア問題

同じようなことが民放にもあって、民放はむやみに商品名を伏せることはしていませんが、かつては裏番組や裏局、競合メディアの宣伝に繋がることは一切しないというスタンスを貫いていました。

今でこそ Netflix や Amazon Prime の CM がテレビで流れていますが、昔はそんなことはありえませんでした。「そんなものを見られたらテレビ(あるいは自局)が見られなくなる」という理屈ですね。

それは実証や根拠を伴わない単なる思い込み、いや、むしろ謂われのない警戒感、恐怖心と言ったほうが良いでしょう。対戦相手の選手を決して讃えないみみっちいアスリートみたいなものです。

21世紀のラダイト運動

前にも書きましたが、ウチ(MBS)の『情熱大陸』公式twitter が誕生して間もないころ、日曜の夜10時過ぎになると「さあ、そろそろお風呂に入って『情熱大陸』に備えましょう」みたいなつぶやきが結構受けたのですが、そのときにも、

「日曜10時もウチの番組をやっているんだから、そんなことをつぶやかれると困る。お風呂に入っている時間はテレビが見られないんだから」

と怒ってやめさせようとした偉い人がいました。

【註】当初の投稿では「やめさせた」と書いていたのですが、その後の調べで、言われた本人はやめたような顔をして実はやめていなかったことが判明したので、上記の通り訂正しました。ええ社員がおるええ会社です(笑)

(当社調べ)

これではまるで、産業革命期に「自分たちが失業したのは発明された機械のせいだ」と自動織機を破壊して回った手工業職人たちの“ラダイト運動”みたいなものです。

お風呂がテレビの敵だと言うのであれば、全国の家庭のお風呂と銭湯を叩き壊しに行かなければなりません。睡眠も敵ですからベッドも壊す必要があるかもしれませんね(笑)

当時の『情熱大陸』の番組平均世帯視聴率は多分 7~8%程度。仮にそのうちの1割(そんなにいるわけないと思いますが)の世帯で twitter の呼びかけに応じてお風呂に入る人が出てきたとして 0.7~0.8%。でも、そのうち 22時台に JNN(TBS)系列を観ていた人は多くてもその4分の1。

結局 その偉い人が心配した22台の番組平均世帯視聴率への悪影響は 0.2%程度。あくまで計算上、多めに見積もってこの数字。

そんな計算もできずに大騒ぎする“どアホ”です。

何よりもこの怒った人がクソだったのは、日曜22:00 も MBS制作の番組だと言って怒ったことです。キー局の TBS が作った番組だったら別に良かったのです。品性の卑しさ丸出しです。

こういう奴がテレビ界を衰退に追いやったんでしょうね。

仮にほんとにそのつぶやきによってお風呂に入る人が増えて少しぐらい前番組の視聴率が落ちたとしても、それはそれで別にいいじゃないですか。僕らの使命はお風呂にも入らせず睡眠も削らせてテレビを見させることではないと思います。

CM考査

テレビの CM出稿にはそれを受ける局ごとに考査というものがあります。その局が判断して放送するのにふさわしくないと思われる企業は謝絶されますし、ふさわしくないと思われる CM表現は改稿を要求されます。

例えば、出典や根拠を全く示すことなく「売上日本一」とか「日本一安い」などの最大級表現を使った CM は改稿要求の対象となります。

僕が入社して2年目、タイム営業のデスクだった時にこんな例がありました。

某清涼飲料(確かアサヒビールの三ツ矢サイダーだったと思うのですが)のキャンペーンCM素材で「三ツ矢サイダーを○本買うとドラえもんグラスがついてくる」みたいな表現がありました。そして、それを事前チェックしたウチの会社の考査担当者が「この素材は受けられない」と言うのです。

なぜなら『ドラえもん』はウチの番組ではなく、関西では朝日放送(ABC)が放送していたから。ウチの裏番組の宣伝に繋がるような素材は受けられないと言うのです。

困った僕は随分悩み、随分考えました。それは大事なお得意様の意向を何とか通してあげたいと思う営業マン精神からではなく、そんな理由でこの CMが謝絶されるのはどうもおかしい、納得が行かないと思ったからです。

それで僕はこう言いました:

「いや、ドラえもんは ABC のキャラクターではありません。ドラえもんとかサザエさんとかはどこかの局のキャラクターではなく、今や国民的キャラクターなんです」

入社2年目ですよ。我ながらよく考え、よく言ったと思います。そして、なんとこの反論によって(途中の曲折は省きますが)最終的にこの CM素材は受理されたのです。

でも、ここで言いたいのは僕が偉かったということではなく(笑)、考査担当者の理屈はどう考えてもおかしいということです。ドラえもんグラスのプレゼント告知ができないのは「ポルシェ」を「クルマ」に言い換えさせるのと同じように歪んだ考え方です。

「三ツ矢サイダーを買ってドラえもんグラスをもらおう」という CM を見て、それまで見ていなかった人が突然『ドラえもん』を見るようになるでしょうか? ものをよく考えない人の、うわっつらのイメージ論だと思います。

いや、別にそれで『ドラえもん』を見る人が増えても良いじゃないですか。それはテレビ全体の繁栄に繋がるかもしれないのだから。

他局の番組

そう言えばこんなこともありました。つい1年ほど前のことです。

僕は関西テレビ(カンテレ、KTV)が制作・放送した『姉ちゃんの恋人』というドラマがものすごく好きで毎週見ていました。2020年の10月期は完全にこのドラマに嵌っていた感じです。

で、そのことを twitter でつぶやいたら、ちょっとここんとこなかったくらいの大量の「いいね」とリツイートがついてびっくりしたのです。

「いいね」やリツイートしてくれた人の中に何人かリプしてくれた人がいるのですが、「調べてみたらMBSの人じゃないですか! 褒めてくれてどうもありがとう」とか「なんと、MBSの人が…」などと書いてくれています。

ああ、そういうことでまだ驚く人はいるんですね。業界の中だけかと思ったら、視聴者側にもそういう固定観念が染みついているのか、と改めて知りました。

でも、twitter でもつぶやいたのですが、MBS社員がカンテレのドラマを褒めていると思うから驚いたり違和感があったりするのであって、見方を変えればテレビマンがテレビドラマを褒めただけのことで、何も驚くようなことではないのです。

テレビ離れが進む中、今や KTV も MBS も、もはや同じ泥舟に乗っているんだから、ケチくさいこと言うのやめましょうよ(笑)

だから、今後もいいなと思ったものは商品でも、番組でも、何でも褒めます。

逆に MBS の番組でも、とりたてていいなと思わないものや個人的に興味がないものは褒めません。自局のコンテンツなら何でも褒めるような奴はネット上では決して信頼してもらえませんので。

それがこの業界で長く暮らしてきたほなね爺の感慨です。

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