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小説とかドラマとか映画とか

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他のマガジンに含めていた映画評や書評などを抜き出してここに独立させました。
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2021年9月の記事一覧

【短編小説】 ローリング・トライアングル

「note の #2000字のドラマ という企画に応募するので手伝ってくれ」と杉作に言われた。杉作というのは本名ではない。杉崎健作、略して杉作だ。 「なんで俺が手伝うの?」と訊くと、「いいじゃないか、幼馴染じゃないか」などといつも通り理屈になってない。いつもの思いつきなんだろうが、まあ、俺のほうも別にそれで構わない。 「そうだ、突然思いついた。鞠香も誘おう!」と杉作は右手で眼鏡のツルを持ち上げる(こいつのクセだ)。「だって、文学部じゃないか」と。そして「そうだ、思いついた

【短編小説】セット

変な面接だった。面接と言うか、面接とグループディスカッションの中間? 林遼平も就活でいくつかの会社を訪れたが、こんな会社はなかった。発想力が売り物の、如何にもこの会社独自のやり方だった。 8人が2列に並べられた。遼平は後列の右から2番目。左斜め前のガタイの大きな学生が気になった。いや身体よりも頭の大きさのほうが目立つ。そしてでかいピアス。 リクルート・スーツとラフな格好の学生が混在しているのはこの会社の面接の特徴である。会社はそんなことにこだわっていない。むしろ学生たちが

【短編小説】三角関係の構図

栗林就太は今どき珍しい若者かもしれない。さすがにスマホは持っているし、ないと不便なので LINE もやってはいるが、しかし、自分からは事務連絡的なことしか書いたことがない。スマホを横から覗かれて、「友だち」が企業ばっかりだと笑われたこともある。 twitter のアカウントはひとつだけ持っているが、他人の呟きを読むだけ。アカウントを取った日に「腹へった」と呟いてみて以来、自分から呟いたことがほとんどない。 tiktok は、最初に見たときに踊りが踊れないと投稿できないと思

僕が早くから注目していた女優たち

これ、自慢なんですが(人が「自慢じゃないですが」と言うときは大抵自慢なので、僕は素直にこう言うようにしていますw)、僕は割合新人/若手の女優を見る目があると思っています。 例えば宮﨑あおいは、彼女が16歳のときの映画『EUREKA』、そして翌年の映画『害虫』から目が離せなくなって、「この子、出てこないかな」とずっと待っていました。 そして、ある日、テレビを見ていたらクノール・カップスープの CM に起用されているのを見つけて、 と叫びそうになりました。その後の活躍は皆さ

ハッピーエンドにしないでほしい

人はそれぞれで、自分と他人とは違う──と頭では分かっていても、現実にそういう具体例を目の当たりにすると、とても驚いてしまうことがあります。 例えば、知らない誰かが映画一般について書いているのを読んで心底仰天したことがあります。 その人はこう書いていました: せっかくお金を払って観ているのに、ハッピーエンドでないのは許せない。 私は、「そんなことを考えている人がいるのか!」と、椅子から転げ落ちそうになるほどのショックを覚えました。 私は別に映画がハッピーエンドであって

セックス小説の本流(いや、奔流?)

そういうジャンルがあるのかどうか知らないが、「セックス小説」というものを取り上げてみたいと思う。 絵画の場合は昔から裸婦を描く伝統があるからそうでもないのだろうけれど、例えば写真に裸の女性を撮ったりすると、すぐにそれはエロだと言われる。小説も似たりよったりでセックスを描いた途端にポルノだと言われる恐れがある。 もちろん芸術とエロの間に、「ここまでは韓国、ここを越えたら北朝鮮」みたいな明確な境界線があるわけがない。 性欲は人間の基本欲求のひとつだから、それを描くのは文学や