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続・テレビの中の固定観念──テレビ受像機の多機能化とテレビ番組の同時配信

前に「テレビの中の固定観念──商品名と裏番組」という記事を書きました。

今回も似たようなことを書いてみようと思います。僕がいろいろ言っても、却々ちゃんと受け止めてもらえなかったことを2つほど:

テレビ受像機の多機能化に対する抵抗

インターネットの登場直後から、とまでは言いませんが、僕は割合早くからテレビとインターネットが繋がって行くべきだと考えて、社内でもそんな風に主張し始めていました。

一連のキー局買収騒動もあって、上のほうからは「“インターネットとの融合”と言うな。“連携”と言え」などと言われているときにも、わざと「融合」という表現を使ったりもしていました。

僕がまだそこそこ若かった頃にすでに定年が近かった世代の人たちの中には、インターネットに対して、と言うより、他メディア全体に対して拒否感、と言うか、謂れのない恐怖心を抱いている人が結構いました。

だから、前にも似たようなことを書いたように、例えばスカパー!の CM が受理されなかったりするのも当たり前だったのです。

テレビのデータ放送のプログラミング言語が HTML ではなく BML になったのも、もちろん開発運営上のメリット/デメリットを考慮した上のことなのでしょうが、BML を採用することによって HTML で書かれているインターネットのページに直接繋がらなくすることを狙っていた人も中にはいたのではないかと、僕は推察しています。

そんな感じでいろいろな規格やルールが決まっていくのを僕は悲しく思っていました。そして、その頃から次第に社内外で「二律背反、二項対立、二者択一の考え方をやめて、“繋がって広がる”ことを考えませんか?」と言うようになりました。

テレビはインターネットと繋がって広がることで、もっと楽しく、もっと便利になるのだ、と。

自分が twitter をやり始めてから、僕はテレビの弱点は番組の URL をつぶやけないことなんだと気がつきました。

例えば、当時の視聴者は「昨日の○○(番組名)見た?」「いや、見てない」で会話が終わってしまっていました。

それが今では「ほら、これこれ」と例えば TVer のサムネイルを示してその人にも見てもらうことが可能になったのです。URL があれば、それを誰かに教えて、放送で見ていなかった人にも見てもらえるのです。

そんな大きなメリットがあるのです。テレビはネットと断然繋がるべきじゃないですか。そして、そうなると逆にテレビでインターネットが見られるようにすることも必要なのだと思い始めていました。

ところが、年配の人の中には、何が何でも「テレビとインターネットの融合」を阻止し、遅らせようと考える人がいたのも事実です。

でも、結局のところ、その流れは止められず、今のテレビでは YouTube も amazon prime も Netflix も見られ、TVer の“見逃し配信”も同じテレビ画面で見られるようになりました。そして、そのことによって、ユーザの利便性は明らかに高まったのではないでしょうか。

しかし、その一方で、所謂「テレビ離れ」は進み、テレビの視聴率の低減傾向は変わりません。

上の世代の中には「そら見たことか」と言う人がいます。そんなことをするから、テレビ画面が他のメディアに奪われて、テレビが見られなくなったのだ、と。

でもね、考えてもみてください。いろんなことができるスマートフォンの登場以来、テレビ番組を見ることしかできない単一機能のテレビ受像機というものは恐ろしくイケてない存在になってしまったのです。

このままではテレビが棄てられてしまう。さすがにテレビが棄てられるとテレビは見られない。──僕はそのことを恐れたのです。

だから、テレビ受像機も可及的速やかに、スマホの足許に及ぶ程度には多機能化する必要があるというのが僕の考えでした。社内では少し浮いていましたけど(笑)

漸くテレビが多機能化して来たおかげで、テレビは多分棄てられないでしょう。そしてテレビ受像機で見るテレビ番組にはそれなりの機能やメリットがあるのです。あとは良い番組を作るだけじゃないですか。

僕はそんな風に考えています。

5年前に僕は facebook にこんなことを書いていました。

テレビがオタオタして却々インターネットと繋がれないうちに、ほかのいろんなモノがインターネットに繋がってしまったのが IoT ──という理解でいいんですかね?
IoT or (T_T)

(facebook の自分のウォールより 2017/2/4)

