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昆虫博士を夢見た少年、ラノベ作家になる。


というわけで意味不明なタイトルをつけてみましたが、要は新人賞を受賞するまでの半生をゆるく振り返ってみようという自語り記事でございます。

読者の皆様におかれましては、「へえ〜こんな奴がラノベ作家になるんだねえ〜」と夏休みの自由研究がごとく不思議な虫の生態を観察するくらいの気持ちで眺めて頂けますと幸いです。

それではどうぞ。


【カブトムシを愛し、カブトムシに創作を見出した小学校編】

199X年、場所は九州・熊本、その中でも一際大自然に囲まれたクソ田舎に爆誕した僕は小学生時代、毎日のように野山を駆け回る原始的少年でした。 至るところに秘密基地という名の鳩の巣じみたガラクタ置き場を乱造したり、または全裸で池を泳ぎ回っては一心不乱にアメリカザリガニを乱獲して図らずも外来種駆除への貢献を果たしたり、あるいは狂ったように裏山に登っては山頂から町並みを見下ろし世界の支配者にでもなったような気分に浸ったり……。

とまあそんな風に自然と戯れて生きておりましたので、必然、あの頃の僕はきっと虫捕りなんかにも日夜明け暮れる全力少年でございました。

特に好きだったのは──やはりカブトムシです。

あの無骨なかっこよさがたまりませんでした。おかげで色んな昆虫に興味が湧き、両親にねだって昆虫図鑑を何冊も買ってもらいました。知らない虫を捕まえるたびに図鑑を開きましたし、そうでなくとも一時期は貪るように読んでいた記憶があります。おかげで小学校低学年のときの将来の夢は「昆虫博士」でした。ガチでした。

まあ何年か経つ頃にはそんな夢も忘れてしまうのですが、しかしカブトムシをこよなく愛した短パン小僧が地元のショッピングモールで開催されたムシキング大会で見事に準優勝を果たすことになるのは、また別のお話……。

とまあそんなこんなでカブトムシ好きだった田舎少年の僕ですが、ついに創作の世界に関心を抱き始める時期がやってきます。

それは確か小学校4年生くらいの時でした。理由はもう覚えていないのですが──確かシャーマンキングにハマった影響だったような気がしますが──自分で漫画を描こうと唐突に思い立ったのです。

当然プロットや設定などは皆無で、当時の僕はとりあえず思いつくままに大学ノートに鉛筆で漫画っぽい何かを描き殴り始めました。

内容は「世界を旅する記憶喪失のイモムシ(カブトムシの幼虫)が、行く先々でトラブルに巻き込まれては諸悪の根源(ボスキャラ的な悪い虫)をバチボコにぶち倒して街の虫々を救いながら自分の正体を探す物語」的なやつでした。
主人公、普段はイモムシ形態で弱っちいんですが、怒りのパワーかなんかで覚醒すると成虫モードに変身してめちゃくちゃ強くなるみたいな設定だったと記憶してます。ちなみに虫とは言いつつ二足歩行で人型です。イメージ的にはざっくり仮面ライダーカブト的な感じです。あと覚醒してからのバトルは完全にドラゴンボールでした。敵キャラはカマキリとかクワガタとかなんですけど、くそほど肉弾戦で挙げ句の果てにはかめはめ波みたいなの撃ちまくりますからね。
あと主人公のカブトムシの正体は物語世界における王族のひとり……とかだったような。

タイトルはこれまた記憶が曖昧なんですが、確か「甲虫王者カブク」とかだった気がします。普通に死ぬほどダサくて恥ずかしいですね。

とまあそんな完全黒歴史なオリジナル漫画なんですが、当時は意外とクラスメイトに人気でして、他のクラスの生徒からも「はやく続き描いて読ませて」と言ってもらってた記憶があります。めちゃくちゃ嬉しかったですね。今思えばこの時の経験が創作に対する愛の根っこを成しているのかもしれません。

さておき、おかげでカブクは最終的に大学ノート6冊分の超大作になりました。途中描かない時期があり、最後の6冊目を描いたのは中学になってからだった気がしますが。しかも厳密には未完のまま終わったような……。
というのも、これらのノートはもう手元にないため定かではないのです。いつかの大掃除の際だったかに廃棄してしまいました。今となっては捨てなければよかったとちょっぴり後悔しています。いずれ1000万部作家の創作人生を知ることができる貴重な資料となるはずだったのに……。(妄言

