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必読! 西谷浩一監督(大阪桐蔭)本音3割インタビュー

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勝利監督インタビューではファンが予想できるほど定型的で丁寧なコメントが続く西谷浩一監督。誰もが気になる本音をどこまで引き出せるか? コロナ禍以降、メディア露出が減った西谷監督へのインタビューがついに実現!( 取材・文=谷上史朗)

※2022年6月20日発売の『野球太郎No.043』に掲載された記事です。

西谷浩一監督の本音に迫れるのか!?

 3度目の春夏連覇へ、注目が続く大阪桐蔭。センバツ後半3試合のスコアが17対0、13対4、18対1。強烈なインパクトを残し大会を制すと、直後から主にネット上で称賛の一方、アンチ的な声が聞こえてくるようになった。

 強すぎる。全国から選手を集めて強いのは当たり前。この先の高校野球はどうなるのか。こうした声を、当事者たちはどんな思いで目に、耳にしながら、夏への準備を進めているのか。いろいろと聞きたくなった。

 実はこのところ、西谷浩一監督と気楽に話すことが難しくなっている。新型コロナウイルスは終息傾向となってもチームとして取材には慎重。滅多に時間を取れなくなっているからだ。また、春の大阪大会後半や、近畿大会では試合終了後に取材時間が設けられたものの、時間は選手も合わせ15分程。また、大勢の記者に囲まれた時の西谷監督のコメントは、ソツなく型通り、本音も見え難い。

 本来、話好きの笑い好き。語彙も豊富で「西谷語録」と呼びたくなる独特のいい回しも魅力的な人だ。ただ、今はネット時代。一つひとつの言葉への反響も大きく、大阪桐蔭への注目が高まる中、発言はどんどん慎重になっている。

 それでも、頭の中には多くの思いが詰まっているはず。ならば、その本音に迫りたい、と企画した今回のインタビュー。週末には近畿大会の準決勝、決勝が控えていた平日、ピンポイントで時間を取ってもらった。この時期、貴重な独占取材。果たして、秘めたる本音に迫ることはできたのか。

センバツ優勝までの道のり

ーーよろしくお願いします。インターネットとは違い、今の時代にお金払って雑誌を購入してくれている『野球太郎』読者へ、できるだけ西谷監督の本音を伝えたい、という企画です。

西谷 嘘しかいわないですよ。最近はマスコミが苦手になりつつありますから(笑)。

ーーセンバツ優勝後には大阪桐蔭関連の記事を多く目にしました。ネット上では称賛の一方、強すぎる、これでいいのか高校野球、といった調子の記事も目につきました。

西谷 そうですね。僕らとすれば、わかってくれる人がわかってくれていたらいい、最近はそんな気持ちでいます。

ーー同じ題材でもどこに着目し、どう見るかで、見え方も変わってきます。

西谷 最近はほとんど個別の取材は受けてなかったんですけど、携帯をたまたま開いた時に僕の写真が載った記事があって。あれ、何か言うたか? 取材も受けてないよな、と思いながら、中を見ると何ということはなかっ
たんですが、なんでも大阪桐蔭を絡めすぎ、やりすぎ、と思うことはあります。でもまあ、基本、ネットは見ないんですけど。

ーー本来、超アナログですよね。

西谷 去年の年末まではガラケーで物理的に携帯でネットは見られなかったんです。それがスマホに変わったから見れるようになってしまって。ただ、見るとあまり気分はよくならないと思っているので、基本見ない。周りがいろいろ教えてくれて知ることが多いですね。「森(友哉/現西武)、復帰しましたね」と聞けば、「あ、昨日から1軍に戻ってきたか」とか、「青地(斗舞)、残念でしたね」と聞けば、「同志社、大学選手権アカンのか」とか。

