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好きと接触時間について

最近、ツイッターに絵や漫画をアップする人が増えたな、と思う。いつの間にかイラストレーターや漫画家は、自分の作品の宣伝のためにSNSにそれらをアップするのが当たり前になってしまったようで、「拡散」されてきた作品が、僕のタイムラインにも滑り込んでくる。
 
目に止まったイラストや漫画は、つい見たり読んだりしてしまう。そして、ちょっとでも気に入ったものがあると、「いいね」を押す。ツイッターのタイムラインは下から上へ滑るようにスクロールしていくので、視界に入る時間はほんの一瞬だ。見てから、「いいね」するまでの時間は、0.5秒ぐらいではないか。いや、もしかしたら0.3秒ぐらいかも。とにかく短い。
 
0.3秒で見たもので、「好きかどうか」を判別するのは困難だ。その時間で判別できるものは、「好きかどうか」ではなく、その「カテゴリー」ぐらいだろう。たとえば犬の写真であれば、その0.3秒のなかで、犬の写真かどうかの判別ぐらいしかできない。「犬の写真だ」と思った瞬間に、「好きだ」と感じ、「いいね」を押す。つまり、好きかどうかというよりは、カテゴリーに分類して、そのカテゴリーが好きだった場合、反射的にいいねを押している、ということだ。
 
実際には「犬かどうか」だけではなくて、もっと細かい分類をしているのだろう。アニメ調の絵だったりしたら、「好きな絵柄」とか「好きな色使い」とか。僕も、明らかに自分の「好きな系統」があり、その系統でありさえすれば即座に「いいね」を押してしまう。それ単体が好きだとは限らないケースもある。そこまで判別するには、時間があまりにも足りない。

これにはもちろん問題がある。人間が新しいものを好きになるには時間がかかる、ということだ。はじめは「気持ち悪い」「好みじゃない」と思っているものでも、触れていくうちに良さがわかっていくものもある。
 
僕が学生の頃、毎週「少年ジャンプ」を買っていたのだが、昔から掲載されているマンガで、気持ち悪い絵柄のマンガがあった。劇画調というのとも少し違う、線や構図が妙に複雑なマンガで、女性が主人公なのだが全然可愛くない。しかもなんかカタツムリとか出てきてグロいし。掲載順位も後ろのほうなので、そのうち打ち切りになるのかな、と思っていた。しかし、それにしてはかなり昔から連載されているっぽいし、「何だろうな」とずっと思っていた。
 
僕がジャンプを買って学校に持っていくと、何人かでそれを回し読みするのだが、友達のうち何人かは、真っ先にその「気持ち悪い絵柄」のマンガから読み始めていた。「面白いのかな」と思って、読んでみると、ストーリーが複雑すぎてなんかよくわからないが、面白さを感じた。読んではいなかったけれど、毎週その絵を見ているうちに、なんとなく耐性がついていたのかもしれない。
 
ちなみに、そのマンガは「ジョジョの奇妙な冒険」というマンガだった。そこから僕はこのマンガにハマっていくことになるのだが……。

「気持ち悪いから」ということで排除していたら、僕はこの作品に出会うことはなかっただろう。僕が出会いこともそうだが、僕みたいな読者が大多数だと思うので、つまりこのマンガは誰にも読まれない。それこそ、すぐに打ち切りになるだろう。雑誌に掲載される「連載」というスタイルでないと、「ジョジョ」はここまでの作品にはそもそもなれなかったかもしれない。
 
SNSに作品を掲載することはもちろん必要だし、いいのだけれど、それによって何かが破壊されているような気もする。なんせ0.3秒しかないのだから、「新しく」好きになってもらうのは困難だ。「相手がすでに好きだと思っているもの」に照準を合わせないと、「好きになってもらうこと」などできないだろう。(執筆時間15分0秒)

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