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どこまでが「残業」か? ~約40年前の新人研修で思ったこと、思い直したこと・その5

大昔の某在阪放送局での新人研修時代の話、5つめ。

仮配属

今もやっているのかどうかは分かりませんが、僕らの時代には「仮配属」というのがありました。

僕らの年は正式配属までの期間が長かったこともあって、全員が行かされる放送業務局(今は名前が変わっていますが、要は物理的に電波を送り出しているセクションです)以外に、1~2週間ずつ3つぐらいの部局に割り振られました。

その何番目だったか忘れましたが、僕はテレビ制作局の昼のワイドショー班に仮配属になり、曜日担当ディレクターの下につきました。当時30歳ぐらい、つまり、僕より8つぐらい上の人だったので、仮にアルファベットの8番目の「Hさん」としておきましょう。

その Hさんの後ろを一日中くっついて歩いて、ワイドショーの、引いてはテレビ番組の作り方を見て学んで行ったわけです。あっちこっちにお使いにも行かされました。

大道具さんのところに何かを頼みに行ったらものすごく邪険にされて、「そうか、この人たちは下請けの会社の人たちで、僕は今は何一つできないのに多分この人たちより給料が高いのだ。気をつけて喋らないといけない」と感じたのをよく憶えています。

「宣伝部に熊さんという名前の、本当に熊みたいな女性がいるから、これ渡してきて」と言われて、「そんないい加減な説明で分かるかいな」と思いながら下の階に降りたら一発でこの人が多分熊さんだろうと分かってしまって、びっくりしたり(笑)(どの辺が熊みたいだったかは書きません)

仕事のこと考えたから、ここまで残業

で、朝から晩まで Hさんと一緒にいて、その日は「飯でも食おう」と言われてどこかのお店に行ったんですね。

それで、飯食いながらとりとめもない話をしているうちに、来週月曜日(だったかな?)の新聞ラテ欄のサブタイトルをどうしようかとHさんに言われて、僕がいくつか案を出して、Hさんが「あ、それ良いね。それで行こう」って言ったんです。

で、問題はその直後、時刻は多分8時過ぎだったと思うんですが、Hさんが「あ、今仕事のこと考えたのでここまで仕事な。君も勤務表で8時まで残業をつけておくように」って言ったんです。

僕は幻滅しました。

何やろ、この浅ましくてさもしい先輩は。今までずっと馬鹿話してて、最後にちょっとサブタイの話しただけやんか。それを自分だけやなしに、僕にまで残業つけろやなんて…。

でもね、それから何十年か働いているうちに少し分かってきたことがあるんです。

それから考えたこと

仕事と私生活はそんなにきれいに分け切れないんですよね。でも、何かで測って給料を決めなければいけないので、ただ便宜的に時間で区切ってつけているだけなのです。そして、給料を払うほうももらうほうもそのことをちゃんと分かっている必要があるということです。

そのことは例えば note ではここ ↓ に書いたりしました。

僕らは勤務時間中だけ仕事のことを考えているわけではありません。休みの日に仕事のことを何時間も考えていたり、家に書類を持ち帰って書いたりもしました。会社を出たら終わりではないのです。

工場のラインで作業するような仕事だと、確かに工場を出ると仕事のしようがないかもしれませんが、例えば仕事の内容が単純作業である場合にも、「この単純作業はこうやればもっと効率的になるんじゃないだろうか」とか考えることはあるわけで、それは多分工場で単純作業をしているときではないはずで、本来であれば残業をつけても良いはずなんです。

逆に、僕らは勤務時間中は息もつかずに脇目も振らずに働いているかと言うとそうではなくて、要するに働くってそういうことで、きっちり境界線なんか引けないのです。

でも、会社に数字を出してあげないと会社も困ったことになるので、僕らはどこかで境目を見做して勤務表をつけています。実際に仕事をした時間と勤務表を見比べてどっちがプラスだとかマイナスだとか、そんなみみっちいことはいちいち考えずにやっているのです。

Hさんの「8時過ぎに仕事のこと考えたから8時まで残業」というのは明らかに逸脱した考え方だとは思いますが、Hさんだって休日に仕事のことを考えたことは絶対にあるはずで、それを勤務表につけられたかと言えばそうではないと思います。

僕らは、雇うほうも雇われるほうも、そういうことをきっちり分かって仕事をしているでしょうか? それをちゃんと理解していないと、雇うほうも雇われるほうも変なところに拘って禍根を残すような気がします。

上で参照した記事にも書いたように、今となっては「仕事と私生活は分けられる」という誤った労働観、生活観こそが諸悪の根源だと僕は思うのです。

逆説的な言い方になりますが、仕事と私生活は不可分で切り分けられず、したがって管理ができないのだと知っている者だけが、部下の管理をする資格があるのだと、今では思っています。

あのとき、Hさんの発言に僕は大いに落胆したのですが、それが上で述べたようなことを考える発端になったような気がします。

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