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SaaSに携わるエンジニアが頭に入れておきたい指標や用語

はじめに

こんにちは、株式会社POLでエンジニアをしている @yahooshiken と申します。この記事の対象読者はSaaS系のプロダクトに初めて携わるエンジニアを想定しています。私自身もHR系のSaaSプロダクトの開発に携わっており、これまでにビジネスサイドとコミュニケーションをとったり投資家さんのお話を聞いたりする機会が多くありました。高専→工学部と工学畑で過ごした私にとっては彼らが口にする言葉が何を意味しているのかさっぱり分からず、頭を悩ませることが多くありました。

この記事は、私が理解しておくといいなと思うSaaSの指標や用語をまとめた記事です。私のようにいきなりSaaSプロダクト開発の現場に放り込まれた方の少しでも助けになれば幸いです。

用語一覧

今回紹介する用語や指標は以下の6つです。個人的によく見かけると思った用語を選出いたしました。

1. MRR(Monthly Recurring Revenue:月次経常収益)
2. Churn rate(解約率)
3. LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)
4. CAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得コスト)
5. UE(Unit Economics:ユニットエコノミクス)
6. NRR(Net Revenue Retention)

1. MRR(Monthly Recurring Revenue:月次経常収益)

MRRは毎月発生する売上を表す数値です。MRRは、この「毎月発生する」という部分が重要で「毎月発生しない」単発の売上は含まれないことに注意します。例えば、Amazon Primeは月額で料金が決まっているのでMRRに含まれますが、Amazon ストアで商品を購入した場合はMRRには含まれません。

サブスクリプション型のビジネスモデルでは、MRRを大切にしています。これは、従来の「所有」型の購買行動では売ってからセールス投資費用を回収するまでの時間が短いですが、サブスクリプション型ビジネスのように「利用」型の購買行動では、比較的長くなるためです。どれくらいで費用を回収できそうか、今後どれくらいの収益が見込めそうかをこのMRRベースとした数値ウォッチしながら確認します。

同様に、ARRはAnually Recurring Revenueの略で、MRR * 12で計算されます。MRRやARRはSaaSを理解する上で基礎となる概念ですので、もれなく覚えておくと良いと思います。

2. Churn rate(解約率)

Churn(チャーン)とは、顧客がサブスクリプション契約を更新しないことを表し、Churn rateは離客率や解約率を表します。多くの場合は収益ベースで示されますが、顧客数ベースの解約率と収益ベースの解約率を区別するために「Customer churn rate」と「Revenue churn rate」という表現が使われます。それぞれ別にする理由は、顧客によって収益に差があるケースがあるためです。

・Customer churn rate(顧客数ベースの解約率)
・Revenue churn rate(収益ベースの解約率)

また、完全にサービスを利用しなくなる解約と異なり、グレードの低いプランや商品を販売することをダウンセルと言いますが、ダウンセルもチャーンに含まれることが多いです。逆に、これまでのプランよりもグレードの高いプランを購入することをアップセルといいます。

Churnは色々な理由によって起きます。顧客がプロダクトやサポートのユーザーエクスペリエンスに不満を抱いている場合や、競合他社や代替可能なソリューションに切り替えた場合など、様々な事由により顧客がプロダクトを不要だと感じたらChurnが起きます。プロダクトやサービスの提供者としては、顧客がChurnした理由を特定し、その課題を解決するような工夫が必要です。

3. LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)

LTVはCLTV(Customer Life Time Value)とも呼ばれます。日本語訳からすると、こちらの方が分かりやすいですね。LTVは1顧客が、取引期間を通じてサービスを提供している企業にもたらす利益です。1顧客あたりの平均売上高を表すARPA(Average Revenue Per Account)を用いると

LTV = ARPA / Churn rate

と表せます。 前述した通り、SaaSは長期間でセールス、マーケティング、プロダクトなどに投資したコストを回収するので、この数値が重要です。SaaSを運営する企業が単月の売上単発の収益ではなくLTVを重視するのはこのためです。長期に渡って継続的にサービスを利用していただき、アップセルをしていただく環境や仕組みを作ることがLTVを高める上で重要です。

4. CAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得コスト)

CACは、比較的分かりやすい言葉で「1顧客を獲得するのにかかったコスト」を表します。マーケティング用語だとCPA(Cost Per Acquisition)と呼ばれたりもします。

CACには2つの意味合いがあります。Organic CACは紹介や口コミなど自然に増えるチャネルのコスト、Paid CACはアウトバウンドなどのチャネルのコストを表します。Blended CACはOrganic CACとPaid CACの2つを合わせて考えた全体の数値です。CACは混同されやすいので、Organic CACなのかPaid CACなのか、はたまた合わせて計算された数値なのかを事前に確認することが大切です。

・Organic CAC
・Paid CAC

CACを理解すると、CAC Payback Period(回収期間)が分かります。顧客獲得にかかるセールスとマーケティング費用を回収する期間を表し、この期間が短ければ短いほど、セールスの費用対効果が高いと言われています。

5. UE(Unit Economics:ユニットエコノミクス)

LTVとCACが分かると、Unit Economicsが分かります。Unit EconomicsはSaaSの健全性を評価する指標です。直訳すると「1顧客あたりの経済性」という意味ですが、その名の通りUE = LTV - CACで計算されます。

Unit Economicsがプラスになっていれば、つまり1顧客当たりの価値(LTV)が1顧客当たりの獲得コスト(CAC)を上回っていれば、回収できる見込みが立っていることが分かります。逆にUnit Economicsの値がマイナスになっていれば、顧客を獲得する度に利益を失っていることになりますから、プライシングや顧客の獲得コストを見直すほかありません。現在のSaaSビジネスがどれほど健全なのかを知るためにUnit Economicsはぜひ理解しておきたい指標です。

6. NRR(Net Revenue Retention)

NRRは挙げた中でも特に分かりにくい指標と思っています。注意すべきは、ARRやMRRの「RR」はRecurring Revenueに対し、NRRの「RR」はRevenue Retentionであることです。MRRとNRRは密接に関係して いますが、混同してはいけません。NRRは「売上継続率」と日本語では訳されます。SaaS領域で頻出の「Net」という単語は「正味の」や「(価格が)正価の」といった意味を表します。

NRRを理解するときは、MRRが次の種類に分解できることを知らなければなりません。

・New MRR:新規顧客の新規契約による追加MRR
・Expansion MRR:既存顧客の契約継続による追加MRR
・Upgrade MRR:既存顧客のアップセルによる追加MRR
・Churn MRR:既存顧客のチャーンによる減少MRR
・Downgrade MRR:既存顧客のダウンセルによる減少MRR ※ Churn MRRに含まれることもある。

上記の指標を用いて、NRRは次のように計算されます。

NRR = 月初のMRR + (Expansion MRR + New MRR + Upgrade MRR + Downgrade MRR) / 月初のMRR

NRRは、今月獲得した売上が翌年にはどのくらいになるのかというSaaSの成長率を表す指標と言われています。NRRは新規顧客の契約による変動MRRは考慮していません。つまり、プロダクトが既存顧客をどれだけ満足させられているのかを示す指標とも言えます。

NRRをより勉強したい方は、次の前田ヒロさんのブログ記事を参照していただきたいです。この数値がSaaS経営の難易度を決める「Net Revenue Retention」 – 前田ヒロ

おわりに

今までに、SaaSプロダクトのグロースは科学されていてWebにもたくさん公開された資料があるのでぜひご覧になることをおすすめします。私自身も、よりよいプロダクトを生み出せるように日々精進していく所存です。

私が働いている株式会社POLでは、現在理系学生のためのスカウト型就活サービスの「LabBase(ラボベース)」と産学連携を加速する研究者マッチングプラットフォームの「LabBase X(ラボベース クロス)」を運営しています。どんなサービスなのかぜひチェックしてみてください。


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