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29歳 冷蔵庫を買う
先日、件の給付金をあてにして冷蔵庫を買った。
以前使っていた冷蔵庫は、90リットル程度しかない霜取り機能もついていないもので、よくもまあまる7年と少しの間、頑張ってくれたなあと思う。
就職するタイミングで当時付き合っていた彼氏と家電量販店に買いに行った、新生活応援フェアで他の白物家電とセット売りされていた冷蔵庫だった。関西人だったためか、値切るのがうまい男だった。少し恥ずかしかったが、そんなところも頼もしく思っていた。
社会人になったら自炊もするだろうし、少し小さいかもとこぼしたら、いつか二人で住むときに新しい大きいのに一緒に買い替えたらええやんというので、ひとまずその冷蔵庫に決めたのであった。
冷蔵庫とともに上京しその彼氏とは遠距離となり、1年くらいであっけなく別れ(色々泣いたり喚いたりした)、あの言葉も虚しく一人暮らしの1K6畳にこの冷蔵庫とわたしだけが取り残されたのであった。
霜取り機能がついていないため幾度となく冷凍室が氷漬けになり、その度何度も買い換えようと思ったが、いつか誰かと住むかもしれないからその時まで我慢しようとなんだかんだでずっと連れ添ってきた冷蔵庫だった。
あれからまる7年。いよいよ30を目前に、生憎ながら結婚のけの字どころか同棲の予定もなく、なんとまあ彼氏すらいないため、いつになるかわからない、もしくはこの先無いかもしれない機会をあてにして今の不便を我慢するより、目先の生活を快適にすることが優先だと、ええいままよと倍以上の容積(もちろん霜取り機能付き)の冷蔵庫を買ったのであった。
こうやってわたしは7年間、綺麗な思い出のようで、今ではもう呪いと化してしまったような記憶と少しずつ決別してきたように思う。
冷蔵庫だけでなく、もらった手紙や時計、プリクラ、当時のスケジュール帳、あの時着ていた服、クラウドに保存していた写真 などなど 恥ずかしいくらいとても時間がかかった。この冷蔵庫が最後の一つだった。
新しい冷蔵庫の搬入日、業者のお兄さんがやってきて、あっという間に新しい冷蔵庫と交換であの冷蔵庫を持っていってしまった。感傷に浸る間も無く。仕事の早さに感動すると共に、その呆気なさに拍子抜けもした。
新しい冷蔵庫はとても清潔で、庫内も広く使いやすい。製氷スペースもあり、その氷も貯めておける。ああ、どうしよう。家飲みが捗ってしまいそうだなあとひとり笑みが溢れてしまう。
30を目前に、新しい冷蔵庫と共に、気持ちを新たに人生をもう一度前向きに歩みたいと思うのだった。
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