「月は無慈悲な夜の女王」読み終えた

これは1966年の作品である。
直近で読んだSFは「虐殺器官」「ハーモニー」であるが、SFなので(空想)科学的知識を読んで頭に入れつつストーリーを楽しむものである。ただこの二つの作品については、映像をイメージしやすいものの、どうも大急ぎで書き殴ったという印象があり、展開を追っていくのに疲れてしまった。この二作が特にSFの記念碑とは思わない。

さて、標題の作品については、月世界市民のマヌエル、ヒロインのワイオミング、教授、その他の登場人物があり、コンピュータ技術者にすぎなかったマヌエルが、仲間と組んで地球政府と対決する。万能コンピュータの「マイク」と協力し、戦術を駆使して、月対地球の戦争へ突入する。月は隕石の射出によって、地球を次々に爆撃する。地球側も生き残りの戦艦を送って月基地を攻めてくるけれども、結果的に地球は降伏する。
通読して感じたことは、宇宙戦争の話は今まで活字でほとんど読んだことがなく、アニメや映画で見ただけなので、活字だけの表現にいささか物足りなさを感じた。文章が拙いというわけではないが、ドライな文体という感じで、兎にも角にも最後まで読ませたい、という馬力を感じたけれど、途中で脱落することもあるかもしれない。
私としては、やはり活字の得意分野である「心理描写」に興味を持つところである。全体的にそういう描写は少ない。出来事を客観的に描写し、それを読者がイメージして、各々が感想を抱く、という形態のものだと思う。
結末はまあ月が勝ってスカッとする、という感じになるかと思ったら、マイクの配線が一部切られ、その後復旧するものの、マイクがそれまで持っていた「人格」は消えてしまう。結局コンピュータが持っていた「人格」とは何だったのか、と読者に疑問を投げかける。一応、マイクが月からの地球攻撃を主導し、成功し、文中に言うところの「オルガスムス」を経験し、それで燃え尽きたのかな? という読み方はできるだろう。
読後感は良いのだけれど、もっとコンパクトにシンプルにできないかなぁ、という意見は持っている。地球政府とマヌエル、教授たちが会議を開いて、策略を練る場面は、人間のリアルな交渉としてうまく書けているのだろうが、感動的とまでは言えないし、結局、上に述べたような話の筋をたどって読んで、ああ面白かった、といって特に後に何も残さないような、そんな作品であるように思う。
ちなみに色々なレビューで「日本語訳が古い」という意見を見ており、それは事実かもしれない。こなれた言葉、現代的な言葉を使っていればもっと楽しめたかもしれず、改訳に期待したいところである。

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