そう、テレビは冷蔵庫や自動販売機より遅れてしまったのです(笑)

テレビ番組の常時同時配信をめぐる考え方の齟齬

この春からテレビ番組のリアルタイム配信が本格化します。でも、僕はこのことにはずっと反対してきました。

いや、テレビ番組を放送と同時にネットで配信することに害があるとか、やるべきではないとか、そういう話ではありません。もっと先にやるべきことがあるでしょう?というのが僕の主張でした。

ユーザはテレビ番組をテレビ受像機以外の機器で見ることを望んでいるのではありません。ユーザの多くが望んでいるのは、自分が見たい時に見たい番組を見ることです

それに応えるためにまずやるべきことは、テレビ番組を同時配信することではなく、全てのテレビ番組をオンデマンド配信することです。

もちろん、現状ではいろいろな制約があって、全ての番組を配信することは叶いません。ならば、ひとつひとつ“見逃し配信”対象番組を増やして行くことが当面の使命であり、やれることなのではないでしょうか?

できれば、放送終了を待って配信開始するというようなケチくさいことはやめて、放送開始と同時に配信を開始するべきだと思います。

──などと言うと、「放送と同時にオンデマンド配信を開始するのと常時同時配信とどう違うの?」とよく言われました。当時僕が恐れていたのは、放送をそのままインターネットに乗せて、放送と全く同じ内容を同時配信するというやり方でした。それはつまり、放送で流れている CM もそのまま流すということです。

そんなことをすると、インターネットの特性は活かせませんし、スポンサーがローカル差し替えすることもできません。そして、何よりも、スポンサーから追加提供料金をもらうことが極めて難しいことは容易に想像がつきます。

僕が営業マンだったころのスポンサーの宣伝部長や担当者は、「お前んとこが自社の都合で勝手に同時配信するんやから、ウチの CM はタダで出しとけや」みたいなことを平気で言ってたもんです。

今はそんな感じでもないのかもしれませんが、しかし、「同時配信するんであれば、追加で提供料をお支払いしますよ」となどと言ってくれるスポンサーはおいそれとはないでしょう。

となると、つまり、追加収入のないまま新たな事業を行うことになるのです。

僕はそれを恐れました。新しい事業には新しい収入が必要なのです。収支が取れない事業はどこかで打ち切るしかなくなります。ならば、放送と別売りの慣習が成立しているオンデマンド配信の枠組みでやるべきだというのが僕の主張でした。

これは営業経験のない人たちにはあまり解ってもらえない話です。だから、一般の方にはなおさら解りにくいかもしれませんね。

要は、ユーザは放送と同時に見たいわけではなくて好きな時に見たいわけです。だから、番組をネットで常に同時配信することではなく、今ネットでやっている“見逃し配信”をもっと拡充して、もっと便利にすることを先に考えるべきだというのが僕の主張でした。

しかし、この話は社内外ともに却々賛同してもらえませんでした。いや、話をするとふんふんと聞いてはもらえるのですが、何故だか「じゃあ、それをまずやろう」とはならないのです。

一方で、がむしゃらに常時同時配信を進めようとする人たちがたくさんいました。まるでテレビ以外のデバイスで同時配信すればテレビ離れした人たちも見てくれると言わんばかりに。──そんなわけないっしょ!

しかし、(ここに詳しくは書きませんが)紆余曲折を経て、同時配信は放送をそのままネットに乗せるのではなく、あくまで配信として、CM は配信サーバではなくアド・サーバから出る形で、つまり、セールスも別枠で進みそうな気配です。名前も“同時”ではなく、あくまで放送とは違う仕組みであることを強調してリアルタイム配信になりました。

これで収支面の問題は改善し、僕の究極的な心配は基本的に払拭されました。このために努力された関係者には大いに敬意を表したいと思います。

でも、それはそれとして、それよりも先に、まずはインターネットで好きな時に見られる番組を増やすことのほうが大事であると、それは今でも思っています。

僕はもうじきこの会社を、業界を去ることになるので、これ以上はもう何を言っても声は届かなくなってしまいます。後は残った人たちに考えてもらうしかないのですが、この2つについては、僕は間違ったことは言って来なかったと思っています。

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