とある英雄と友の伝記
「覚えているか、私が学生時代ペアを組んだ相手を。そうだ、私を小馬鹿にしたあいつだ。あれが今、私の伝記を書き、世間を騒がしたそうだ。」
そう語る彼の目は、30年前から少しも変わらない。
大きな黒い瞳で、僕を射貫く。
「私に関わろうともしなかった奴に、何がわかる!」
彼は唸る様に拳を机に叩き、僕の体を震わせ、こう続ける。
「我が友よ、私を知るただ一人の友よ。
私の事をもし、書ける者がいるなら、お前しかいないのだ。」
大きな瞳が少しゆらいだ気がした。
(彼の、この表情は一度だけ。確か、最愛の母を亡くした時ーー。)
逡巡する私をよそに、瞳が戻る。野望と夢に燃えた、王の物に。
そして、手を上げ側近に合図した。
「ヘス、この事を今記録しておけ」
「はい、閣下」
垂れ眉の者が、記録をつけ終えると、彼はこういう。
「また会おう、クビツェク」
この七年後、彼は自殺する事になる。
彼の名は「アドルフ・ヒトラー」
僕にとっては、ただの友人だ。
【Fortsetzung folgt ...】
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