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死にたいと思ったことはあるか。私は今この場所から消えたい、現実逃避をしたいという意味での「死にたい」は何度か思ったことがある。
本気で死にたいと思ったことはあるか。確かに一度だけ通学途中にある歩道橋で、車の通りが多い横断歩道で、ここから飛び降りれば、飛び出せば私はこれ以上怯えずに済むのに、と考えたことがある。

私は昨日Instagramで友人のあげたストーリーを見た。そこには仲良し七人組でホテルで騒いでいる様子が収められていた。いつもなら友人のストーリを見て微笑ましい気持ちになるところが昨日は顔が強張ってしまった。乗り越えられていないのは私だけか。私は中学時代のトラウマを思い出していた。

私は中学時代、その中高一貫校で一番厳しいとされていた部活に所属していた。噂に聞いていた通り厳しい練習に多忙な日々を送っていたがそれは耐えられない程のものではなかった。なぜなら私には同学年の仲間がいたからだった。どんなに練習が辛くても、先輩が怖くても、同じ気持ちでいるであろう仲間がいたことは大きな支えとなった。そんなある日、私たちは顧問の先生からある課題を出された。それは、同学年のなかで順位をつけなさい。部活内での態度、技術面、そして人としての優劣をつけなさい、というものだった。きっと先生の狙いは私たちの中に競争心を芽生えさせ士気を高めることだったのだろうが、それが地獄の始まりだった。まず自分が二番目に優れていると名乗り出す者がいた。それに続いて三番目、四番目、五番目と自己申告をしていったが、仲間の一人が七番目を名乗った時、「貴方はもっと下の順位だよ」と声を上げた者がいた。怖くなった。普段あれだけお互いを鼓舞してやってきた仲間をこの人は見下していたのかと。そして私は控えめに九番目を名乗った。周りの反応も、「それが妥当だ」といった感じだった。
ついに最下位を決める時がやってきた。一位を決めるのにあれだけ手こずりあやふやにした私たちだったが、この時ばかりは全員の視線が一人の元に集められた。それはもう恐ろしいほどの速さで。彼女は頷いた。私たち全員に数字が振られた。私はあの日からずっと九番目の女。

あの日以来、私は人に番号をつけることがやめられない。無意識のうちに優劣をつけている。そして私はいつだって九番目、下から数えたほうが早いポジションに自分を位置付け、そのさらに下に人を並べる。ふと我に返って、自分がしでかしたことの恐ろしさに己を嫌わずにはいられなくなる。
私は自ら命を絶つことは思いとどまったが、進路選択で別の高校に進学した。程なくして、例の部活内での様々な問題が浮き彫りとなり廃部に追いやられたそうだ。私の同学年の間でまた新しく部活を創設する話が持ち上がったらしいが、その話に乗ったのは元の数の半分、七人だけだった。

高校を卒業した。卒業というものは過去を美化する力があるらしく、私を除いた同学年の多くは部活であった色々をなんだかんだいい思い出だったと締めくくっている。なんなら、過去の自分達を正当化までしている。それに反して私は、今の自分が大人になればなるほど、部活にいた日々を、そしてあの日のことを悔やんでたまらない。たまに来る同学年からの「会おうよ」という連絡に楽しかった思い出が応じさせるが、いざ会う予定の直前になるとどうしようもない恐怖に襲われる。優しく見えるあの子も私も時として人に、仲間に番号を付け、見下すことができる人達なんだ。そんなおかしな状況を止めることができない人達なんだ。そして彼女はその奇妙で恐ろしい様をも正しかったと、楽しかったと記憶しているんだ。

楽しそうに大学の話をしてくれる彼女の頭上に見える「2」という数字が消えてくれる日は来るんだろうか。


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