とまあそんな感じで小学校編は終わりです。(ちょっぴり中学時代にもさしかかってしまいましたが)
ざっくりまとめると僕の小学生時代とは、「田舎生まれのわんぱく小僧、昆虫博士を目指したかと思いきや謎のカブトムシバトル漫画を描き始め、そこで創作の喜びを知る」てな具合でございます。


【いちご味の中学校・ただの人間に興味をなくした高校編】

続いて中学高校編ですが、中学時代については特に語るような内容はなさそうです。それくらい創作とは無縁の中学生活でした。

ひとつ面白い話があるとすれば、中1のとき朝読書の時間にひとり優雅にいちご100%のノベライズを読んでいたら先生に没収された挙句職員室に呼び出されたことくらいのものです。好きな本を読んで構わないと言われていたのに……。
ちなみに僕の推しは北大路さつきちゃんでした。健全な中学男子といえば胸が大きくて積極的でえっちなお姉さんが大好きだと相場が決まっているんです。

あといちご100%が好きなあまり映像研究部を立ち上げようとしてあえなく失敗しました。その結果僕は仕方なく幼馴染に誘われた陸上部へと入部し、結局そのまま大学まで(なんなら社会人になっても)陸上競技を続けることになるのですが、まさかそんなトラックアンドフィールドな未来が待ち構えていようとは、その時の僕は知る由もないのでした……。

そして高校時代。ここでもほとんどの時間を、小説とは無縁のまま過ごしました。走って走って走っての毎日で、ひたすら部活に明け暮れていました。(なんならキャプテンまで務めました)

そんな僕にとって人生の転機となったのは、とある作品との出逢いでした。

それこそが人生で初めて読んだライトノベル──『涼宮ハルヒの憂鬱』です。

衝撃でしたね。
この世にはこんなに面白い小説があるのかと。それまで読書の習慣などなかった僕でしたが原作一式買い揃えて貪り読みました。

それからハルヒ以外にもいくつかラノベを読みました。中でも特にハマったのが『僕は友達が少ない』と『緋弾のアリア』でしたね。そう、両作品ともMF文庫Jから出版されている作品です。たぶん僕がMF文庫Jの装丁を一番好きなのはこれが理由だと思います。ほんと緑の背表紙が好きすぎる。美しい。ビューティフル。

とまあさておき、ここでようやくラノベとの鮮烈な出逢いを果たした僕は、さらに『魔法少女まどか⭐︎マギカ』とかいう超絶センセーショナルな神アニメにどハマりしたのもあって、小学生時代の創作魂が再び疼き出したのか、自分でもラノベを書いてみたいという気持ちを抱きました。

当時、人生における読書量はミジンコレベルだし(今もですが……)、小説はもちろん試験以外じゃろくに文章というものを書いたことがなかった僕ですが、勉強では国語が一番得意だったこともあり謎の自信に満ち溢れていました。

ということで書きました。
……速攻で自分じゃ無理だと痛感して諦めました。

いやー小説を書くのって難しいものです。こりゃ自分には書けないわとなって、ただの一般オタクとして生きていくことを決めました。俗にいう挫折というやつです。

確か書いたのは結構オーソドックスな異能バトルものだった気がします。
「隕石の飛来によって人類に異能がもたらされた世界。主人公は金髪碧眼の不思議な美少女と出逢う。彼女は『情報改変』という凄まじい能力を具えた──否、能力そのものが人の形を成した特別な存在だった。そんな彼女を取り巻く様々な陰謀に、主人公は否応なく巻き込まれていくことになる──。」的なストーリーだったはずです。

文章は下手くそだしストーリー展開はくそほどテンプレかつ無理矢理なご都合主義全開で、まるで読めたもんじゃありませんでした。データはもう残ってないのですが、流石にもう成仏してくれたと思います。なむなむ。

とまあそんな感じで早々に筆を折った僕は特に何の志もないまま地元の大学に進学する運びとなり、その後はとことん堕落した大学生活を送ることになるのでした……。


【時に戦国の世を戦い、時に麻雀牌で物理的に殴り合い、時に奇跡や魔法を信じ抜き、そして時には神にすらも抗った大学編(ループver.)】

就職に潰しが効くからとかいう理由で親に言われるがままさして興味もない法律の分野へ進んだ僕でしたが、案の定というべきか、学びたくもないことを真面目に学ぶわけがありませんでした。

