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【エッセイ】 シュウと俺の融合 しめじさん企画のリレー小説 「不確かな約束」 に参加して

初体験のよろこび。痛み。疲れ。見たことのない景色。


俺は、今月、それを2回も味わった。きっかけはどちらも同じ人だった。


一つは、自分が立ち上げた企画。3行短文で、自分の過去記事をリライトしようと呼びかけた。

この企画主催は、しめじさんが、いつか、あきやまさんもしてみたら、と言ってくれていたからだ。コメント欄で、考えときます、いつかは、と返事をしていた。いつかは、を、いつかしてみようと思っていた。


もう一つは、そのしめじさんが主催する企画への参加だ。

しめじ企画に参加するのは初めてではない。どれも参加するたび、俺は、書くことで突き抜ける経験をしてきた。

一番大きくイったのは、3行短文詩の企画のときだ。その定型詩を提唱した zep0814 i理昭さんとしめじさんは、俺の恩人だ。3行短文を知ってから、俺には書くことが楽しいだけのことになった。

 今回、初体験だったのは、書くものが、小説だったことだ。


今回のしめじ企画は、リレー小説。面白いのは、同じ主人公で、2つの話が同時進行することだ。一つは、しめじさん自身が一人で書く。もう一つは、色々な書き手が繋ぐ。しめじさんが生み出した主人公は、東京育ちの若い恋人たち、シュウとユキ。

序章を書いたしめじさんが、各章の時間枠と、創作でのコンセンサスを紹介した。全10章あるうち、書きたい人が名乗りをあげる形で、リレー小説は始まった。参加を決める人は、すぐにだったり、しばらくたったり、様々だった。

しめじ企画だったので、また飛び込んでみたかったが、足がすくんだ。それに、他の書き手の話を読むだけで十分楽しかった。

俺は、詩は書く。自分を詩人だとも名乗る。実際に経験したことも文に書くようになってはいた。でも、たとえ短編でも、小説では、俺がします、と言う気にはなれなかった。

後半になり、再度の呼びかけがあった時、思いきった。後押ししたのは、しめじさんが、名前を出して聞いてくれたこと。また、名乗りをあげた他の人たちも、挑むとか怖いと言っていたこと。そして、同時進行で自分がやっている企画の方で、難しいと言う人が何人も出たせいだ。

3行短文を、どうして難しいと思うのか、正直わからなった。俺には、ただ楽しいだけの3行短文という定型詩。ジャンルが違う、したことがない、というのはわかる。でも、たかが4音4節3行なのに。

それで、自分も、新しいジャンル体験に踏み切った。


初めは、女性キャラの章なら、と思っていた。でも、俺が手を挙げたのは、シュウ就職編。

シュウは、他の書き手の筆で、大阪の大学に行った。卒業後は、広島の造船会社に勤めが決まったと書いてあった。中国地方が舞台なので、俺にも書けそうな気がした。



結論から言うと、疲弊した。最後の話を投稿した後、手をあげてゴールしたような達成感と、脱力感におそわれた。さながら、ラブホテルで果てたシュウ。

フィクションというジャンルでは、小学校以来、全く書いたことがない俺は、ノウハウも分からず、書けることだけ書いていった。そして、推敲を繰り返した。

書き足し、削り、辻褄を合わせ、話や人物像、人間関係、それ以前の話の筋とに破綻がないように。100回まではいかないが、50回は見直した。最初は、その一話だけのつもりだった。

俺は、シュウと一つ年上の職場の先輩の恋愛を書いた。次を書くつもりもなく投稿した話は、シュウと先輩が、海の近くで抱き合う場面で終わる。先輩は苗字だけ。

投稿してから、二人の行く末についてのコメントをいくつかもらった。俺自身も、二人はどうなるのだろうと思っていた。自分の割り当ての章は、これで終わった気でいた。

でも、しめじさんまでコメント欄で質問していた。続き、どうする、と。しめじさんの押しは、ゆるい。俺に決めさせてくれる。それを見た時、続きを書いてみたいな、と、できない、こわい、を一度に感じ、俺はフリーズした。

半日くらい考えた。話の続き。この話の終着点。考えつく会話。先輩の名前。1話になかった肉体関係。

俺は、コメント欄で、続きを書くと返信した。書き出したら長くなって、結局、計3話になった。

続きを書き出してから投稿が終わるまでの一週間。だんだん、俺はシュウになっていった。そうでなければ、書き進めなかったのだろう。

書く以外のことが、すべておろそかになった。家事も、家族も、仕事さえ。毎晩の入浴も、2回入ったかどうかだ。就寝も遅くなり、夜中に目が覚めると、冴えてしまって寝つけなくなった。

俺には、シュウと相手の女性の気持ちが、両方とも入ってきた。創作した事柄も多くあるが、俺自身が若かった時の経験や見聞きしたことを、ちりばめたりもしていた。

自分のことを書いているつもりはなかったが、書きながら、シュウにも相手の女性にも感情移入した。傷つけたり、傷つけられたり、傷ついたり、傷ついた相手に気づかぬふりをしたり。

俺は、消耗した。果てた。



ジャンルが違うというのは、こういうことなのだろう。

フィクションはつらい。ゼロから、何もかもを創り出すというのを、面白がる人や、仕事にまでしている人がいることが、不思議でしかたがない。

今回のは、人物設定がきちんとしてあり、前の章を書いた人たちが、とりどりに色めき立つ、躍動する、逸話や会話を繰り広げ、肉づけをしてくれていた。話の筋や思い出や人物の思いも、深く書かれてあった。

俺の担当は「就職編」という枠があり、前の書き手のあんこぼーろさんが、シュウの仕事先も決めてくれていた。それらがなかったら、俺は、どう進んでいいのか、見当がつかなかったと思う。

いくつもの章を書いた拝啓あんこぼーろさんはじめ、七海 / Nanamiさん、Mizuki さん、ac さん、俺の前の章を書いた人たち皆に感謝する。でも、どの人の章も、お世辞でなく、引きこまれるようなものばかりで、それがプレッシャーにもなったのだが。俺の後の章を書いた、数理落語家 自然対数乃亭吟遊さん、そして、最終章の水野うたさんの章を、書く前に読まなくて済んだのは幸いだった気がする。(実は、あんこぼーろさんの筆による、俺の広島編の直の続きを読んで、落涙したところ。)

俺は、文字数や型に制約のある、3行短文に魅入られているが、さもありなんと思う。俺は、縛り、が好きなのだろう。制約があるから、自由に書け、楽しめている気がする。

note に参加して5か月。小説は、俺は、できそうな気も、しようという気もなかった。いつかは、などとも思ってもいなかった。それでも、今回書きあげて作品の形にできたのは、ある意味、また突き抜ける経験だった。そのことは、文字通り、有り難く思う。でも、また書いてみたいとは思わない。


最後に。感情移入や、自分に重ねて、と書いたので、誤解のないよう。書き手としての俺は、男性器もないし、つきあった相手にも誰にも、デートレイプまがいのことをしたことも、されたこともない。そして、だから、シュウの、いただけない性行動が、疲弊しながらも、俺は平気で書けたのだろうと思う。


なんにせよ、俺を何度も突き抜けさせてくれた恩人に、言い足りないくらい感謝している。

しめじさん、俺を男にしてくれてありがとう。


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そのリレー小説は、こちら。どちらも、ドキドキします。みんなで創る編は、あと最終章を残すばかり。しめじさん、ときめきをありがとう。


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