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【高校生物】進化①「生物はどのように誕生したのか?」

~プロローグ~
一般には、パスツールは白鳥の首フラスコを用いて自然発生(生物が親なしに生じること)説を否定したとされている。そのように学校で教わった高校生も多いだろう。
では聞くが、ならば、生物であるあなたは、何故そこにいるのか?あなたはどこから来たのか?

地球全体をひとつのフラスコだと考えてみよう。数億年間、それも、化学反応が非常に起きやすい条件で、それを放置したらどうなるだろうか?
原始地球では、空から大量の放射線が降り注ぎ、海底の熱水噴出孔からは莫大な熱エネルギーが供給されていた。アミノ酸が付着した隕石が飛来することもあっただろう。そのような環境で、ある日、1つの生命が誕生したのである。その生物は数を増やしながら、進化していった。その結果として、今、これを読んでいるあなたがいる。

「生命の起源の問題、すなわち地球上における最初の生物の発生の問題は、自然科学の最も大きな基本的問題の一つである。すべての人は、どのような発達水準にあるかにかかわらず、意識的にあるいは無意識的にこの問題に直面し、良いにせよ悪いにせよこの問に答えている。なぜなら、この答なくしては、自己の最も単純な世界観すらなに一つつくりえないからである。」オパーリン『地球上の生命の起源』より






★テストに出やすいワード
①化学進化
②RNAワールド
③リボザイム
④白鳥の首フラスコ
⑤共生説



要点:化学進化が起こり、生物が誕生した。


● 原始地球で有機物が生成された場所、また、生命が誕生した場所として、海洋底の熱水噴出孔(ねっすいふんしゅつこう)が注目されている。熱水噴出孔(高温・高圧の環境)でメタン(CH4)、硫化水素(H2S)、水素(H2)、アンモニア(NH3)などが反応して、アミノ酸などの有機物が生成されたと考えられている。


雑談:下図は熱水噴出孔のイメージ。知らなくてよい。吹き出している熱水は黒く見える(熱水が周囲の海水に急速に冷やされ、熱水に溶けていた様々な物質が析出するため)。

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熱水噴出孔。




雑談:原始地球は微惑星の衝突によって誕生した。この衝突によって生じた熱エネルギーによって、原始地球は非常に高温になった(ところどころマグマのような状態であった)。

雑談:海底の熱水噴出孔付近は、高い水圧(260気圧)がかかっており、高温でも「海水が沸騰しない(熱水噴出孔から噴出する海水は350℃にもなる)」。このことは、生命誕生の鍵になっていた可能性がある。

雑談:熱水噴出孔のように、高温・高圧の条件下では、無機物から有機物が生成される可能性が高い。さらに、大気のような開放的な場ではなく、局所的な場で有機物が生成されれば、それらは濃縮され、重合が促進される可能性も高い。また、熱水噴出孔から噴出する海水には、触媒となる金属元素が豊富に含まれることが知られている。

雑談:熱水噴出孔の周りにはチューブワーム(ハオリムシ)が生息している。チューブワームは幼生時に硫黄細菌(硫化水素酸化型独立栄養細菌)を体内に取り込み、成体になると口も消化管も退化してなくなってしまう。チューブワームは(ある意味で)"そこから動かず、何も食べずに"1mにも成長する(大きいものは3m近くにもなる。ひょろ~っと細長い)。チューブワームは硫黄細菌を共生菌として宿している(細菌はチューブワームに有機物を提供していると考えられている)。
チューブワームは、細胞内に硫黄細菌を共生させ、熱水噴出孔の周囲など、地下から硫化水素が供給される環境に群生する。チューブワームは、巨大分子のヘモグロビンで硫化水素と酸素を共生している細菌に届けている。このように、チューブワームは、共生細菌の化学合成を基盤とした生活を営んでいる。
*硫黄細菌:一般に、硫黄または無機硫黄化合物を酸化して得られる化学エネルギーを用いてCO2固定を行う細菌を硫黄細菌と言う。
H2S(硫化水素)の酸化反応には、いくつもの反応が関わるが、最初の過程で単体の硫黄(S)を生じる(2H2S+O2→2S+2H2O)。





雑談:光の届かない深海の熱水噴出孔では、硫化水素を含む熱水が湧き出しており、化学合成細菌が生産者となって生態系を支えている(硫黄細菌がH2Sを酸化して化学合成を行っている。その硫黄細菌をカニやエビが食べることがある)。




● 生物が出現する前の、生物体に必要な物質が生成される過程(あるいは原始生命誕生までの過程)を化学進化という。

雑談:化学進化には、以下のようなステップが含まれる。
(1)アミノ酸・ヌクレオチドなどの低分子生物有機化合物の生成。
(2)タンパク質、核酸のような高分子生物有機化合物の生成。
(3)タンパク質および核酸合成系をもち、遺伝機構を獲得した原始生命の誕生(化学進化の最終段階)。
*ただし、化学進化には色々な定義がある。