本当は続けるつもりなんてなかったのですが紆余曲折あって陸上競技部(サークルではなく大学体育会に属するガチの部活動です)への入部を果たした僕は、ろくに講義にも出席せず、ひたすら週6日のバチバチな練習に明け暮れることとなります。

いえすみません、講義をサボり尽くした理由がもうひとつあります。部活に打ち込む一方で僕は、なんとも大学生らしい堕落した遊びにも手を出すことになるのです。──それはパチスロでした。

同じ陸上部の友達に誘われて、気がついたらいつメンでよく遊びに行くようになりまして。
僕のパチスロ全盛期は5号機時代なのですが、当時から結構アニメ版権を使った遊戯台が多く存在してましたし、オリジナル版権にも萌え萌えなものが結構あって、オタクな大学生の数多くを沼に引き摺り込んでましたね。

オリジナル版権だと戦国乙女剣戟に舞う白き剣聖、麻雀物語2、マジカルハロウィン3、秘宝伝太陽とか。
アニメ版権だとコードギアス、まどマギ辺りを好んで打ったと記憶してます。
まあ実際は遊び打ちすることはあんまりなくて、ひたすら期待値を追ってたので何でも打ってたんですが。

しかしまあ白き剣聖の無演出からの2段階リールロックでフリーズを期待する瞬間とか、秘宝太陽の第2天井からの超秘宝ラッシュロングでイケイケになった時とか、まどマギでフリーズからのアルティメットバトル40連させて860Gくらいぶち乗せた時とか最高でしたね。今や懐かしいものです。

ですが人生で一番回したのはおそらくアナザーゴッドハーデスだと思います。
相性が良すぎて650Gくらいから天井狙いしてたので。そんでだいたい天井行く前にGOD揃い(1/8192の確率で出現する、引いたらメダルいっぱいでるやつ)を引いちゃうので勝率半端なかったと記憶してます。系譜とか凱旋と違ってブラックアウトする時の音が低音なのがまた良いんですよね。系譜凱旋は「カオォン────。」みたいな高めの音なんですけど、ハーデスの場合は「ブウウウゥゥゥン──……。」みたくダークで重々しい感じなんですよね。あとAT中のリールロック演出でハーデスお父さんが鎖に繋がれてるのも好きでした。3段階までいくとお父さんが「んもぉーーーー!!!」って雄叫びをあげてプチュンするんですよ。すみません、どうでもいい話をしすぎました。

とまあそんな怠惰の極みを尽くした大学生活を送ったがために、僕の大学生ラッシュは無事にループ率を持つこととなるわけです。ギャンギャンギャン!!!ピピピピプポポプィーンプィーン!!!!4年生継続ッ!(近年の台にありがちなクソ派手な演出)です。

確か必修とかの関係で4年生開始時点で留年が確定してましたので(そうじゃなくても必要単位128単位とかに対して3年終了時点で70〜80単位くらいしか持ってなかったと思います)、1回目の4年生は部活引退もあって最初から暇暇の暇でした。

そんなもんで同じく華麗に留年を決めた友人と相も変わらずホールに足を運ぶ毎日を過ごしていた僕ですが、夏季休暇に差し掛かった頃、あまりに暇すぎて懐かしい感情が再び芽生えることとなります。

──そうだ。もう一回、小説を書こう。

友人たちと「俺小説書くわ!一次選考通ったら凄くね!?」なんて話しながら、そうやって僕は約4年ぶりに小説を書き始めました。
確か1ヶ月くらいで書き上がったと思います。

タイトルは『【E》te-r-na《L】』。
内容は「平凡な女子中学生・永遠(とわ)はある時、ミステリアスな転校生・久遠(くおん)が殺人を犯す場面を目撃してしまう。恐怖のあまり逃げ惑う永遠は最終的に交通事故で命を落としてしまうのだったが、しかし彼女は謎の男〈ジョーカー〉の力によって蘇生し、その代償として〈ソリテュード(要は魔法少女)〉となり〈イマーゴ〉と呼ばれる人外の化け物と戦い続ける宿命を背負うこととなる。
そして久遠もまた同じ運命を背負ったソリテュードだった。
終わりのない呪縛から逃れるには、打ち倒したイマーゴが落とすトランプを模したカードを53枚全て集めることで願いを叶え、本当の人間に戻るしかない。
化け物の命を奪わなければ生きながらえることのできない仮初の命。そしてソリテュード同士の間で巻き起こるカードを巡る殺し合い。
地獄に等しい世界の中で、ふたりの少女はどう生きるのか──。」
みたいな感じだったはずです。