ーーセンバツのあまりの勝ちっぷりで一気にいろんな目が集まりました。

西谷 「ホームラン記録どうですか?」とか、「史上最強チームでは?」とか、いろいろ言ってもらっても、ウチの選手も僕らもまったくそんなつもりはないですから。相手ピッチャーの状態がよくない時にこっちはビンビン。そこで当たって、ああいうスコアになっただけで。子どもたちが打ったことを否定するわけじゃなく、万全の状態の米田君(天翼/市和歌山)や山田君(陽翔/近江)ならあんな結果にはなっていない。こういうことを僕がいうと、謙遜してると取られますけど、本音です。

ーー去年の秋は「前チームに比べまだまだ力がない」と言い続けながらの戦いでした。実際、当時1年の前田悠伍投手の活躍がなければ、秋の結果はなかったでしょう。

西谷 秋は危機感しかなかったです。野手は前チームで松尾(汐恩)しか出ていなくて、投手が川原(嗣貴)と別所(孝亮)。いつもなら少なくともベンチに下級生が6、7人は入っているのに、キャプテンになる星子(天真)も入っていない。それだけ3年生と力の差がありました。

ーーその「3年生」たちはセンバツが初戦負け、夏の甲子園が2回戦敗退。嫌な流れの中にあり、秋の危機感の強さは想像できます。

西谷 だから「これはアカン」と毎晩ミーティングをやって、そのあとにまだバットを振ろう、朝早く起きてバントをやろう、と突貫工事的にやって大阪大会に入っていった。そこから1週間に1回の試合に合わせて大阪大
会、近畿大会、さらに神宮大会、必死でした。

ーーそのスタートから秋を無敗で勝ち上がり、チームとして初の神宮制覇。センバツが終わると、最強チームの呼び声が高まりました。

西谷 「2012年、2018年のチームと比べてどうですか?」と聞かれても「いやいや、まったくそんなチームじゃないんです」としか。このチームはずっと1年上の池田(陵真/現オリックス)らのチームを目標にやってきて、センバツで勝っても上にいけたとは誰も思ってない。まあウチの子らは携帯禁止なのでネットは見られないし、世間の評判もわかってないと思うんですけど。

アンチ・大阪桐蔭に対しては

ーーセンバツでは秋のエース・前田投手が13イニングしか投げずに優勝。戦力の厚さを端的に示すもので、「全国から選手を集めていれば勝って当然」という声も聞こえました。

西谷 僕は大阪桐蔭でやりたい、という子どもたちと一緒に野球がしたい、というのが一番。大阪だから熊本だから、というのは一切ないし、「このチームは大阪が何人です」と言われても、そこで初めて気づくくらい。大
阪と兵庫と奈良の区別もないし、九州であっても北海道であっても一緒。ただ、考え方はそれぞれなので、たとえば、今なら海老根(優大)や星子が遠くから来ている。そこを批判的にいう人がいるなら、それはそれで仕方な
い。考え方ですから。

ーー時代が進んでもこの種の声は根強い。批判している人には、自分の子どもが才能豊かで野球をやるための環境が整った強豪校へ行きたい、となった時どうしますか、と僕は聞いてみたいですね。

西谷 個人的には、事実でないことを言われるのは勘弁してほしいですね。佐々木郎希投手(現ロッテ)を獲りにいったとか、森木大智投手(現阪神)も獲りにいったとか、根尾昂(現中日)の家に行ってどうとか。それを信じた人から「佐々木は中学の時からすごかったんか?」とか聞かれたりもしましたけど、見たこともないし、そこは勘弁してほしい。

ーー大変ですね。そういうことがイヤになって辞めたくなるようなことはないですか?

西谷 それはないですけど、批判はある程度仕方ないとして、人間なんでやっていないことを言われるのがやっぱりね。でも、それも、さっき言った、わかってくれる人がわかってくれたらいい、というところで収めてます。

ーー一つひとつの意見に反論もできません。

西谷 ブログでもやろうかな。言いたいことはここに書いてます、みたいな。

ーー機械が苦手な西谷監督が!?