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化学進化。




● 原始大気の組成は水蒸気(H2O)、二酸化炭素(CO2)、窒素(N2)(二酸化硫黄(SO2))などで、遊離の酸素(O2)はほとんどなかったと考えられている。(よく問われる)

雑談:かつて太陽の光は今より暗かった。にもかかわらず地球の気温は高かった。どうしてだろう?これは「暗い太陽のパラドックス」とされてきたが、現在では温室効果ガスである二酸化炭素などが大量に存在したためだと考えられている。 

● ミラーは、原始地球の大気を想定したメタン、アンモニア、水素、水蒸気の混合ガスに放電を行い、アミノ酸などの有機物の合成に成功した。これにより、無機物から有機物が無生物的に合成されることが示された。

雑談:上記の実験を行った時、ミラーはシカゴ大学の大学院生であった。この歴史的な実験の後、一部の人々は、実験的に生命がつくられる日も遠くないだろうと考えるようになった。しかし、未だ人類は生命の人工合成に成功していない。現在でも、生命誕生の過程について、議論が続いている。ミラーは、晩年に「生命の起源の問題は、私や多くの人々が思い描いていたよりもはるかに難しい問題だとわかった。」と言い残した。

語呂「ミラーの雨すいすい(ミラー、アンモニア、メタン、水素、水蒸気)」

● 生物は、今からおよそ40億年前(38億年前とすることもある)に誕生したと考えられている(諸説ある)。




発展:マリグラヌール


柳川弘志(やながわひろし)と江上不二夫(えがみふじお)は模擬海水中でアミノ酸混合物を加熱し、マリグラヌール(外界との境界に膜様構造を持ち、内部に高分子を含む)という構造体を作った(マリ=海、グラヌール=粒子)。マリグラヌールは原始細胞モデルの一つである。





要点:パスツールによって自然発生説は否定された。


● パスツールによって自然発生説は否定された。
*生物が現在においても非生物から(親なしに)新たに生じることを自然発生という。

● パスツールは白鳥の首フラスコという微生物が入り込まないように工夫されたフラスコを用いて、そのフラスコ内に生物が自然に発生しないことを示した(昔は、肉汁などを放置しておくと、数日でその中に微生物がたくさん観察されるようになることから、生物は自然発生するものと思われていた。しかし、白鳥の首フラスコの内部に肉汁を入れ、加熱沸騰した後放置しても、微生物は発生しない。自然発生したように見えた微生物は、[今となっては当たり前の話だが]外部からの侵入物に由来していたのである)。


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パスツールは白鳥の首フラスコを用いて、そのフラスコ内に生物が自然に発生しないことを示した(自然発生説の否定)。



雑談:君は、自然発生説を笑うかもしれない(たとえば、無菌にしたはずの培地に、次の日コロニーが観察されても、君は「生物が自然発生した!」とは思わないだろう。「ああ・・器具の滅菌がしっかり行われていなかったか、それとも実験操作中に混入したか・・」と疑うはずである)。しかし、今でも人は「蛆がわく」「虫がわく」などと言う。小さな生き物が自然に発生すると考えることは、それほどおかしな発想ではなかった。驚異の観察力を持っていた生物学の祖、アリストテレスでさえ、『動物誌』の中で、「ある魚は、泥や砂からも発生する」と書き残している。よく考えてみれば、我々が日常生活で、生物が誕生する瞬間を見ることはほとんどないので、自然発生を信じてしまうのも無理はないかもしれない。パスツールが自然発生説を否定(正確には自然発生説を肯定するような実験結果を否定)したのは、1864年である。それほど昔のことではない。

雑談:自然発生説に関する研究
①医者であるレディは、密閉した容器に牛の肉などを入れておくと蛆が発生するが、その容器をガーゼなどで覆うと蛆が発生しないことを確かめ、自然発生説を否定した。レディは言う。「私は植物や腐った肉から昆虫が生ずるということを信じない。」レディによって、大きな生物の自然発生は否定された。
②それから70年後、自然発生説が再燃する。司祭であり博物学者のニーダムは、煮沸して作った肉汁をガラス容器に入れ、栓をした。そしてさらに加熱し、そのまま冷却して放置した。数日後、その肉汁を顕微鏡で観察すると、微生物が観察された。ニーダムは自然発生を証明したと発表した。
③博物学者スパランツァーニは、ニーダムの実験に疑問を持った。ニーダムは容器に栓をしたが、その密閉性が疑わしかったし、加熱が不十分で、最初に存在していた微生物が生き残っていた可能性もあった。そこで、スパランツァーニは、完全に容器を密閉し、長時間煮沸を行った。結果、微生物は発生しなかった。しかし、その結果を聞いたニーダムは「加熱されたことによって、自然発生の条件がそこなわれたのだ」と反論した。結局、結論は出なかった。
④自然発生説の議論に決着をつけたのは、微生物者・化学者パスツールである。パスツールは白鳥の首フラスコによって自然発生説を否定した。白鳥の首フラスコは、新鮮な空気は通すが、空気中の微生物などは通さない(管の壁面に吸着し、容器内に入れない)。
余談だが、アベールというフランス人のコックは、食物の「缶詰」製法を発明し、スパランツァーニの研究から莫大な利益を得た。