まあもうまどマギ全開なお話でした。
しかしながら当時の僕は「うおおお最高の一作ができあがったぞ!」と自画自賛しながら意気揚々と新人賞に応募したものです。
送ったのはもちろんMF文庫Jでした。

ワクワクしながら結果発表を待つ毎日でした。
一次選考の結果発表があった時は、確か友人達とラーメンを食べてたと記憶してます。
ページを開くと、嬉しいことにそこには自分の名前がありました。
めちゃくちゃはしゃいだと思います。
二次選考も通ったらどうしよう!?ていうか受賞したらどうしよう!?なんて考えながら最終発表を待つ毎日となりました。

ですがあいにく発表当日まで電話はこず。
まあそんなに上手くいかないか〜なんて思いながら僕は最終結果のページを開いてみました。

するとなんと三次選考通過者の欄に自分の名前が。

「え!?最終まで残ってるじゃん!?」

と、自室でひとり超絶驚いたのを覚えています。
しかもその予備審査では受賞作ゼロだったので、実質トップみたいな感じでした。
もう信じられないような気持ちで、しばらく呆然としてましたね。

そんなこんなしてるうちに電話がかかってきて、出てみるとMF文庫Jの編集さんでした。
そこで改めて「あ、夢じゃないんだ……!」と思ったことを覚えています。

それから出版社に呼んで頂いて(熊本⇔東京のチケット代、宿泊費まで全部出してくれました)、顔合わせなんかしたりして、その方に担当について頂くことになりました。当時はただのスロカス大学生で小説もなんとなく一本書いてみただけの人間でしたから、もうなんかスッゲー世界を見せてもらったような心地でしたね。

はてさて、そうして晴れて担当付きになった僕でしたが、このまま次作辺りでさくっと受賞して作家デビュー──とはいきませんでした。
当然ですね。知識も経験もない、暇を持て余したがゆえになんとなく筆を執っただけの怠惰な大学生が本当の意味での実力を具えているはずがありません。

大学5年生のうちに2作ほど新作を書き、どれも一次選考通過止まりで終わりました。
いやーなかなか受賞できないなーなんて思ってるうちに大学卒業となり、いよいよ一年遅れの社会人デビューをする運びとなって、元々暇だから小説を書いていただけの男は、
「まあ、またいつか書きたくなったら書けばいっか、いうて最終に残る才能はあるんだし、受賞はそのときにすればいいやー」
なんて根拠のない自信はそのままに、忙しさを理由にして再び創作から離れていくことになるのでした……。


【社会の歯車と化していた男、ミステリと出逢い情熱を取り戻す。そして受賞へ至る社会人編】

社会人になってあっという間に4年が経ちました。
その間、小説を書くことはまったくなく、なんならアニメもあんまり見なくなり、ただただ社会の歯車としてサラリーマンな毎日を送るだけの平々凡々なお酒マンとして過ごしていました。

そんな中で転機となったのは、例の新型コロナウイルスの流行です。

おかげで外出の機会が減り、自宅にいることが多くなり、必然、時間を持て余すようになりました。

そんなわけで約4年ぶりに再び、いや三度、筆を執る日がやってきたわけです。

書いたのは、懲りもせずに魔法少女モノでした。
タイトルは『ウィッチズ・コード』。
内容は「かつて、異世界の住人──最凶の魔女ディファテナ・エルゼガルド率いる魔女の軍勢が門〈ゲート〉を通って現れ、人間世界への侵攻を開始した。
科学兵器の悉くを寄せ付けない魔女達を前に滅亡の危機に瀕する人類だったが、やがてひとりの魔女がディファテナに反旗を翻す。
彼女の名こそ──伝説の英雄たる魔女・フィエスタだった。
彼女の使役する白銀の大魔法〈ヘルナヴァーン〉は、ついにはディファテナすらもゲートの向こうへと退却せしめた。そしてフィエスタはゲートに強力な封印魔法を施し、人類世界は平和を取り戻したのであった──。
──時は過ぎて現代。
魔女の残した魔法が一般的となった世界で、主人公の女子中学生・好乃(よしの)は魔力回路(コード)を持たない無能力者だった。
しかしある時、魔女の残党が引き起こした事件に巻き込まれ、彼女は瀕死の重傷を負う。
そこに現れる白銀の影。紛うことなき英雄の姿。伝説の魔女・フィエスタ。
先の大戦での無理が原因で寿命尽きる寸前だったフィエスタは、それでも死力を振り絞って好乃を襲った魔女を打ち倒したのち、最期にもうひとつ命を救うべく──好乃に自らの心臓を移し渡す。
そうして好乃は命を繋ぎ、さらには伝説の大魔法〈ヘルナヴァーン〉をも継承することになるのだった──。」
的な話だったと思います。
人間を憎み滅ぼそうとするフィエスタの血を継いだ実の娘ヴァイオレッタと、人間を守るために戦うフィエスタの魔法を継いだ主人公とのぶつかり合い、みたいな感じで書きました。

