見出し画像

離婚と冷蔵庫

父が、このカタログから必要な家電を何でも選べと言ってくれた。

初めて生活家電を自分で選ぶ、若かったわたしは、まだ使い勝手など当然分かるわけもなく
ただ色や形などの好みでうきうきと選んだ。

冷蔵庫は、かんのん開きの薄緑色のものにした。

購入して二度目の引っ越しの時、その冷蔵庫が大きすぎて、特別料金がかかることがわかった。

ピアノを吊り上げるワイヤー車を用意してもらって、ベランダから入れた。

その費用は一万六千円くらいだったと思う。

前夫は、費用がかかった大きな冷蔵庫のことを嫌った。

前から使いにくいと思ってたんだ、と。


離婚することになった時、私が引っ越す予定の3日前に、前夫が先に出て行った。

しばらく家にはわたしひとりになった。

多くの持っていけない家電は、引越し屋さんが無料で引き取ってくれることになった。

次にひとりで住むアパートには、あの冷蔵庫は持っていけない。大きすぎて。

その代わり、引越し屋さんがちょうど良い冷蔵庫を無料でくれることになった。

うちの冷蔵庫も、誰かにそんな風に喜んでもらってもらえたらいい。


引越しの前夜、わたしは両手を大きく広げて冷蔵庫を抱きしめた。


今までありがとう。

お礼を言った。

10年もの間、私たちの生活を支えてくれた。

あなたは器量好しだから、きっと新しいところでも可愛がってもらえるよ。

だからだいじょうぶ、だいじょうぶ

大好きだよ 大好きだよ

ありがとう、ありがとうね

気がすむまで撫でさすって、伝えた。


たまにふと思い出す。

あの、薄緑色のきれいな冷蔵庫のこと。

どこかで可愛がられているといいな。

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?