雑談:「今までに自然発生が生じるのが観察された場合があるでしょうか。・・・ここで問題とされているのは宗教でも、哲学でも、何らかの体系でもありません。ア・プリオリな言明とか見解とかはどちらでもよろしい。これは事実の問題なのです。」「腐敗質の液体をフラスコの中に入れます。次にフラスコの頸を引き延ばしていろいろに曲げたりねじったりします。それから液を二、三分沸騰させます。中の液にはどんな変化も現れません。私は最初空気が全然動かないような静かな場所にフラスコを置かなければならないだろうと考えていました。しかしそれは必要のないことでした。・・・外気の動きは内部にまで伝わりません。たとえ伝わったとしてもきわめて緩慢たるものですから、空気と一緒に入りこんだ塵はこの間に下に落ちてしまうか途中で留まってしまうのです。反対に、頸の所を一切りして頸をとってしまうと、二、三日後には微生物の発生が見られるようになります。」パスツール『空気中に存在する有機微小体について―自然発生説の検討』より

雑談:なお、パスツールは、白鳥の首フラスコに入れる液としてビール酵母浸出液を使っている。対して、自然発生説を支持し、パスツールと長い間論争を繰り広げたルーアンの博物館長プーシェは、枯れ草浸出液を使っていた。プーシェは加熱によって試料内の生物を全滅させたと思っていたが、実際は、高温に耐性のある生物が残留していたのだろう。そのため、プーシェにはあたかも生物が(無生物的な環境から)自然発生してくるように見えたのだと思われる(土壌、枯草などに広く分布する枯草菌[細菌の仲間]は、熱・乾燥等に対して非常に強い耐性を示すことが知られている[枯草菌は、芽胞という耐久性細胞を形成する。芽胞は、熱・乾燥に強い耐性を示し、長期にわたって休眠状態を維持する])。






発展:コアセルベート


パスツールが自然発生説を否定してから、生命の起源に関する研究は下火になっていった。しかし、1922年、オパーリンが生命の起源に関する仮説を唱えた。オパーリンは、化学進化から生命誕生に至る過程で、脂質やポリペプチドなどの高分子化合物によりコアセルベート液滴がつくられ、細胞へと進化していったとした。オパーリンは、さらに考えを発展させ、1936年に『生命の起源』を出版し、化学進化を論じた。

語呂「壊せるベー!パリーン!(コアセルベート、オパーリン)」

雑談:コアセルベートとは、コロイドの状態にある物質が液滴として、周囲と境界をもつ状態になったもの(2種の混合高分子溶液では、高分子物質に富む相と、乏しい相に分離することがあり、この現象をコアセルベーションと言う。高分子物質に富む液滴をコアセルベートと呼ぶ)。コアセルベートは、周囲の物質を吸収し、他の粒子と融合し、また、分裂し、増える。オパーリンはこれを生命発生のモデルとしたが、コアセルベートは細胞膜構造を持たないこと、自己複製の仕組みを持たないことから、現在では原始生物とは考えられていない。
「今やわれわれの得たコアセルヴェート滴は、動的に安定で・・・外界と相互作用し、単に定常的に保たれるだけでなく、その容積を増加させる。すなわち・・・成長する。」オパーリン『生命の起源』より
「生命の特性は、それが空間中へ拡散的に拡がらず、外界から一線を画した独立した複雑な多分子系—―生物体—―となっていることである。」「われわれの観点によれば、コアセルヴェーションの現象はなによりも特別に興味深いものである。なぜなら、有機物質の進化の過程で高分子化合物、とくに始原水圏にとけている蛋白質様物質を濃縮する強力な手段となったにちがいないからである。」オパーリン『地球上の生命の起源』より

雑談:高校では無視するが、初期の生命は隕石に付着して飛来したという説もある(パンスペルミア説)。少なくともアミノ酸は隕石に付着して飛来した可能性がある。もっと刺激的な説として、宇宙生物の高度の知的進化を想像し、そのものが胚種的生命を地球に送り込んだとする説もある(ネオパンスペルミア説)。ロマンのある説である。







