いっしょに奈良に旅行した叔父
くせ毛で生まれた私は、顔も叔父にいちばん似ていた。
叔父と写っている写真は、一枚だけ。近寄る鹿に泣きそうな顔の私を、袴の和装の叔父が笑顔で抱っこしている。
奈良。一回きりの一緒の旅行。
自営業だった叔父は、めったに旅行に出ることはなかった。
小さい時は、店をする叔父と叔母の家で、よく過ごした。息子一人だけなので、私は可愛がられた。叔父と睦ぶ時間の方が、父よりも多く、楽しかった。
誰からも聞かないような言葉も教えてくれた。
学齢前の私を、叔父は、よく連れ出した。おじちゃんとデートしよう、と。
5才で、幼なじみと結婚すると言ったら、やすこのフィアンセじゃな、と新しい言葉をくれた。
幼稚園の時、叔父との「デート」の最中。浪曲を唸る調子で、叔父が言う。
やすこの操は、おじちゃんがもらう。
デートやフィアンセのように、知らない言葉。おじちゃんにあげる何か、と理解した。
叔父の通夜で、この話をした。
父以外の皆が笑っていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?