見出し画像

[ショート•エッセイ] 思い出の、物悲しい、子どものための作品(1) 童謡「おかあさん」

若くなくして親になった私には、自分の子どもの頃が、かなり遠くになっていたので、小さい子どものための童謡やお話は、たとえ私の子供時代からあるものでも、懐かしさよりは、新鮮さが勝りました。現在、うちの子どもらは、もう十代で、その思い出自体も、古くなってきています。子育て当時のノスタルジアと共に思いだす、特に印象深かった、もの悲しい作品の数々。これは、その一つです。


童謡「おかあさん」

私の母も、よく歌っていました。

 おかあさん、なあに。
 おかあさんて、いい匂い。
 洗濯していた匂いでしょ。
 シャボンの泡の匂いでしょ。

私に新鮮な驚きだったのは、二番の歌詞。

 おかあさん、なあに。
 おかあさんて、いい匂い。
 お料理していた匂いでしょ。
 卵焼きの匂いでしょ。

お母さんが料理していることを、わざわざ歌っていながら、それが、ただの卵焼きというのに、失礼、でも、大きな違和感。

卵焼きは、お弁当の定番だし、毎朝作る人も、今でもたくさんいるし、私の子育て当時でも、もちろんいました。でも、子供の目線で考えると、卵焼き程度で、子供がわざわざ、いい匂いだね卵焼き!などと言うのは、ちょっと想像しづらいものでした。それに、朝は忙しいから、子供も、作っているおかあさんも、卵焼きにコメントしあってにっこり笑う余裕はないのでは。

言葉にして言うとしたら、時間の余裕が比較的ある夕飯とか、週末の食事。そしたら、やっぱり、肉の焼ける匂いとか、もっと強烈なものに子供は反応するんじゃないでしょうか。小さいから、カレーはまだかもしれないけど、ハンバーグとかスパゲッティーとか。

もちろん、この歌ができた当時の世相では、卵焼きが、ごちそうとまでいかなくても、こんな歌いたくなるようなうれしい料理であったということ。そして、卵焼きを焼いてるおかあさんは、家で、子供とこんなやりとりをするゆとりがある、たぶん専業主婦。それが、憧れというか、理想的な家庭のイメージだったんだろうなと思いました。

考えてみると、1番の歌詞の、洗濯のしゃぼんの匂いがしているお母さんというのも、なかなか。手洗いしてるんですよね。私が子供の頃には、洗濯機はもうありましたが、まだ洗濯板もありました。むかし父が、結婚した頃にいつかは必ず、と思った三種の神器は、すぐに手に入ってしまったと言っていました。テレビ、冷蔵庫、洗濯機です。

歌いやすく、「おかあさん」という言葉が入るこの歌が好きでした。でも、いつも、そこはかとない哀切を感じていました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?