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STRANGER THINGS の7つのポイント

NETFLIX の STRANGER THINGS シーズン1~4、34エピソードを見終わってのメモ。

僕にとっては NETFLIX で初めて観た米国 NETFLIX オリジナルの長編連続ドラマであり、binge watching というのは厳密に言うと1話から最終話まで途切れずに観ることらしいから、これは binge watching とは言えないのかもしれないが、しかし、こんなに集中して何話も連続して観たのは初めての体験である。

これが NETFLIX においてどれくらい典型的な作品なのかは分からないので、あくまで NETFLIX ではなくこの作品に対する感想だが、このドラマのストーリー構築に関して巧いなと思う点をいくつか列挙したい。

当然少なからぬネタバレを含んでいるので、これから見ようという方は(最近増えている、ネタバレ記事で徹底的に調べてからでないと決して観ないという人を除いて)お読みにならないほうが良いと思う。

1)大人は分かってくれない

このドラマは小説や映画の世界に昔からあるテーマのひとつ「大人は分かってくれない」を体現している。主人公は子供たちであり、子供たちだけで異世界の怪物やソ連の陰謀に立ち向かって解決して行く。

それは大人がいなくても子供たちだけでなんとかなったという話ではない。大人が分かってくれないから、仕方なく子供たちが、自分たちだけで体を張って戦ったのである。

大人たちは、いくら言っても異世界とかモンスターとかいう話を信じず、例えばそれは PTSD による幻覚か何かだとしか考えない。自分の知っているものにしか解釈できないのである。

このドラマはそんな大人たちの固定観念を破る物語であった。

かなり定番のテーマだと思うが、とても上手に展開していると思う。自分たちの持っているデータを徹底的に分析してドラマを作ると言われる NETFLIX のことだから、最初からこういうのが当たるという道筋が見えていたのかもしれない。

ただし、警察署長のジム・ホッパーと失踪した少年ウィルの母親のジョイスだけは、最初から、固定観念に囚われずに、自分の見たものと子供たちの言うことを信じて子供たちの側につく大人として描かれている。この辺りの設定も非常に巧い。

この2人の存在がなければストーリーはうまく転がらないし、嘘くさいものになってしまっただろう。

2)仲間が一人ずつ増えていく

子供たちだけで強大な悪に立ち向かう上で(いや、それは大人たちであっても同じことなのだが)、大切なことは一致団結である。自分たちは弱い存在なのだから、気持ちをひとつにして力を合わせない限り勝てるわけがない。

そして、さらに大事なことはこの仲間の数を増やすことである。

このドラマでは最初は仲良し4人組の男の子グループ(マイク、ダスティン、ルーカス、ウィル)だったのが、ウィルが失踪することによって一連の事件が始まり、そこに超能力少女エルが加わるところから戦いが始まる。

彼らは中学生だが、ウィルには高校生の兄ジョナサンがおり、またマイクの姉ナンシーも友人の死をきっかけに巻き込まれ、2人は共同で調べ始める。ナンシーと交際していたスティーブは最初は蚊帳の外だったが、ナンシーを追っているうちに一緒に怪物に襲われて、そこから先は仲間になる。

その後もマイクらのクラスに転校してきたスケボー少女マックスや、スティーブのバイト先のアイスクリームショップの同僚のロビン、ルーカスの妹エリカ、ダスティンの無線ガールフレンドのスージーなど、次から次へと「同志」が増えて行く構造になっている。この辺りもかなり巧いと思う。

3)仲間たちは分断される

弱い者たちが団結し、仲間が増えて行くことが巨大な悪へ対抗する力である。それは逆に言うと、その団結が進まない、あるいは崩れてしまうと、大きなピンチに見舞われることとなる。

そこでドラマの制作者はわざと少年たちのグループを分断して見せる。

それはお互いの思い違いであったり、嫉妬であったり、あるいは単なる引っ越しのような距離的な問題であったりする。そのようにしてドラマに起伏を設けているのである。その度に子供たちはピンチに陥る。

やがて彼らは仲直りしたり、あるいは無線を使って連絡を取り合ったり、あるいはエルの超能力によって物理的な距離を縮めて力を再結集する。却々巧い展開である。

特にまだインターネットが一般人には使われていなかった時代なので、トランシーバーが大活躍するのが特徴的だ。

その中で唯一最新技術のインターネットを操るハッカー少女スージーが「インターネット」とか「IPアドレス」とか言うと、マイクたちは「何それ?」となるのだが、スージーが「そのうち分かるわよ。これが世界を変えるから」みたいなことを言うのが非常に面白かった。