西谷 「俺のホントの気持ち!」みたいな(笑)。

春の大阪大会の戦いぶりについて

ーーセンバツ後の大阪大会はメンバーが後半まで揃わない中できっちり優勝。決勝の相手が履正社。ここで前田投手が初登板、先発でした。それまでの起用を見て、春の大阪大会では投げないと思っていました。

西谷 先発は当日の朝に伝えることが多いんですけど、コーチも誰も知らなかったですね。センバツが終わってからは紅白戦、シートでも1回も投げませんでした。普通なら試合に投げなくても、シートや紅白戦で投げるとこ
ろ、一切バッター相手に投げず、ひたすら長い距離の遠投とかトレーニング系で鍛え直しました。決勝の1週間前くらいからブルペンで松尾に「バッターを想定してミックスのサインを出して投げさせてくれ」とだけは、伝
えていました。

ーー決勝でその前田投手を先発させた狙いは?

西谷 準備が万全でない中でどれだけ投げられるのかを見たかった。そういう状況で投げさせることで、あいつの能力がどれだけあるのかも見えると思ったし、もっと鍛えないといけないところも見えると思ったんです。

ーー結果は2失点完投。発見はありましたか。

西谷 「こういう中でも投げられる」というのと、とはいえ「しっかり準備をして入らないといけない」という両方でしたね。ただ、普通はいきなりの決勝の先発であんなに投げられない。辻内(崇伸/元巨人)ならボロボロになって、藤浪(晋太郎/現阪神)でも厳しかったでしょう。

ーーそれをきっちりまとめた能力。ただ、2失点の3回はヒット3本に珍しく2四球。初めて乱れる投球を見ました。回の途中はストライクを取るにも四苦八苦していましたね。

西谷 みんなあんな前田は初めて見たと思います。でも「練習していない、準備もせずに」ですからね。ベンチで見ながら、ずっと「打たれろ、打たれろ、もっと打たれろ」と思っていました。

ーー「打たれた後」を見たかった?

西谷 そうです。秋から全然食らってなかったんで。夏はどのピッチャーも打たれるのに、このまま夏に入るのはアカン。ボクシングのチャンピオンが不意にアッパーを2、3発食らって「え、辰吉(丈一郎)どうなんねん、大丈夫か!」みたいなところから、どう盛り返すか。そこを見たかった。

ーー!!(笑)。4回以降無失点で逆転勝ち。西谷監督の口癖「粘って、粘って後半勝負」を実践した投球でした。相手が履正社。公式戦連勝も続き、世間の注目も続く中、もし、大阪最大のライバルに負けていたら相当なニュースになっていたでしょうね。

西谷 そうですね、一気に「桐蔭、夏大丈夫か!」みたいなね。

ーー一番負けたくない相手のはず。そこでの前田投手先発でもあったのは? 春は決勝までのトーナメントが決まり、履正社とは当たるとしたら決勝とわかっていました。

西谷 いえ、いえ、それはなかったです。ただ、春は隠して……なんてやっても前田にとっていいことはない。僕の思う前田に成長するためにはやらないといけないことが、まだまだいっぱいある。じゃあ、そのためにどんどん投げさせた方がいいということではなく、春に関しては「どこかで一発」と思いながら見ていたら、僕の中では大阪決勝で「時がきた」と。そういう感じでした。

ーー決勝の相手が履正社でなくても投げていましたか?

西谷 それはちょっとわからないんですね。履正社だったから、と言われたらそうかもしれないし、違うかもしれない。とにかく「時がきた」(笑)。

ーーとはいえ、監督が代わり新体制となった履正社と決勝で対戦。やはり、そこは特に負けたくなったと想像しますが……。

西谷 どこが相手でも負けたくないのは一緒。それに大阪のどこで負けても、近畿で負けても、言われる時は一緒ですからね。ただ、春に勝っても負けても、どっちの目が出ても、夏に向けてどう持っていくか。勝ったら勝っ
たで、負けたら負けたで、やり方があります。

