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コーチングもいいけど、それ以前にちゃんとティーチングできてますか?

サッカーの指導についてのツイートが、企業内人材育成の文脈において示唆深いなと。

上記スレッドのなかにあるこちらの一言が要点を端的に表しています。

【考えさせること自体】よりも【考えさせる材料を与えてやること】の方が重要。

1on1の導入や普及に関わっていると、「コーチングを教えてほしい/学びたい」という声をよく聞きます。多くの人の頭の中では、「1on1≒コーチング」なのだろうなと思います。

それ自体は悪いことではないのですが、「1on1≒コーチング」というイメージは往々にして、「コーチングこそが大切だ」「ティーチングではなくコーチングだ」というふうに移りがちです。

ちなみに、相手とのコミュニケーションを、コーチングだティーチングだときれいに類型化すること自体が無理筋だし、そこに本質的な意味はないことは最初に断っておきます。あくまで話をわかりやすくするための二項対立です。ひとつのコミュニケーションのなかには、コーチング的な要素と、ティーチング的な要素と、それ以外の要素がないまぜになっているものです。

話を本線に戻します。「ティーチングではなくコーチングだ」の次は、「コーチングとは部下に考えさせることだ」が続き、それを耳障りのいい言葉で言い換えたものが「自分の頭で考える(考えさせる)」です。

ここに「ティーチングではなくコーチングだ」の限界というか欺瞞が見え隠れします。

冒頭のツイートのように、「自分の頭で考えさせる」というのは、「何も教えない」ではないのです。実は逆で、《限定して教えず、沢山教える》なのです。

《限定して教えず、沢山教える》は、《考えさせる材料を与えてやる》ことにつながっています。つまり、ティーチングとコーチングは地続きだし、もっと言うと、ティーチングは良いコーチングへの助走路なのです。

でも、ティーチングとコーチングのこういったつながりがイメージしにくいのだろうなと感じる場面は多いです。

よくあるのが、《限定して教えず、沢山教える》という考えを紹介したときに、「最初にあれこれ教えちゃったら、なんでも教えてもらえるもんだと思って、自分でできなくなっちゃうんじゃない?」という反応です。この気持もわからなくはないのですが、私からすると、これはあまりにも本人の可能性を過小評価していると思います。「これができるようになったから、次はこれができるようになりたい」という本人の向上心や自発性を信じるかどうか、という、(本人ではなく)育てる側の価値観の問題だと捉えています。

ただ、上記のような「教えたら自分で考えなくなる」という心配を「それは本人ではなくあなたの問題ですよね」と断罪しても誰もハッピーにならないので、私はこんなふうに話すようにしています。

まず、職場におけるコミュニケーションを人材育成の文脈で捉えると、そこには業務支援、内省支援、精神支援という3つの関わり方があることを紹介します。ここでは、業務支援≒ティーチング、内省支援≒コーチングと読み替えてみてください。

■ 業務支援:業務に必要な知識やスキルを提供したもらったり、業務をスムーズに進められるように取り計らってもらうこと
■ 内省支援:自分自身を振り返りきっかけを与えてもらったり、自分の態度を変容するきっかけを与えて
■ 精神支援:仕事の息抜きや安らぎを与えてもらうこと
なぜ部下が育たないのか ~部下育成に必要な3つの観点~』より

そのうえで、業務支援と内省支援を、本人の成長段階にあわせたステップとして捉えるよう勧めています。ちなみに、精神支援はステップではなく土台として「いつでも必要」なものとして説明します。

業務支援と内省支援を本人の成長段階にあわせたステップとして捉えるというのは具体的にこういうことです。「自分の頭で考えてみて」と言ったときに、自分でしっかり振り返りができる人であれば、その本人は内省支援の段階に来ています。一方、「自分の頭で考えてみて」が適切な振り返りに結びつかないのであれば、それは本人がまだ業務支援の段階にいることを示しています。

つまり、「自分の頭で考えてみて」という言葉は、本人の成長段階を見極めるためのリトマス試験紙だということです。一方、「自分の頭で考えてみて」の間違った使い方が、「『自分の頭で考えてみて』と言ってるのに、ちゃんと考えられないやつ」と断罪すること。大切なのは、「自分の頭で考えてみて」に対して拙い反応してくる相手を切り捨てることではなく、その拙い反応を手がかりに、相手との関わり方を調整すること。コーチングとティーチングのバランスを調整することです。

ここで話は本記事のタイトルに戻ってきます。

コーチングもいいけど、それ以前にちゃんとティーチングできてますか?

  • 「自分の頭で考えてみて」と言ってもうまく考えられない人がいたら、あなたはティーチングに切り替えられていますか?

  • 仮にティーチングをしているとしたら、それは《限定して教えず、沢山教える》ものになっていますか?

  • 「ティーチングではなくコーチングだ」じゃなくて、ちゃんとティーチングできてますか?

リモートワークが一般化して、背中を見て学んでもらうことが難しくなった今、部下育成のスキルとして大切なのは、コーチングの前にティーチングなのでは、と考えています。

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