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魔女の宅急便はジブリ、そして僕ら

ジブリ作品で好きな作品ってどれ? 問われたので、少し考えていた。僕の好きなジブリ作品……魔女の宅急便かもしれない。昔はナウシカとかもののけ姫とか好きだったのだが、どちらかというとあのふたつは神話的な話だし、トトロやポニョはちょっとしたホラー映画だし(笑)、と言う感じで、僕は魔女の宅急便が一番クオリティが高いような気がしてならない。
 
原作も好きで、昔に読んだことがあるのだが、原作はどちらかというと「宅急便」を通じて人と交流したり、トンボと恋愛したりする話だ。ジブリが制作した映画も、やっていることはそれに沿っているのだが、じつは少しコンセプトが違う。あれは、「田舎から女の子が都会に出てくる話」なのだ。

宮崎駿という作家は、ファンタジーを書くときでも、基本的には自分の周囲をよく観察して、それを作品の中に落とし込んでいく。有名な言葉が、「企画は半径3メートル以内に転がっている」という言葉。「ジブリで起きていることは東京でも起きている。東京起きていることは日本でも起きている。日本でも起きていることは、たぶん世界でも起きている」。
 
大量に出ているジブリのドキュメンタリーを見るとわかるのだが、ジブリのキャラクターのほとんどにモデルがいて、それはジブリ関係者であることが多い。「千と千尋」の「千尋」や、「ポニョ」にもちゃんとモデルがいる。ラピュタの「ドーラ」のモデルが宮崎駿の母親だというのは有名な話だ。そのモデルに向けて、作品を作っているようなところもあるようだ。
 
「魔女の宅急便」の頃は、まだ後年の作品のように密着取材していなかったから、実際にどのようにそれが作られたのかはわからないのだけれど、インタビューなどを読む限り、あれはスタジオジブリの、アニメーターの話なのだそうだ。「ちょっと絵が描けるというだけで、田舎から上京してきた若いアニメーター」がキキなのである。その理屈でいうと、スタジオジブリはグーチョキパン屋ということになる。あのあまりしゃべらないご主人が、宮崎駿になるのだろうか。
 
魔女の宅急便の公開年は僕の年とだいたい同じだから(1989年)、僕が物心つく頃からこの作品は存在している。当然、最初はキキぐらいの年齢だったのが、いまやおソノさんとかも飛び越している(あの人、26才らしい……)。だから、この作品を見返すときに見る目線が、昔といまとでは全然違う。昔はキキそのものに感情移入していたのが、いまならおソノさんに感情移入して見ることになるのかもしれない。

見るたびに違う人物の目線から物語を見ることができるのが、名作の特徴かな、と思う。魔女の宅急便は、キキが運送会社を起業する話ではない。ほんのちょっとだけ才能を持っているけれど、まったく世間擦れしていない女の子が、田舎から都会に出てきて、いろんな人に揉まれながら、成長していく話なのだ。エンディングで流れるユーミンの歌と、「落ち込むこともあるけれど、私、この街が好きです」。よかったですね。
 
そう思ってみると、だいたいの人に似たような経験がある。そういうところに、名作性があるのかな、と。こんな映画、最近みたかなぁ。(執筆時間12分16秒)

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