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神様のいる湖

湖に行ったのは父の勧めだった。その湖は、周りにはコンビニさえもないような山奥にあった。鬱蒼としげる木々に囲まれた穏やかな場所。

私は、神様に出会える場所として真っ先にこの湖を挙げたい。
それ程までにこの場所は美しく、神様の祝福を受けているのだな、と直感的に感じた。もし私が神様だったら、ここに降り立ちたいとも思った。

湖のほとりには小さなカフェがあって、私はそこでカフェラテを飲んだ。優しい味だった。そこから細く繋がった野道を進むと、湖がよく見えた。入り口はあまり開けていなかったから気付かなかったけれど、湖を一周出来るようだった。道は伸びやかに生えた木々によって、まるでトンネルのようになっていた。
太陽の光が湖に反射して、木の葉に水面の揺らめきを照らしている。
私は、自然が作ったこの景色にすっかり心を奪われてしまった。

もう少し進むと、芝生に包まれている広場のような場所に出た。その芝生は、まるで砂浜のように湖に向かっていた。水の流れとともにゆらめく芝生を見て、何故だかとても懐かしい気持ちになった。私が水槽を立ち上げたいと思った時も、こんな景色を作りたかったのだと思い出した。現実に、こんな場所が存在するのだ。靴も服も脱ぎ捨てて、この湖の中に飛び込んでしまえたらどんなに良いだろうと思った。このゆらめきと共に暮らしたいと願ってしまった。

さっき『神様に祝福された場所』だと言ったけれど、ここには小さな祠がいくつかある。なるほど、この神様たちがこの奇跡みたいな美しさを守っているのか、と私は一人納得した。

これは美しい景色を見た時によくあることなのだけど、「まずい、神様に拐われてしまう」という感覚を覚える時がある。
それはきっと、世界の美しさに圧倒されてしまっているのだと思うし、そこに生と死と、この世界のしくみを感じるからなのかもしれない。

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