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自我境界線の彼方より

 「実験中止!実験中止!」シュナイダー博士は絶叫する。ここは自我の果て「延命ライン」。自己と他人を分かつ壁が消えればそれは死を意味する危険な領域だ。

 人間が他者と溶け合って死ぬ現象が多発する。肉体の境界と自我の境界が奇怪なシンクロを遂げるのだ。
 ヘッドマウントディスプレイを外し、博士は現実へと帰還する。

「痛い・・・痛いの?・・・うん・・いたい・・・いたいね・・・」

 肉が溶け、骨がむき出しになった被験者を前に、博士は言葉を失う。
温厚篤実なるシュナイダー博士をしてこのような危険な実験を行わしめるほ
どに、事態は深刻を極めていた。

 二人の人間が手をつなぎ、心を通わせるだけで指が溶け始める。それほどにいともたやすく人間が境界を超えるようになったのだ。
 この融合現象が最初に確認されてからわずか2ヶ月のうちに、世界は崩壊の日を迎えようとしていた。
 博士には覚悟がある。人類を救うにはこの現象を解き明かす他に道はない。

【続く】

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