世界大学ランキングでみる日本の立ち位置-G7諸国の比較

日本の研究力が低下していると、ここ数年はよく聞かれる。

文部科学省は「令和4年版科学技術・イノベーション白書 第1章我が国の研究力の現状と課題」の序文で、このように述べている。

近年、我が国の研究力の低下が指摘されています。今世紀における我が国の自然科学系ノーベル賞受賞者数は米国に次ぐ世界第2位ですが、この受賞者数が、必ずしも現在の我が国の研究力を示しているわけではありません。研究力を測る主要な指標である論文指標については、2000年代前半より、国際的な地位の低下が続いている状況です。定量的な指標のみをもって研究力を判断することはできませんが、このような状況は深刻に受け止めるべきです。

これに続き、直近の集計における論文数、Top10%補正論文数をはじめとして様々な分析結果をもとに日本の研究力低下について説明をしている。

今回は、世界大学ランキング(THE World University Rankings 2023, 以下THEランキング)をもとに、G7各国と研究力が顕著である国を見ていこう。


G7諸国のなかでは英語圏が圧倒的な強さを見せる一方、英語圏以外では30位のミュンヘン工科大学が最高順位

G7各国のTHEランキング国内トップ5大学とそれぞれの世界順位を以下に示す。上段は英語圏で、下段は非英語圏の国である

表1 G7諸国のTHEランキングトップ5大学と世界順位

表1を見る通り、英語圏のトップ大学は、世界水準としても非常に高いレベルを有している。覇権国の経験があるアメリカとイギリスは圧倒的である。

これに対して、非英語圏のトップ大学は最高位でミュンヘン工科大の30位である。トップ5の大学に視野を広げると、明暗がくっきり分かれている。

ドイツとフランス
日本とイタリア  の2つのグループだ。

ここで、「労働生産性の国際比較 2022」における「国際的にみた時間当たりの労働生産性」を見てみよう。(プレスリリースー日本生産性本部、「労働生産性の国際比較 2022」, 2022

図1 主要先進7か国の時間当たり労働生産性の順位の変遷(プレスリリースー日本生産性本部、「労働生産性の国際比較 2022」, 2022

ここで見られる通り、ドイツとフランス、イタリア、日本という3グループに分かれている。労働生産性は、単純にいえば「国内の労働者が1時間当たりどの程度稼げるか」ということである。

英語圏については、GDPと大学の研究力の高さに関係は見られないが、非英語圏にはある程度関係性が見られる。

GDPは、計算方法も解釈の仕方もとても難しい指標だから注意が必要であるが、少なくとも日本とイタリアの労働生産性が、ドイツやフランスに勝っている考えることは難しい。


高度人材の待遇改善は、研究遂行を実際に行う博士学生、そして博士取得者の増加につながるが、日本でそうなるかは疑問。

一般的に、「高度人材の所得上昇率は、労働生産性の上昇率より小さくなる」ということは経済学で一般に言われていることである。

日本は「日本スタイル」で急激に経済成長し、それは欧米諸国や近年の発展途上国とは異なる道のりであったと考えられる。これは日本の博士取得者が横ばいであることに対して、中国や東南アジアの博士取得者は大幅に上昇していることに起因している。

以下は、多くの社会の先輩の意見を基にした個人の見解である。

私の考える「日本スタイル」とは、大学で学ぶような無意味な知識より、実践により身についた能力を重視するものである。終身雇用が基本であった雇用形態を考えると、このスタイルの醸成は当然のように考えられる。

「日本スタイル」で仕事を頑張ってきた中堅以上の社会人からすれば、会社の事情や会社独自の技能に無知な部外者を高給で雇うことは、心象が良くない。

博士号取得者で日系企業で働くことはもったいない。給料が上がらないし、博士課程で得た能力に無駄にする。

これは主観的な考えであることは勿論だ。
しかし、こうした博士号に対する悲観的な考え方が年齢を問わず存在していることを踏まえると、日本の高度人材に対する待遇改善は、海外に対して後退し続けるのであろうと考えられる。


国内大学のTHEランキングを上げるには、「スイス方式」の採用が効果的。日本人を顧みず、積極的な英語による研究・教育を軸にした学校運営を行い、採用時のみ高い日本語力を要求する。

欧州の小国であるスイス。この国は、公用語・準公用語合わせて4つの言語が話され、そのいずれも英語ではない。

しかしながら、スイスの大学は高い研究力を有している。
国内トップのETH Zurichは世界11位、国内第5位のバーゼル大が世界101位といった高い研究水準を持っている。

博士課程や研究従事者の割合を見ると、スイス人の割合は大きく減少する。(ETH Zurich : Rankings, Fees & Courses Details | Top Universities

確かに、研究従事者の海外出身者は多いが、学生数との数の差が大きいため、一般的には、スイスで学位を修めた多くの海外学生は自国に戻るかスイス以外の国で就職をする。

スイス人(特にドイツ系)の英語力は、非英語圏でトップレベルであり、修士課程以降の学位課程においては基本的に英語での授業になる。この国際色はなかなか日本ではできないものである。

一方、外国人がスイスで働くには、スイスの地域の言語に応じて高い語学力、所得の見込みなどの項目をクリアしなければならない。

考えてほしいこととしては、博士課程出身者を見ることは人生のうち何度あるのだろうかという点である。
現状では、日本の博士号取得者はOECD諸国では低水準にとどまっている。実際のところ、日本人が博士号を取得するメリットは極めて限定的と言わざるを得ない。給与の上昇率は限定的で、修士卒業でさえモラトリアムの延長といわれる中で、社会的な名誉を得られると考えるほうが難しい。

そう考えると、国際的な資格として博士号を求めている海外学生の好待遇受け入れを活発にして、研究の人頭を増やす。そして、日本人は彼らの頭脳から得られる蜜を貰えば良いのではないか。





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