そんな作品を久方ぶりに第17回MF文庫Jの1期に送ったわけですが……結果はまたもや一次選考通過止まり。

やっぱだめかーなんて思いつつ、またもや僕は書くことをやめます。(何度目やねん)

しかし今度の休止は短めでした。

きっかけはミステリ小説にハマったことでした。

2021年に入って間もなく、なんとなくミステリ小説を読んでみようと思い立った僕はとりあえず有名どころを何冊か買って読むことにしたのです。

そこで僕の頭をガツーン!と殴ってくれたのが、島田荘司先生の『占星術殺人事件』でした。

いやミステリ面白すぎるやろがーい!!!ってなりましたね。あと名探偵というキャラクターにとてつもない魅力を感じもしました。2次元オタクはやはりキャラクターというものに惹かれるのかもしれません。

それからというもの、来る日も来る日もミステリ小説を読み続け、ある時ふと思ったのです。

「自分も探偵モノのラノベを書こう」と。

世間ではたんもしが人気を博していることもあり、時流的には狙えると思いました。

そうと決まれば早速書かねば、と爆速で書いたのが人生初の探偵ライトノベル『家達一択は間違えない』でした。
内容的には〈能力者達が通う特殊な学園〉を舞台に、そこで起こる奇怪な事件を主人公で探偵の家達一択くんが華麗に解決するお話です。ただ、初めて書くミステリラノベということで殺人が許容されるのか分からず、事件的には人が死なない事件(具体的には意図の見えない連続拉致事件)をストーリーの軸としました。

初めて書いたにしてはそこそこロジカルでどんでん返しが決まった話に仕上げられたと思います。
こりゃ賞もろたで!と自信満々に第18回MF文庫Jの1期に送りましたが……結果は一次選考落選でした。

嘘だろ……?と最初は思いましたが、頂いた評価シートに「なんかずっと暗くて重たい」的なコメントが書いてあるのを見てハッとしました。

「そうだ、俺は一体何を考えてたんだ……俺が書くべきなのは『ライトノベル』だろうが……ライトノベルを書くならキャラが魅力的で楽しい話にしなきゃダメだろ……!」

そんなことを考えた僕は、今度はトリックではなくキャラクター造形から先に入り、個性的で可愛く突拍子もない設定を盛り込んだヒロインをつくりあげ、そのヒロインが活躍できるミステリラノベを書くというやり方をとりました。

そうして出来上がった作品が『悪食緋蒼が厄魔探偵たる所以』です。

この作品が、幸運にも第18回MF文庫Jライトノベル新人賞3期で最終選考まで残ってくれました。
編集さん(この方が今の担当さんです)から連絡を頂いたときは本当に嬉しかったです。
「この方向で間違ってなかった!つーか2回目の最終とかワイの才能やべえ」
とか内心でめちゃ図に乗りました。

コロナ禍ということもあり残念ながら三次選考通過者特典の出版社訪問は見送りとなりましたが、改めて担当さんについて頂けたことが何よりの収穫でした。(以前の担当さんとは長らく連絡をとっておらず、その間にいなくなっておられました)
早速色々と相談し、最終落ち作品を改稿してもいいとは言われましたが、結局はヒロインの名前と設定の少々を流用しただけの新作を書くことにしました。

そうして書いたものが『冴木探流の推理「悪食緋蒼は×××なのか?」』でした。
より派手な物語を目指して書き上げた本作を第19回MF文庫Jの1期に提出しましたが……結果は受賞に至らず二次選考通過止まりとなりました。

でも落ち込んだりはしませんでした。というのも提出後落ち着いた段階で自己分析をしてまして、何が足りなかったを既に把握していたからです。
そして評価シートを見た時に確信もしました。
そこには自分が思ったのと同様に「もっとエンタメに振り切れ」的なことが書いてあったのです。

