ささくれの話

爪の生え際にあるささくれが、研ぎ澄まされた針のように私の顔に向いているから、私はいつも本能的にその照準から外れようと妙な動きをしてしまう。レジでお釣りをもらう時もよけて、握手をする時もよけて、授業中も向いてるのに気が付いて飛び跳ねてしまった。
手というのはどうも生活の中で動き過ぎるし、なおかつ視界に入り過ぎてしまうから、私はどうしてもこの剣先を気にし過ぎてしまうのだ。
今はまだ手の先で収まっているからいい。けれど次第にどんどんめくりにめくれて、腕から二の腕へ、脇から胸へ、首を1周回って耳たぶまで来てしまったらどうしよう。と、怖くて怖くて夜も眠れない。波の音が聞こえるうちは、そんな症例もあるんだよと保健の先生に言われたけれど、はーーーそういうことなら大人になるのも悪くない。

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