見出し画像

戯曲「Dreams of Dreams」 01(始)/03

上演時間/60分 キャスト/17人
(自身の上演の際はキャスト3名で上演)
◆あらすじ
再開発が進む地方都市・朝日が丘。冬のある日。深夜0時50分。
不眠症の及川は夜な夜な街を徘徊し、SNS上で動画を生配信している。 彼女は自分が死んでしまったら、その存在はすぐに忘れられてしまうのではないかと恐れ、自分と住んでいる街を記録し続ける。
同じ時刻、その街で暮らす多くの人々が現れ、各々の日常を送る。帰り道を急ぐ者、仕事に勤しむ者、逢引きをする者など、それぞれ思いや悩みを持津ながら、その夜を過ごしている。及川は彼ら彼女らと直接触れ合うことはなく、ただすれ違い続ける。

また、時間が変わって夕方、及川を知る様々な人々が現れる。かつての幼なじみや同僚、隣人など、それぞれが彼女に抱く印象を語る。しかし、どの人物もそこまで親交があるわけではなく、表層だけが語られる。

夜が深まるにつれ、住民たちはだんだんと眠りについていく中で、 及川だけは眠りにつくことが出来ない。 歩き続けた彼女は、やがて見知らぬ街に迷い込んでしまい、友人の猫・みーちゃんが車に轢き殺された現場に出くわしてしまう。
猫のみーちゃんの死体は下水を流れ、多くの人々とすれ違い続けながら川へと向かう。

日が徐々に昇っていく中で、及川もマンホールを伝って、その川にたどり着く。川は、あまりの赤さから、朝ではなく夕焼けのようにも見える。その景色は、及川が不眠症になる前、最後に見た夢の景色と、同じであった。
◆登場人物
・及川 夕…不動産会社勤務の新卒2年目。動画配信主。不眠症。

・保険屋…保険会社勤務。最近スニーカーを新調したばかり。散歩が趣味。
・眼鏡屋…ショップ店員。とにかくうるさい人が嫌い。
・氷川…猫よけのペットボトルを置く仕事をしている。
・西…美容師の専門学生。みんなのことが好きだし愛している。
・東…専門学生。西の同級生。旅行誌のパンフレットが家に貯まり続ける。
・白石実…及川の幼少時代の友人。古びた市営団地に住む。
・同僚…及川の同僚。エリートコースを歩く。
・隣人…及川のアパートの隣人。犬アレルギー。
・元ダンス部員…及川の高校時代の同窓生。同じダンス部だった。
・若い男…年上の女にホテルに連れられてきた男。
・高橋伸二…トラック運転手。色々な人に昔話をしては避けられている。
・緒方…大学生。親の介護のために地元に帰る。占いアプリに課金している。
・新見…大学生。緒方の同級生。冷え性。

・みーちゃん…及川の友達の猫。独身。風車を一日中見ていても飽きない。
・佐天…商店街でケーキ屋を夫婦で経営している。
・市川…商店街でたい焼き屋を営んでいる。

【0】 プロローグ

今より少し未来。郊外の繁華街と住宅街。
舞台にはテレビモニターが置かれ、
そこでは夜な夜な街を徘徊する及川の動画が流される。

1場
【1】 及川・昼・病院の診察室・窓辺

及川、診察室で医師に話す。
医師より窓の外、変わらない景色ばかり気になる。

及川 最後に見た夢のことを、よく覚えています。…はい。…はい。…えっと、テレビがあって、どのチャンネルか分からないんですけど、色々なものが映るんです。…はい。…ああ、鴨、です。後、水面、石、私の手、霜柱、それを踏む足。…すごく赤いです、太陽だと思います。朝か夕方かは分りません。…私はテレビの前に座って、なんとなく、その画面で起こるそれぞれを、目で追っていました。…いや、おもしろいとかではないんです。おもしろいとかでは、ないんです。色々な光があって、色があって、それを綺麗だなと、思って、思いながら、ずっとそれを見ていました。


【2】 及川の話①

郊外の繁華街。冬。人通りがまばら。
及川、夜の街を歩いている。
スマートフォンで、SNSを通して動画配信を行っている。

及川 撮れてる? …えっと…あの…ああ、まだ人いないか。…まあいいや、こんばんは。及川です。今日の放送始めます。あの今日めっちゃ嫌なことあって、や、あの全然なんだ…あ、いつも通りアーカイブには残します。…本当に寒いので、さすがに家でジッとしてろって、まあ頭では思うんですけど、止まってると必要ないこと考えちゃうんで、今夜も散歩したいと思います。朝までやるかは分かりません。眠くなったら戻れる距離にしたいので、そんなに遠くまでいきません。明日も仕事だし。

帰り道を急ぐ何人かとすれ違う。 

及川 えーただいま、0時50分になりました。今日の散歩を始めます。0時50分。

以降、舞台上では、及川が夜の街を徘徊している。

及川 なに話そう。…ああ、そうだ。今日…まあいつもの話ですよ。私が仕事できないっていう、はは、まあ、お決まりのやつですよ。…上司が怖いんです。怒られるの、すごく怖い。お前いくつだって話ですけど、本当にそう。…とても仕事ができる人なんです。いつも正しいんです。だから気が効かない、仕事が遅い、細かいミスが多い私、のことをとても疎ましくっていうか、嫌い、なんだと思う。…うん。それはまあ分かっていたけど、最近全然隠そうともしなくなってきて。朝の挨拶とかもイライラする声で返されるし、仕事の相談する時も、デスクのモニターを見ながらで、こっちを見てもくれない。…仕事おわんなくて、今日も帰り、こんな時間になっちゃった。


ここから先は

3,611字

¥ 200

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?