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Albträume löschen

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矢車菊が創らせていただくオリジナル小説です。題名の読み方は「アルプトラウム レッシェン」です
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Albträume löschen~あなたの悪夢、消し去ります~

Albträume löschen~あなたの悪夢、消し去ります~

「君の名前、よければ教えてくれないかな?」
 彼女がお粥を平らげたとき、凌賀は彼女に問いただした。彼女は、もう何も入っていない器を見下ろし答えた。
「……名前はない、気づいたらあそこに居た」
 凌賀と彼女の間で数秒の沈黙が続いた。すると、凌賀は何かを閃いたようにこう言った。
「じゃあ、『奈乃』はどう?」
 彼女は何の事か分からなかった。
「君の名前、君って呼ぶのも何だかなぁってなっちゃうから。どう

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Albträume löschen~あなたの悪夢、消し去ります~

Albträume löschen~あなたの悪夢、消し去ります~

 彼女はこの夢を何周したのだろう。
 早く終われ、早く終われと思っても現実の彼女は唸りをあげるだけ、目が覚めることはない。
 何度も何度も自分が死ぬのを目の当たりにしては、彼女の精神は崩れていくばかり。足に手が触れられては蹴りあげ、また足に手が触れられと無限に繰り返されていった。

 しかし、何十周もしたとき、もう一人のそれはパタリと消えた。
「えっ……何が起きたの……?」
 彼女は困惑した。その

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Albträume löschen~あなたの悪夢、消し去ります~

Albträume löschen~あなたの悪夢、消し去ります~

 気付けば彼女は暗闇の中を歩いていた。疲れはない、いつも満ちていない腹の感覚も特にない。初めて見た景色の筈なのに、何処へ向かえばいいのか知っている。この不思議な感覚に彼女は恐怖を覚えていた。

 足が止まったのも真っ暗闇の中であった。
「どこ……ここはどこなの……?」
 口に出した瞬間目の前で無数の紅い光が眼を刺した。眼をすぼめると今度は耳元でキシキシと鉄が軋む音がした。眼を開けると錻の鼠が目の前

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Albträume löschen~あなたの悪夢、消し去ります~

Albträume löschen~あなたの悪夢、消し去ります~

蜜柑色の彼女 ─No.01─

 耳元で鳴るガサガサという音で目が覚めた。周りには烏が寝床を漁った痕があった。
 橙色で絡まりあった髪をした彼女には名前がない。産まれて間もない頃に、ここに塵として捨てられ、物心がついたときには死にたくないと思いながらここで常にすいている腹を満たそうとしていた。

 今日も彼女は食物を探しに此所の裏路地を歩き回る。表通りを探しても少しはあるとは思っていても、路地裏に

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~あなたの悪夢、消し去ります~

Albträume löschen ~あなたの悪夢、消し去ります~

 ある女性は夢を見た。家族が一人残らずと地に還っていく様を。
 ある女性は夢を見た。夢と判断も出来ずに泣いた。

 窓辺からさす少量の光が、白く光る髪と頬に流れた雫で反射する。
「もう……こんな時間か」
 夏の朝四時、手に取った目覚まし時計はまだ鳴らない。しかし、机上に置かれたタブレットから通知の音が止まないことに気づき、彼女は無造作な髪のままタブレットを操作した。
「あなたの悪夢、取り除きます」

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