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観劇記録「Good bye, Robert」

先月初めに観た、陰湿集団にも所属し、大学演劇部時代には九州戯曲賞大賞を受賞した木下氏の新作で、彼の個人企画砂漠のクロ猫企画の初公演。

会場は、毎週のようにジャズセッションやイベントが行われる箱崎水族館喫茶室。
(ちなみに箱崎水族館とは昔近くに実際にあった水族館らしく、夢野久作の「ドグラ・マグラ」にもその名前が出てくるが、今は箱崎宮の近くにその跡地だけがある)
この喫茶店はたくさんの本や漫画がおかれ、楽器やレトロな小物が置かれた、個人的に大好きな雰囲気。

芝居の感想。
内容は、ある喫茶店での記者と写真家ロバート(=ロバート・キャパ)の会話のみで、彼が撮影したとされるある写真が「ニセモノ」であることを記者が暴き、検証していくというもの。
これだけならテレビでもやってそうな(実際やってたらしい)内容に過ぎないが、作者によって生み出されたオリジナルの記者と、ロバートの人間模様によって芝居は彩られる。

評価すべき点は、「当時あったかもしれない会話が『今ここで』観客の目の前で繰り広げられている」という点。

ここに、映像にはない演劇の芸術性が詰まっていて、そこに目を向けるとかなり面白い作品になっていたと思う。

ちょっとイマイチだなと思ったところはあって、演出と演技について。つまり、テキストから舞台作品として組み上げる時の意識。

「そこにいる」はずのロバートは今ひとつ彼(役者)の身体に宿っていないように見えた。言ってみれば、役者と、作家、あるいは演出家の中にいるロバート像の差が、俳優の身体で処理し切れていないなと。
これでは観客にの言葉は届かない。

あとは「窓」の処理。
喫茶店のシーンのみの具象舞台を喫茶店でやるというのに、実際には棚がある壁を指さして「窓」というのはやや強引すぎる。これは役者と観客の間に視覚的な差を生み、残った違和感は空間の共有を阻害する。

さらに追求すると(自分ならこうするという意味も含めて)、客席の配置を通常の営業時とほぼ変えずに、2人の登場人物が話すテーブルを店の真ん中の壁際に設定すれば、シチュエーションにも合うし、まさに「今ここで」行われる会話として成立しただろう。

この企画の発起人木下氏の新たな挑戦を見ることができた。次は同じ集団内で作品を共に作りたい。

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