呪いの椅子
そのイス、呪われてるんですよ。
総務のお局さんがそう囁いた。
シンプルな、ちょっと高そうな椅子だった。
その椅子に座った人達って、
みーんなすぐに居なくなっちゃうんですよ。
挙げられた何人かの名前は、
確かにその椅子を経由して消えた人達だった。
長くても半年、だそうだ。
じゃあ、辞めたくなったら?
座ってみます?
しばらくして。
グループミーティングの時に、
ふと思い出してその椅子の話をしてみた。
試してみようか。
残業が続いており、その日もすでに遅い時間帯だった。
ゆえに、色々と、遮るものは何もなかった。
そしてそのグループは2カ月後に解散となった。
私はなんとなく座らなかったので難を逃れたようだ。
他にも退職者が相次いだのだが、
なんのことはない、リーマンショックである。
いや、でも、本当はあの椅子のせいなのだよ‥‥。
噂は加速し、いつしかリーマンショックは
その呪いの椅子がバブルで蓄えた膨大な魔力によるものと‥‥。
この時期、みんな疲れていたのだ。
そんなある日。
ちょっとした作業のために広めのスペースが欲しかった。
社内を見渡すとちょうど空いている席がある。
ここ、借りますねー。
誰ともなくそう宣言し、
資料を置き、椅子に座り、作業を進めた。
やけに座り心地がいいな。
改めて見てみると、
ん?、これは、例の呪いの椅子じゃないか。
いやー、効くもんですねー。
その3ヶ月後だったか。
例のお局さんに退職の書類を渡す。
だから座っちゃ駄目って言ったのに、
と、なぜかちょっと嬉しそうなお局さん。
相手が悪かったみたいですねー、
と、全ては椅子のせいという体で判子をポンとついた。
ちなみに。
その会社はすでに存在しないので、
その椅子のその後も不明のままです。
※概ね実話。一部ボカしてあります。
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