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絵は描けなくても、絵筆は手に取る

大学時代にお世話になった先生から、「研究室の学生になにか話してもらえないですか?」というお願いを受けました。何を話そうかいろいろ考えているうちに、最近自分がキャリア(正確に言うとキャリア観)についてぼんやり考えていた内容を、これを機会にまとめてみようと思い、そういった内容をお話しさせてもらいました。実際にお話ししたときには伝えきれなかったことも含めて、こちらにまとめておこうと思います。


話の前提として、私のあっちに行ったりこっちに行ったりのキャリアを紹介しました。博士課程まで進んで人工知能の研究をしたかと思うと、普通の就活をして新卒ではITコンサルタントとしてシステム開発や顧客折衝をして、今はHRとして人材育成に携わっている。これを「華麗なる転身」と見るか、「糸の切れた凧」と見るかは、見る人によると思うけど、少なくとも私自身はまったく予想していなかった来し方になっています。


少し唐突かなとは思いつつ、ここでプランド・ハップンスタンスを紹介しました。自分が学生のときに知っておきたかった考え方だなと思ったのです。

成功を収めたビジネスパーソンを対象にキャリア分析を行った結果、実に8割の対象者が「現在の自分のキャリアは予期せぬ偶然に因るところが大きい」と答えた。
(中略)
キャリアは偶然によって左右されることが多く、これらの偶然をポジティブな方向に考えることでキャリアアップにつなげることができる、という理論となります。https://bizhint.jp/keyword/76304

プランド・ハップンスタンスに加えてというか、その一部なのかもしれないけど、私のキャリア観に大きな影響を与えたのが、家族ができたことです。私の場合は、「この子のために稼がなきゃ」という経済的な動機づけよりも、子どもができたことによる時間の使い方の変化がとても大きいです。平日の保育園の送り迎えはもちろんのこと、休日の過ごし方も子ども起点になりますから、平日休日をあわせたまさしく人生全部における時間の使い方が変わりました。

ちなみに、家族ができた以来の大きな時間の使い方の変化は昨今のリモートワークですね。


具体的には、「人生の中でどれだけ仕事に時間を割くのか」という量的な面と、限られた「仕事に向かう時間」のなかで「どういう精神状態で取り組むのか」という質的な面に変化が起きます。この変化はもちろん、実際に家族ができる前には想像できませんでした。

でも、「それでいい」とも強く思っています。

自分がまだ独身のころ、家庭を持っている会社の先輩を、無邪気にも「今日飲みに行きません?」と突然誘ってたことを思い出します。「行きたい!」と「でもちょっと待って!」という2つの顔色が、みるみる先輩の顔に浮かんできます。いそいそと奥さんに電話しに行く後ろ姿。無事OKをもらえて満面の笑顔で、廊下の向こうからこちらに親指を立ててくる姿。

家庭を持った今の自分から見れば、かなりのタフ・ネゴシエーションを無邪気に先輩に投げつけてることを痛いほどわかるのですが、当時の自分にとってそれはまったく想像できるものではなく。いまは自分が逆の立場になって、後輩から無邪気なタフ・ネゴシエーションを投げつけられるわけです。でも嫌な気はしないし、当時の先輩も同じ気持ちだったからこそ、「行きたい!」の顔色が浮かんでいたのかなと思います。

はじめから絵を描ききる必要はない。

キャリアを考える学生さんには、まず一番にこれを伝えたいなと思っています。自分を振り返ってみて、「はじめに絵を描ききる」ことに縛られていたし、それができない自分を責めていた時期もありました。時間が解決する、というのは、キャリア観におけるひとつの真理だと思っています。

だけど、だからこそ、「いま、ここ」において、よく考え、よく行動することが大切というのも、一方の真理です。天命を待つ必要はあるけど、その前に人事は尽くしておかなきゃいけない。

偶然の出来事は、ただ待つのではなく意図的にそれらを生み出すよう、積極的に行動したり、自分の周りに起きていることに心を研ぎ澄ませたりすることで、自らのキャリアを創造する機会を増やすことができる。https://bizhint.jp/keyword/76304

冒頭に挙げたプランド・ハップンスタンスの説明は、「事象」なんですよね。でも個人に必要なのは、「行動」すなわち「理屈はわかった、じゃあどうすればいいのか?」という問いへの答え。プランド・ハップンスタンスはそのなかでちゃんと、「行動」についても説明しているのです。

はじめから絵を描ききる必要はないけど、一方で、なにかしらの絵筆は手に持たなくてはいけない。

どんな絵筆を持てばいいのか?を次回書いてみようと思います。


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