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【WBC・侍ジャパンメンバーのあの頃】「うまい」「はやい」だけでない「強い」男・源田壮亮。ドラフト前のイメージを覆し続け、世界一に!

WBCことワールド・ベースボール・クラシックで日本一に輝いた侍ジャパン。その流れで、NPBの試合で見たり、一球速報を追ったりする際に、各選手のバックボーンを知っていると、よりおもしろく、より愛着を持てるはず! そんな選手の背景がわかる『野球太郎』の過去記事を公開します。

今回は源田壮亮(西武)をご紹介。大会中に骨折したものの、「自分は残ります、迷惑もかけずにプレーできます」と断固たる決意で世界一に大きく貢献しました。
先日まで映画館で上映され、現在は配信されているドキュメンタリー「憧れを超えた侍たち 世界一への記録」でも栗山監督が選考会議の段階で「強い気持ちがある源田は必要」と語っていた“らしさ”が存分にあらわれたシーンでしたね。
そんな源田壮亮選手はプロ入り前はどんな選手だったか、『野球太郎No.021 2016ドラフト総決算&2017大展望号』に掲載した記事で振り返りましょう。
(取材・文=尾関雄一朗)

社会人屈指の守備と足が魅力の即戦力遊撃手

「脱力系」キャラ

 源田は「脱力系」である。野球選手の割に色が白く、比較的細身。普段の喋り方は、人懐っこいがどこか頼りなげだ。おっとりしていて、ナヨナヨとした近所のお兄ちゃん、という感じがする。愛知学院大4年時には主将を務めたが、「(主将)っぽくないですよね」と自らギャップを認めている。
 大学時代の源田を指導した梶原康之前監督(現・帝京大可児コーチ)も「彼について僕が心配していたことのうち、その8割は『ちゃんと大学を卒業できるのか』ということでした」と笑う。関西出身の梶原前監督ゆえ、冗談交じりの発言ではあるのだが、源田のキャラクターを思うとその心配もわかる気がする。
 しかしながら、根は頑張り屋だ。大学4年に進級するまでのオフシーズン中、それまでの貧打と縁を切るべく、2日おきに夜11時までマシンで打ち込んだ。トヨタ自動車に進んでからは、全体練習やオープン戦が終わった後、ほぼ毎日ノックを受けてから帰った。「先輩の河合完治らと自主的に練習する姿は、年下の選手にいい影響を与えていました」とトヨタ自動車・桑原大輔監督が話すほどだ。
 源田曰く「自分は結構、考えてやるタイプですよ。適当に見えて適当じゃないんですよ、意外と。振り返りも一応毎日やりますし。人からは(性格が)ゆるいって言われますけど……。このあいだも本を2冊読みました。松井稼頭央さん(楽天)の本と、川﨑宗則さん(カブス)の本。井端弘和さん(巨人コーチ)の本は読み終わったんで。結構、野球、好きかもしれないです。まぁ、(読書は)暇だったってのもあるんですけど……」
「暇だったから」と最後の一言で“脱力”させつつ、努力や思考は重ねている。

カッコよくて確実な守備

 グラウンドでのプレーはスピード感に溢れ、颯爽としている。野球センスに長け、“なんでもできる”自在性がある。
 最大の魅力は守備だ。足運びがスムーズで、二遊間、三遊間を自在に立ち回る。打球がくるところにグラブを出して柔らかく捕る。難しいバウンドにも難なく合わせられる。スナップを利かせたスローイングがいかにもカッコよく、見ていて惚れぼれする。
「(守備がうまくなったのは)高校ぐらいからだと思います。コーチが朝練につきあってくれて、日々ノックを受けました。そのコーチには『投球がバットに当たる前に動け』と言われていて、『そんなんできるわけないやろ』ってそこは流してたんですけど、大学3年生頃にふと思い出して。打撃練習で守備につく時も、打者と投手の力量で打球方向を予想して、一歩目に集中するようになりました。まぁ、(打球の予想は)あんまり当たらなかったですけど。トヨタでの1年目は結構エラーすることもあって、これじゃあダメだと思って、そこからまた継続して練習をやってきました」

バント安打はセンスの結晶

 筆者が今でも鮮明に覚えている、源田のトリッキーなプレーがある。大学4年の秋季リーグ・愛知大戦での5打席目だ。セーフティーバントの構えをした源田は、前進してきた三塁手の意表を突き、その頭上へプッシュバントを仕掛けた。三塁後方に落ち左翼線に転がる打球を遊撃手が追いかける間に、50メートル走5秒8の快足を飛ばして二塁を陥れた。それまでの4打席はすべて内野ゴロで凡退していただけに、“5タコ”を免れる工夫に唸らされた。
 本人はその場面について「練習ではほとんどやったことなくて、なんとなく思いつきで……。運もあるんじゃないですか」と、やはり“適当”感を漂わせるが、「相手守備陣のポジショニングを見たり、どの程度セーフティーバントが警戒されているかは考えます」とも。社会人に進んでからも「セーフティーバントは成功のほうが多いぐらいかもしれない」と話し、図抜けたセンスを示している。
 ただし、打撃はやや迫力に欠け、三振も少なくない。先日のインタビューでも、セーフティーバントの話が済んだ後に「じゃあスイング(打撃)の話を……」と振ると、本人も「へへへ、スイングの話、します?」とおどけた。ただ打撃が目立たないのは、バットが遠回りして内角のスライダーに空振りするなど、明確な原因があるからだ。外角の球には強いし、弱点をプロで修正できるだけの素質はある。
 現状、守備固めや代走要員として、開幕1軍も近そうだ。たとえ「打撃が弱い」と言われても、守備と走塁で魅了できる貴重な選手であるのは間違いない。

★(当時の)プロフィール★
源田 壮亮(げんだ・そうすけ)

身長179cm/体重73kg/右投左打
1993年2月16日生まれ/大分県大分市出身/遊撃手
中学 明野ビッグボーイズ(現大分明野ボーイズ)
高校 大分商高
大学 愛知学院大
社会人 トヨタ自動車

★ターニングポイント・トヨタ自動車★
 大学3年秋を終え、プロ入りは厳しいと判断し、早々にトヨタ自動車から内定を得る。4年時に打撃が良化しプロもちらついたが、やはりトヨタに進んで正解だった。確実性など守備に磨きがかかり、さらに評価を上げた。

★こんな選手★
 今年の社会人ナンバーワン野手という呼び声もある俊足・好守の遊撃手。愛知学院大では全国大会に4度出場し本塁打もマーク。トヨタ自動車では主に9番打者でスタメンを張り、持ち前の守備力で都市対抗優勝に貢献。

★プロでこんな選手に★
 守備・走塁のスペシャリスト守備はプロでも上位。たとえレギュラーが獲れなくても、向こう10年、試合終盤を任せられる。走塁もスピーディーだが、盗塁はまだ発展途上。一直線に走る盗塁技術を身につけられれば本多雄一(ソフトバンク)にも。

★ここを売り込め!★
守備・走塁で即戦力に

 代走で試合に入り、そのまま遊撃の守備固めへ。使い勝手がよく、ベンチに置いておきたい存在だ。西武は呉念庭が今季後半に台頭したが、足と守備は源田の方が上。呉が三塁手に回れば源田にレギュラーの芽も。

(取材・文=尾関雄一朗)
『野球太郎No.021 2016ドラフト総決算&2017大展望号』で初出掲載した記事です。