4)活躍するのは変な奴ら

活躍するのはちょっと変な奴らばかりである。言わばある意味できそこないばかり。スーパーヒーローなんかいないのである。

唯一エルは超能力が使える少女だが、未完成で、一部の記憶がなく、一度は能力を失ってしまったりする。

少年たちは、劇中に何度も nerd という言葉が出てくる通り、ただのオタクである。シリーズの後半に出てくる、彼らのクラブのリーダー・エディは単なるオタクではなく麻薬の売人であったりする。

ジョナサンはカメラだけが趣味で、人づきあいが苦手な、これもまたある意味オタクである。また、最後のほうに仲間に加わるジョナサンのバイト先のピザ屋の店員アーガイルはエキセントリックを絵に描いたような存在だ。

ナンシーは金持ちの娘でお勉強ができる優等生だが、リーダー的な存在ではない。そして、一番の問題は不良っぽいスティーブとつきあっていることだ。そのスティーブはと言えば、カッコ良くて一時は学校のキングといわれるほどの存在だったが、勉強はまるでダメで、さらに、実は喧嘩してみると意外に弱かったりする。

そして、大人たちで言うと、猪突猛進・激情型のジョイスと超無謀&タフガイのジムに加えて、途中から登場するマレー・バウマンは脳天気な元新聞記者で、ロシア語ができたり、空手の黒帯だったりするが、ところどころでとても間抜けな姿を見せる。

そういう人たちだから面白いのである。そういう人たちが力を合わせて強力な敵を倒して行くところにカタルシスがある。

5)誰も死なない

こういう話だから結構多くの人が死ぬ。ただし、主人公グループの人間は誰も死なないのである。かなり危ない目に遭って何度も死にそうにはなる。あるいは一旦は完全に死んだと思われている。しかし、実は死んでいないのである。

死ぬのは周辺の登場人物ばかりである。

中にはナンシーがスティーブとセックスに夢中になっている間に化け物に殺されるバーバラ(ナンシーの親友)や、ジョイスと交際しており行く行くは結婚しようとしていたボブがジョイスたちを助けるうちに犠牲となったり、マックスの異母兄ビリーが怪物の餌食になったりはする。

そういう事件はそれぞれナンシーやジョイスやマックスのトラウマにはなるのだが、でも、メインの登場人物のグループ、言うならば「こちらの陣営」は誰も決して死にはしないのだ。モンスターに取り込まれそうになったマックスもすんでのところで戻ってくる。

僕自身はそういう設定は好まない。それはあまりにご都合主義の展開であり、リアリズムに欠ける気がするからだ。

しかし、自分が感情移入している人物が死ぬのを好まない視聴者も多いのだろう。この辺りも NETFLIX は自分たちが持っている何等かのデータに基づいてストーリーを構築しているのかもしれない。

6)アメリカ人はロシア人が大嫌い

このドラマを観ている間中ずっと思っていたのは、よくまあこれだけソ連を悪者にするなあ、ということ。悪し様に描くとはまさにこのことである。

最近の若者はソビエト連邦という国を知らないので、小説で読んで「ソ連ってどんなスパイ組織だったんですか?」みたいなことを訊くという話を聞いたことがあるが、まさにソ連=悪の組織という描き方である。

エルたちがせっかく閉じた異世界への穴を再びこじ開けて、そこから怪物をこの世に召喚してアメリカ攻撃の兵器にしようなどと本気で考えている輩なのである。

そして、何人かのロシア人たちは無粋で野蛮なくせにアメリカの商品と文化に強烈に憧れているバカヤローで、非常に戯画的に、と言うかバカにした感じで描かれている。

これ、よく国際問題にならないなあと思う。こういう面ではロシアは寛大なんだろうか(笑)

7)最後の最後

てなことを思いながらゆるりと観ていたら、なんと最後の最後に一人死ぬではないか! ここまで油断させておいてそれはあんまりだ!

しかし、ま、あいつが死なないと物語の収まりが悪いもんな。しかし、あいつだけではなく、もう一人も一旦は死の淵から呼び戻されたとはいえ、いまだに病院で意識不明のままだ。

そのままで番組終わっちゃうって、それはないだろう!

で、え? ウィルによると“ワン”はまだ生きてるって? ウィルがいつものようにその存在を首の後ろ側に感じてるって?

ちょっ、ちょっと。シーズン4で終わるんじゃなかったんかい!

最終話の一つ前まで見終わったところで、「以上が僕の感想である。筋運びに時々あまりに強引なところや、都合よく行き過ぎるところも確かにあったが、いずれにしても非常によくできたシリーズだったと思う」と結びの文章をすでに書いていたのだが、これはえらいことになってきた。

次のシーズンはいつ始まるんだ?

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