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日本一無名な島根が異世界に行ったら世界一有名になった話 5

「すみません、そちらのスマホで地震情報とかわかりますか?」

自分のスマホではいくら検索してもエラーばかりで通信できないため、ほかの人のスマホなら検索できるかもしれないと考えた寺山。
近くにいるスマホをいじっている最中の議員に声をかける。
だが帰ってきた返事は芳しくないものだった。

「あ、寺山さん。いやぁ、それが…。ぜんぜんネットにつながらなくて…」
「え?そちらもですか?」
「そちらも、ってことは寺山さんのスマホもつながらないんですか」

そういいながら議員は自分のスマホを寺山のほうに向ける。
機種が違うため画面の雰囲気は違うものの、こちらも通信エラーを表す表記が画面に表示されていた。

「地震の前は普通に使えてたんですけど、これもやっぱり地震のせいですかねぇ?」

そういって議員は苦笑いをしながら頭を抱える。
そしてまたスマホをいじってネットにつながらないかを確認しはじめた。
そんな様子に寺山も同じく苦笑いしながら、礼を言ってその場を後にする。

だがそんな表情とは裏腹に寺山は焦りがこみ上げてくる。
というのも、部屋にいるほかの人々からもネットにつながらないなどの同様の言葉があふれかえっていたからだ。
それぞれスマホを再起動したり、電波の状況が悪いと思ってか部屋の中をうろうろしている人もいる。
自分たちだけでなくほかの人も同じようにネットがつながらない状況。
停電で部屋が真っ暗になったり、家具が倒れてきたりするような目に見える被害ではなくとも、日常生活に浸透している重要インフラであるインターネットが使えないのは深刻であった。

地震の揺れという恐怖から解放されたかと思えば次はネットがつながらないという恐怖。
今のところ大きな問題にはなっていないものの、長期化すれば甚大な被害をもたらしかねない。
そうなる前に一刻も早く状況を打開するためにも、寺山は現状を把握することが重要だと考えた。
「防災危機管理課なら…なにかわかるかもしれないな」

寺山はふとそうつぶやく。
防災危機管理課。
それは島根に起きる災害にあらゆる対策を講じるために存在する課である。
主に地震や台風が頻発する日本において、様々な気象観測データをもとに災害の速報を出したり、災害のシミュレーションをしたり、ハザードマップを作成するなどして防災に努めている。
各県や地域にそのような災害対策に関する部署があるが、当然島根にもある。
突如起きた地震、そして謎の通信不調の原因を解明したい寺山。
その一方、彼は時に知事としてそれらの部署に対して支持を出さねばならない。
防災危機管理課と寺山は互いにとって頼みの綱であった。

そう考えた寺山はすぐさま、会議室の壁に設置してあった内線電話で連絡を取るべく受話器を取った。
通信番号を指定し、防災危機管理課につなげる。
すると呼び出し音のベルが何度か鳴ったのち、相手が受話器を取る音が聞こえた。

「こちら防災危機管理課です。要件をどうぞ」

受話器越しの相手の声を聴き、どうやら内線電話は問題なくつながるらしいということがわかり寺山は少し安心する。
災害時でも円滑に連絡するために設置されているだけあって信頼性は抜群だった。
寺山は落ち着いて相手に要件を伝える。

「私は知事の寺山です。先ほど起きた地震について、そちらにお伺いしたいことがあるのですが…」
「あ、寺山知事ですか?え、えーっと。ちょっと待ってくださいね…」

寺山の言葉を聞いた相手は、そういって少し慌てたような口調で受け答える。
それを不審に思った寺山は何があったのか尋ねた。

「どうしたんですか?なにかあったんですか?」

寺山の呼びかけに一瞬遅れて、次の言葉が受話器越しに送られてきた。

「あ、すみません、岩本課長に代わります…」

その言葉の後に足音などの雑音が続く。
そして改めて電話に出たのは防災危機対策課の課長だった。

「こちら防災危機対策課課長の岩本と申します、そちらは寺山知事でよろしいでしょうか?」
「はい、私が寺山です。そちらに要件があって伺ったのですが…」

わざわざ課長が受け答えするのは何故なのか少し疑問に思いつつも、地震が起きたからだろうと考える寺山。
案の定その予想は的中していた。

「ついさっき起きた地震のこと…ですよね?」
「はい、そうです。なにかそちらに情報があるのではないかと思ったのですが、どうでしょうか?」
「はぁ、それなのですが…」

なぜか口調が重い岩本。
わずかに震える言葉の節々から、受話器越しにただならぬ様相が伝わってくる。

「その…すぐに伝えたいことがあるので、対策課の部屋に来ていただけませんか?」
「え?あ、はい、わかりました」
「では部屋で待ってます」

そういって岩本は電話を切ると、寺山もすぐに受話器を下ろした。
具体的なことは一切言われていない。
ただ課長が直々に電話の相手をしただけ。

しかし寺山は妙な胸騒ぎに襲われた。
地震に引き続いて起こった通信障害。
災害であれば何ら不思議ではないどころかもっと甚大な被害が出ることだってある。
そう考えると今起きてる問題は些細なものかもしれない。
にもかかわらず寺山は冷汗が吹き出してくる。

地震についての情報、なぜ通信障害が起こっているのか、もしかするとここで起きたのはとてつもない大災害の片鱗に過ぎないのではないか。
いろいろ思考を巡らすも自分だけでは結論が出せない。
そんな寺山は答えを求めるべく、危機管理課の部屋へ向かった。


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