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年功序列の功

facebook に上げたら、そこそこ「いいね!」がついたので、こちらにも上げてみます。昔の原稿をサルベージしてて見つけた文章です。

ウェブマガジン Journal-izm vol.26 2003年5月1日号に投稿したもの。

17年近く前に書いたものですが、今読み返しても私の思いや考え方はそれほど変わっていません。だから、上げてみたんですが、皆さんはどう思われます?

『年功序列の功』

私が勤めている会社は近年になってやっと「年功序列の廃止/能力主義による昇進」などと騒ぎ始めた。世間一般の会社からすれば脳天気なくらい遅れた存在である。

しかし、私はずっと以前から「年功序列もまんざら捨てたもんじゃない」と思い続けてきた。そして最近『会社はこれからどうなるのか』(岩井克人著、平凡社)という本を読んでなおさらその思いを強くしたのである。

その本については実際手に取ってお読みいただくとして、今回は私がずっと感じてきたことについて書いてみたい。

私が勤めている会社の特殊性もあるのだが、実際「現場の仕事が良くできる」ということと「管理職、あるいは経営陣の一員としてちゃんと勤まる」ということはかなり異質である。

もちろん、現場の仕事が良くできた人のほうが、管理職になってから部下の信頼を集めやすいし、部下の仕事を正しく評価することもできる。しかし、だからと言って現場で能力を発揮した人がそのまま管理職/経営者になれば良いというものではない。そこでは論理の流れが逆転しているのである。

「管理職には(できれば)現場の仕事で能力を発揮した人がなるのが良い」のであって、決して「現場の職務能力のあった人が(そのまま)管理職に昇進するのが良い」のではないのである。

だからと言ってアメリカのように、突然社外からプロの経営者が迎え入れられるようなシステムが100%良いと言う訳ではない。

しかし、経営者はまずちゃんと経営を理解した人であるべきであり、管理職はちゃんと部下を管理して彼らの能力を極大化できる人であるべきなのである。そのことが第一にあるべきであって、現場の人間として成果を上げてきたかどうかは二の次なのである。

加えて、一口に「能力で評価する」と言ってもこれは容易なことではない。評価に客観性を持たせるために最近さまざまな評価軸や評価方法が導入されている。しかし、それでも人の評価は別れるものである。割れるものである。

10人が10人とも高く評価するような社員が全くいない訳ではない。しかし、そういう社員は残念ながら100人に1人しかいないのであって、あとの99人については決して衆目の一致するところとはならないのである。

多くの人が「彼は仕事ができる」と言う。しかし、そのうちの1人が「確かに彼はよくできる。しかし、彼にはこういう面があるので、その点だけでもう昇進する資格はない」などと言い出すのである。

そして、周囲の人間の評価の問題だけではなく、一番大きく割れるのは本人と周囲の評価のギャップである。特に昇進しなかった本人には大きな不満が残る。

いくら明快な尺度を持とうとしても完璧に明快にはなりえない尺度で計られる限り、必ず「すっきりしない点」が残ってしまうのである。

私が「年功序列も捨てたもんじゃない」と言うのは、「適当に仕事をして適当な地位まで昇進できればそれでいいや」という甘えた姿勢の現われではないかと言われるとしたら、確かにそういう部分もあるかもしれない。

しかし、言うまでもなく「完全な年功序列」と言うものはないのである。「完全な年功序列」を実施しようとすれば同期入社が全員同時に社長になる必要があるのだから。

だから、年功序列とは言え、そこには「(なんらかの)成果による選別」という要素が必ず入り込んでくる。要は早く見極めるかゆっくり決めて行くかというだけの話である。

いつの間にか管理職の端くれになってしまったけれど、考えてみれば私は決して社長になりたくて会社に入った訳ではない。

高度成長期、モーレツ・サラリーマンの時代には「会社に入ること」「昇進を重ねること」そして「最終的に経営者になること」が一直線上に並んでいたのかもしれない。しかし、今みんなの感じ方は必ずしもそうではないはずだ。

訳のわからない物差しでその一直線上に並べられるよりは、ある時期までは「自分がどう評価されているか」にビクビクしないで仕事に取り組めるほうがよほど会社にとってのメリットが大きいような気がする。

そして、そういうシステムが、実は日本の資本主義の隠れた強みであったはずであり、やりようによっては今後も有効なシステムなのである。前掲の本には確かそんなことが書いてあった。


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