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脇を空けて突っ込んで行け!(若い皆さんに、と思って書いています)

私が駆け出しの営業マンだった頃、先輩や上司からいろんなことを言われました。

その一つひとつが格言めいていたり、あるいは交通標語みたいだったりして、今考えるとおかしいのですが、しかし、私も今、年を取ったもんで、時々気がついたら若い人に同じようなテイストのことを言ったりしています。はい、昭和なんですよね(笑)

で、そんな中で、私が当時の上司から言われて一番驚いたのが「脇を空けて突っ込んで行け!」でした。

えっ、脇を空けるの?

え? 脇を締めて突っ込んで行け!──じゃないんですか? と思わず聞き返しそうになりました。

でも、「脇を空けて」なんですよね。と言うか、「脇を締めてはいけない」という教訓でした。

交渉する上で、「こいつは結構手ごわいな」と警戒されているほうが仕事がやりやすいということもありますが、でも、逆にあまりにつけ入るスキがないと、それ以上は話が進まなくなることも少なくありません。解るでしょ?

世の中には定価販売しかしないという商品もあるのかもしれませんが、私の会社の場合は料金交渉はつきもので、それ以外にも条件面でいろいろな押し引きがあります。

お得意さんから「これこれでどうだ?」と言われて「それはできません」とニベもなく返すのではなく、

「いやあ…、それはちょっと…。それではさすがに上司が…。いやあ、困ったなあ。でも、もうちょっとだけなんとかなりませんか? あの、その、例えばですね…」

などと脇を空けて見せると、相手のほうも「こりゃ、もうちょっと押したらなんとかなるかも」と思うものです。

交渉は所詮お互いの歩み寄りです。スキを見せることによって、相手の一歩を引き出せるかもしれないのです。

その代わり、こちらの姿勢としても果敢に「突っ込んで行く」感じで、ウジウジしていてはいけません。そこでウジウジしてしまうと、考え直す時間を与えてしまって、相手が懐に飛び込んできてくれないのです。その辺りが一番難しいんですけどね(笑)

スキのない少年(笑)

思えば私は小学生の頃から他人にスキを見せない、他人に借りを作らない、というようなことをモットーに生きてきました。はい、生真面目で堅い少年でした。

それがそのまま青春期を迎えてしまって、当時ちょっとだけつきあった女の子からは、別れ際に「取りつく島がない」などと言われたりして泣いたもんです。ずっとそんな感じで育ってきちゃったんですね。

でも、就活中に、知り合いのツテで紹介してもらった10年ぐらい上の先輩(これまた営業マン)がいたんですが、この人から、「自分は借りを作るのが嫌だから、飯をおごってもらったら必ず翌週におごり返すようにしている」と聞かされて、「ああ、サラリーマンたるもの、やっぱりそんなものなのか」と思ったのをよく憶えています。

あー、めんどくせー!と思う反面、なんとなく納得する部分もあって、これもまあ、要するに昭和だったのかもしれませんけどね。

借りを作らなきゃ行きていけない

でも、実際に、試行錯誤しながら仕事をしているうちに少しずつ分かってきました。

借りがない、つまり、貸しばっかりがあるというような関係は仕事上では滅多に起こり得ないことで、それを目指すのは無理があります。貸しばっかりだったら、貸しているほうはバカバカしいし、借りているほうだって居心地が悪いから、いつまでもつきあいは続かんでしょ?

人間って、お互いに借りたり貸したりしているうちになんとなく信頼関係ができてきて、いろんなことがスムーズに運び出すのものじゃないですか。

上でも書いたように、仕事のことは大体は歩み寄りなんです。貸すだけで借りないぞ、なんてのは虫が良すぎるってもんです。

あ、今書いていて、ふと、自分の新人研修時代を思い出しました。

講師の先生が来て、「名刺交換の際は必ず自分の名刺を先方に受け取ってもらってから相手の名刺を受け取るように」って教わって、「それでは2人でペアになって練習してみましょう」と言われたのですが、真面目な新入社員たちのことですから、当然相手が受け取るまでこちらも名刺を受け取らず、いつまでも終わらなかったんです(笑)

もしもお互いが絶対借りを作らないなんて言い出すと、それと同じことになります。相撲で言うなら、はっけよい!で見合ったままどちらの力士も立ち上がれないような感じ。

スキも見せるし、借りも作る

先輩たちを見ていると、一流の営業マンたるものは、ちゃんとスキを見せてあげて、ほら、ここが空いてるから左下手マワシを取っていいよ、みたいな感じで相手にちゃんと相撲を取らせた上で、商売の成否に関わらず、相手が程よく気持ち良い、相手に幾分感謝される形で、取り組みを終えています。

それなんですよね。最初のほうに書いた営業の先輩も、決して借りを作っていないのではなく、借りたり貸したりを繰り返しているだけだったのです。

何十年も働いてみて、結局のところ、社内外を問わず、仕事のパートナーとして理想的な関係は、お互いもういくら借りているのやら貸しているのやら、ぐちゃぐちゃでワケが分からなくなっている関係なのではないかと思うようになりました。

仕事だけじゃないかもしれませんね。親友とか夫婦とかって、そんな感じじゃないですか?

貸しとか借りとか、そりゃあ生きていれば、仕事をしていれば、いろいろありますよ。でも、それをいちいち数えて差し引きしていくら貸してるとか借りてるとか、そういうのはもういいじゃないですか。はい、よろしかったら付け入っちゃってください(笑)

──というのが「脇を空けて突っ込んで行け!」だったんじゃないでしょうか?

これまた先輩の誰かの教えだったか、どこかの国の偉人の名言であったか忘れてしまいましたが、こんなことも聞きました:

自立した人間はお互い適度に依存しあっている。

あなたの脇は空いていますか? そして、ちゃんと突っ込んで行っていますか?

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