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#島ぐらしと魚たち 1月

命感じる1本釣り

屋久島に来た頃、島の漁業の中心は、トビウオ漁と一本釣り漁だと聞いた。
私のイメージでは、一本釣りといえばカツオ漁。何人かで船に乗り込み、竿を上下させる激しい漁業なのかと思っていた。
しかし、安房地区の一本釣り漁師は、皆一人で漁船に乗って沖に出る。
「こン釣り機っちゅうんを使うのよ」と指さす方を見てみると、角ばったいかめしいボディに円形の部品がついた「機械」が船べりに装備されていた。

これが釣り機。円形の部品には釣り糸が数百メートル巻かれていて、リールのような役割をする。じゃあ竿はどこ?「ここよ、ここ!ここ!」漁師さんが私の太ももぐらいある腕をバシバシと叩き、釣り糸を手で持ち、肩、腕、手、全部が竿なのだと教えてくれた。素手で糸を持つと、竿よりも繊細なアタリがわかること、魚が喰った瞬間に素早く動くことができるのだという。
なんと、最初の引き込みや釣りあげる途中の動きで魚の魚種や大きさまでもわかるのだとか。
狙っている魚種に合わせて、糸の太さや針の数、大きさ、餌を変え、沿岸のあらゆる魚から大型のカンパチ、バショウカジキ、深海のキンメダイやメダイ、ムツなど、ほぼすべての魚を釣ることができる。

初心者の私には昔ながらの手釣り道具を貸してくれた。取っ手のついた木枠に、糸が巻かれている昔からの漁具。これもまた一本釣りのひとつだ。仕掛けを海に落とすと、木枠がクルクルと回転し、巻かれた糸が出ていく。
おもりが海底に付いたら、糸を持った手を大きくしゃくり上げる。何度か繰り返していると指先に、なにやらモゾモゾ、コツコツとした振動が伝わってくる。と、突然、糸がものすごい勢いでひったくられ、引っ張られる。擦れる糸で手をやけどしそうになりながら、こ、これは大物だ・・・!と釣りあげてみれば20㎝ぐらいのメガネハギ。小さな体に秘めた、計り知れない力強さに驚きつつふと隣を見る。ベテラン漁師のこぶしに糸が喰い込み、見事なスジアラを釣り上げてたところだった。その手に刻まれた数々の命のやり取りのあとを見て、なるほど、これが釣り竿よりもはるかに優れた道具なのだなとひとりうなずいた。

…………
川東繭右(かわひがし まゆう)
東京都目黒区出身 
島の魚に魅了され、2011年屋久島に移住
学校司書補として勤務する一方で、魚の面白さや美味しさを普及する活動を行なっている
趣味は魚の耳石集め
好きな魚はクサカリツボダイ ヒトミハタ
お魚マイスターアドバイザー
水産庁魚のかたりべ
鹿児島県指導漁業士

https://www.facebook.com/yakushimaosakana/