ヌートリアの話

おじさんが、古びた自転車を止めて、岸辺を闊歩するヌートリアに心惹かれている、という姿を、私は向こう岸から見つめています。愛だと思いました。生きている限り、このような意味のない美しさを生き抜きたいと、強く思いました。
きれいときたないを発酵させて、長持ちで美味しく頂ける干物ではなく、一日一日、すぐに腐ってしまう不健康を私は大事にして、あなたと過ごす嬉しさや寂しさに新鮮に涙したいです。上手に踊れることに興味はありません。おじさんもヌートリアももういないけれど、そこに居合わせた自分の細胞が分裂して、生まれ変わるところまで自覚できたら、ああなんて良い日だったんだと、そう思えれば。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?