甲子園春夏連覇に関して

ーー連勝記録も取りざたされ、ハードルは上がる一方。3度目の春夏連覇どころか、前田投手はまだ2年生。2年連続春夏連覇なんて声もあります。

西谷 勘弁して下さい。

ーー全国から標的にされる中での夏ですね。

西谷 根尾らの時もセンバツ優勝から夏の100回大会へ向けて異常な盛り上がりでした。ちょうど今の時期の取材もすごかった。

ーーあの代は入学の前から注目されていました。

西谷 100回大会に向けてすごい補強をした、と言われて。99回も101回も、僕らの中では、ウチでやりたい子たちと日本一を目指す、という同じことをやっているんですけど、100回大会用に2000年生まれのすごい選手を、特別に集めた最強世代だと。世間的にはそう見られていても、実際はまったく。2年秋の神宮大会で負けて、夜にホテルの僕の部屋へ選手をぎゅうぎゅうに入れて「こんなんでほんまにセンバツでやれるんか」と話もしました。そこからまた気合いが入って。学校へ戻ってからも、歴代の選手の名前が入ったパネルを眺めながら、選手たちに「もし、俺が順番をつけるなら、今のチームは8か9、10番目くらいや」といったのを覚えています。

ーーそこからの春夏連覇。

西谷 センバツを勝ったあとに、これは避けて通れないと思う瞬間があって、選手に「俺は覚悟した、腹をくくった」と。春が終わってもまだまだ連覇する力はついていないけど、「ここからどれだけできるかや」と追い込みながら、「これで夏を勝って100回大会の優勝旗を手にできたら、それは大阪桐蔭の歴史の中で史上最強チームといわれるだけの結果といえるはず、そこを目指そう」と。

ーーそれから4年経ちました。

西谷 今回は少し前に「このチームは歴代13番くらいや」と言いました(笑)。「甲子園にいっていないチームでもめちゃめちゃいいチームもあったぞ」と。ただ、あまりいい過ぎてもいけないので「中村誠キャプテン(14年優勝時の主将。現在寮監兼コーチ)のチームよりは、今のチームの方が間違いなく強い。ただ、あのチームは今までで一番弱かったから」と言うと笑っていました。でも、それで優勝できた。「だから俺は毎年どのチームでも優勝する可能性があると思えるようになった。中村コーチのお陰」とも。ほんとにどのチームにも戦う限り可能性はありますから。

ーーまた、これから注目と重圧の日々が続きます。夏の大会では大阪桐蔭を見たいと球場へ足運ぶお客さんに、王者の負けを見たいというお客さんも。そんなスタンドの空気とも戦うことになりますね。

西谷 そうですね、そういったことも含め、避けては通れない。挑戦できるのは僕たちだけなんで。腹をくくっていきます。

ーーそれにしても、ストレスが溜まりますね。発散法は何かありますか?

西谷 特にないですねぇ。それなりには溜まっているんでしょうけど、最後は「好きな野球をやらしてもらってる。好きなことを仕事にさせてもらって、それで文句をいうか」と。最後はそこで割り切ります。それに今年のチ
ームは、きつい練習にも常に前向きで一生懸命やる、ほんとにいいチーム。この子たちと大きな目標に挑戦して「最後になんとか生き残れたら」そう思っています。


ーー貴重な本音インタビューありがとうございました。

西谷 3割くらいですけど(笑)。

 取材後の週末。大阪桐蔭は土曜日に近畿大会準決勝で近江に勝利するも、翌日日曜日の決勝で智辯和歌山に敗戦(2対3)。春の近畿制覇を逃し、秋から続いていた公式戦の連勝も29でストップした。先発完投の前田は、練習試合も含め高校初黒星。試合後の西谷監督は「これまでは勝って勉強させてもらってきましたが、負けて得るものも大きい。もちろん、夏につなげていきます」と敗戦の弁を口にした。

 昨年の8月23日、近江戦以来の負けを目にした帰り道。本音3割のインタビューを思い出しながら、一つの負けがたちまちネット上で記事になる様子につくづく「勝っても負けても大変だ」と感じていた。『野球太郎』の読者には、大阪桐蔭ファンであっても、そうでなくても、大らかな気持ちで大阪桐蔭の挑戦を見守ってもらいたいと願うばかり。「たかが高校野球」。この気持ちをお忘れなきよう。次回は目指せ、本音5割インタビューだ。

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