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知っておきたい高齢者の薬の使い方~⑧睡眠薬

薬には副作用が起こることがあり、生活上に支障をきたす場合があったり、思いがけない事故につながる場合もあります。もちろん安全に使っていたら問題ありませんが、使っている薬の種類に応じて、起こりうる反応について知っておくことで的確に対処することが出来ます。
この連載では、薬を服用している高齢者を介護しているご家族、または介護ヘルパーの方に向けて、お年寄りをサポートする上での注意点をお伝えします。

睡眠のメカニズム

1日の中で体は以下のようなサイクルを繰り返しています。
・朝:日光を浴びると体内時計がリセットされて、十数時間後に眠くなるようなスイッチが入る。朝食を食べることで体内の時計もリセットされます。
・夜:だんだん眠くなる。
・睡眠中:レム睡眠とノンレム睡眠が交互に起こり、朝の目覚めに向けて睡眠が浅くなる。

睡眠に関するホルモンも、1日の中で変動しています
オレキシン:人が起きていること(覚醒)を維持するホルモン。朝分泌されて、夜に近づくとだんだん減少する。
メラトニン:人が眠ることを促すホルモン。昼間はほとんど分泌されず、夕方以降暗くなってくると分泌量が増える。大豆製品や乳製品に含まれるトリプトファンというアミノ酸が原料となる。
睡眠には、心と体の疲れを回復する効果があります。質のよい睡眠をとるためには、「朝、日光を浴びること」や「食事をとること」など生活サイクルを整えることが大切です。

睡眠薬の種類

代表的な睡眠薬には、以下のようなものがあります。

睡眠薬の種類

以前は、ベンゾジアゼピン系薬や非ベンゾジアゼピン系薬が処方されることが多かったですが、これらの薬にはふらつきや転倒のリスク、依存性を生じてしまうといった問題点がありました。現在は、より自然に近い睡眠を促す作用のある、メラトニン受容体作動系薬やオレキシン受容体拮抗薬が処方されることが多くなっています。

睡眠薬で押さえるポイント

◎処方される睡眠薬と市販の睡眠改善薬の違いを知る

不眠を改善するための薬には、睡眠薬(睡眠導入薬)や睡眠改善薬など様々なものがありますが、以下のような違いがあり薬としてはまったく別物です。間違えた認識のまま、高齢者に伝えないよう気をつけましょう。

睡眠薬(睡眠導入薬)
医師による処方が必要で、医師の診断を基に使用される薬。
睡眠導入薬は、睡眠薬の中でも作用時間が短い(2~4時間程度で効果が切れる)タイプの薬。

睡眠改善薬
医師による処方がなくても、市販薬として薬局などで購入できる薬。
抗ヒスタミン薬の副作用として起こる眠気を利用しているもので、一時的に使うことを目的としている。

◎生活リズムを整える支援をする

質のよい睡眠のためには、生活リズムを整えることが欠かせません。家族やヘルパーさんには、訪問時に昼寝をしていたら声掛けをして起こしてもらったり、毎日同じ起床時間にして起きたら日光を浴びる習慣をつけたり、高齢者の日常生活のリズムを整えるサポートが求められます。

◎医師の指示どおりに使用する

「なるべくなら睡眠薬を飲まないで生活してもらいたい」という思いから、睡眠薬を飲まないように促してしまった経験がある人もいるかもしれません。
しかし、睡眠は先ほど説明したように心と体を回復させるための大切な営みです。必要な睡眠をとるためにも、睡眠薬は医師の指示どおりに、適切な量を適切な期間、継続して使用することが原則です。医師の指示の下、徐々に減薬していくことで不眠状態を改善していくことができます。
また、睡眠薬を突然やめてしまうと、薬を飲まないことで余計に眠れなくなってしまう”反跳性不眠”を引き起こしてしまうことがあるため、急に断薬しないよう注意が必要です。
家族やヘルパーさんは、医師の指示どおりに使用できているかを確認しながら、睡眠がとれているかどうかや、副作用の症状が出ていないかを見守り、普段と違った様子がみられたら医療職に伝えることが大切な役割です。

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<監修>
堀美智子
薬剤師。医薬情報研究所(株)エス・アイ・シー取締役/医薬情報部門責任者。一般社団法人日本薬業研修センター医薬研究所所長。名城大学薬学部卒・同薬学専攻科修了。著書、メディア出演多数。
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