評価シートを見た時、ひとりでにやりと笑ったことを覚えています。
「分かってますよ。だから今度のはとびきりぶっ飛んだエンターテイメントを送ってみせますから」と。

ラノベにおけるエンタメとは、つまりどれだけキャラクターが立っているか。個性的で魅力的に描けているか。だと僕は解釈しています。

そのために僕は、作品に出てくるヒロインは全員がメインヒロインである必要があると考えました。

それを実現するためにとった方策が──メモ帳に保存してある色んな作品のアイデアからそれぞれメインヒロインを引っ張り出してひとつの作品にぶち込む。でした。

皆さんきっとメインヒロインの造形にはとことん拘る人が多いと思います。でもサブヒロインとなると無意識のうちに手を抜きがちじゃないでしょうか。従来の僕はそうでした。
その弱点を補う方法として編み出したのが『元々メインヒロインのつもりで一生懸命考えた別作品のキャラクター達をひとつの物語に集結させる』という荒業だったわけです。

こうしてやばほどメチャクチャな話をどうにかこうにか一本の長編にまとめ上げたものが『探偵に推理をさせないでください。最悪の場合、世界が滅びる可能性がございますので。』です。

正直に言うと、書き上げた時点で受賞を確信しました。それくらいの最高傑作でした。確かに敬愛するハルヒの影響を多分に受けた作品にはなりましたが、それでもキャラクター達の個性はオリジナリティ抜群だと、ここまでぶっ飛んだエンタメは俺にしか書けないと、間違いなく最高のライトノベルになっていると、贔屓目なしにそう自信を持てる仕上がりでした。(今となってはめちゃくちゃ改稿点だらけの作品だったわけですが……笑)

そうして担当さんに作品を提出して数ヶ月後──担当さんから「今日電話できますか?」とメールを頂き、その日の電話口で「おめでとうございます、デビュー決定です」との言葉をもらった時は、それまでの自信とは裏腹に心の底からホッとしたことを覚えています。

ですが、その時の気持ちを正確に思い返すと「ラノベ作家になれる!嬉しい!」とは少し違ったような気がします。
多分、その時の自分は「ということはこの作品を世に出せる!?たくさんの人に読んでもらえる!?知ってもらえる!?このめちゃカワなヒロイン達を!」みたいな気持ちだったと思います。それだけ作品が気に入ってたんだと思いますね。

また、前回落選した『悪食緋蒼は×××なのか?』を興味本位で他社さんの評価シート欲しさに第16回講談社ラノベ文庫新人賞に応募していたのですが、大変ありがたいことにこちらでも佳作を受賞させて頂く運びとなりました。
自分にとって悪食緋蒼ちゃんはとても大切な存在なので、この子も世に出せることが本当に嬉しいです。

あと連絡のタイミングは結構違ったのですが、発表のタイミングがほとんど一緒だったので同時受賞感が増してなんとなく誇らしかったです。笑
その節は皆さんお祝いの言葉本当にありがとうございました。
また、先日のMF文庫Jの最終結果発表の際にも審査員特別賞を改めてお祝いしてくれたのもめちゃくちゃ嬉しかったです。重ねてありがとうございました。


【おわりに】

さて、というわけで脈絡もなく書き連ねていたらなんと10000文字を超えてしまいました。ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございます。そして駄文を散らかすばかりで申し訳ございませんでした。

以上が昆虫博士を目指した少年がラノベ作家になるまでの半生にございます。
なーんだ、こんなちゃらんぽらんでも賞が取れるんだから自分にだって取れないことはないな、そんな風に思って頂けますと幸いです。

中には日々苦しい思いを抱きながら創作に向き合っておられる方もいらっしゃると思います。
自分には才能がないんじゃないかと、そう諦めそうになることもあろうかと思います。
ですがこの通り、自分だって何本もの筆を折った人間です。それが最終的に受賞できているのですから、あなたも絶対に受賞できます。

それまで全然結果が出せていないのだとしても、ほんの少しの気づきがあれば、きっかけがあれば、創作力は爆発的に飛躍すると思います。自分の場合、その気づきを与えてくれたのはミステリ小説でした。あなたにとっては別の何かかも知れません。それを見つけてもらえたらと思います。

というわけで、あの日聞いた校長先生のスピーチよりも冗長で退屈だっただろう酒飲みミステリラノベマンの自語りにも流石に終止符を打つべく、最後はいつもの台詞で締めさせて頂きたいと思います。


それでは、飲酒公募勢に幸あらんことを──。


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