要点:かつては、RNAワールドが成立していたと考えられている。


● 「DNAが遺伝情報の保持を担い、タンパク質が触媒作用を担う」という、現生の生物のしくみをDNAワールドという。

● DNAワールドが成立する前には、RNAが遺伝情報の保持と触媒作用の両方を担っていたRNAワールドがあったと考えられている。

雑談:生物はかつてRNAを遺伝子の本体として使っていたと考えられている。しかし、CはUに変化してしまうことがあり、そうなると、もともとあったUと、Cが変化してできたUの区別ができない。なので、UではなくTを含むDNAを、RNAの代わりに、遺伝子の本体として使うようになったのではないかと言われている。

● 現在、rRNAが翻訳に関する主な触媒活性をもつことが知られている。触媒活性を持つRNAをリボザイムという(リボ核酸+エンザイム[酵素])。

*1本鎖であるRNAは、自身の中で塩基対を形成し、様々な立体構造を取ることができる。それが触媒活性をもつことができる要因の1つであると考えられている。

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雑談:従来、生命の起源に関して、タンパク質が先か、DNAが先かという問題があった。両者が相互依存的であるために解答が見出せなかった。1982年ごろ、原生生物のテトラヒメナのrRNA前駆体が自己スプライシングを起こすことが示された。これは自己触媒的に起こるスプライシングであった(RNAがRNAのスプライシングを触媒した)。RNAが触媒活性をもつこと(リボザイムの発見)は生物学者を驚かせた。この発見などが根拠となって、RNAワールドが提唱された。


● 以下はRNAワールドとDNAワールドの比較。

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雑談:RNAワールドがまず存在し、やがて、翻訳のシステムが、続いて、転写のシステムが現れたと考えられている(①タンパク質合成を指令するRNAが進化[翻訳システムの誕生]→②DNAを作り、それからRNAコピーを作る酵素が進化[転写システムの誕生])。

雑談:高校では、以下の図の①と②をRNAワールドとすることが多い(③はDNAワールド)。しかし、一般に、②はRNP(リボヌクレオプロテイン)ワールドと呼ばれる(知らなくてよい)。RNPワールドの後、逆転写酵素の働きによりDNAが合成され、今の③DNAワールドが形成されたと考えられている。

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①RNAワールド②RNPワールド(もしくはRNAワールド)③DNAワールド







要点:27億年前、シアノバクテリアが酸素発生型の光合成をはじめた。


(1)生命の誕生


● 地球は約46億年前に誕生した。

● 生物は約40億年前に出現したと考えられている。最古の生物の化石は約35億年前の細菌に似た化石である。(おそらく嫌気性の[酸素を用いることができない]原核生物であった)

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雑談:グリーンランドの38億年前の地層から、生命の痕跡と考えられる生物由来の炭素(炭素同位体組成を調べることで生物由来の炭素か非生物由来の炭素化を推定できる)が発見されている(また、西オーストラリアの約35億年前の地層から細菌の化石[微化石]が報告されている)。
*微化石(びかせき):一般に顕微鏡サイズの化石。

雑談:生命が誕生するためには、代謝のしくみ、自己複製のしくみだけでなく、それらを行う場、すなわち生体膜で包まれた空間が必要である。生物は、膜構造を進化させることによって、外界と自己を分け、代謝・自己複製を行う場を確保した(外界には水が多量にあったので、生体膜の成分は水になじまない脂質[生体膜の構造はリン脂質の二重層]である必要があったと考えられる)。

生命が誕生するためには、代謝のしくみ、自己複製のしくみだけでなく、それらを行うための生体膜で包まれた空間が必要である。






● 初期の『従属』栄養生物は、海洋中に大量に溶けこんでいた有機物を利用して生活したと考えられる。

● 初期の『独立』栄養生物は、(水ではなく)硫化水素(H2S)などを用いて二酸化炭素を還元し、有機物を合成していたと考えられている。

*最初の生物が独立栄養生物であったか従属栄養生物であったかは、明らかになっていないが、たとえば、以下のようなストーリーが提唱されている。
①最初に生まれた生物は、原始スープに溶け込んでいる有機物を取り込んで生命活動を行う、嫌気性の従属栄養原核生物だった(当時、遊離の酸素はほとんどなかったので、初めの生物は、嫌気性であったことはほぼ間違いないであろう。なお、初めの生物は従属栄養生物ではなく、独立栄養生物であったかもしれない)。
②そして、酸素を発生せずに有機物を合成する独立栄養生物が生じた(もし、長い時間、従属栄養生物しか存在していなかったならば、有機物は枯渇してしまい、生命は絶滅したであろう)。
③やがて、酸素発生型光合成を行うシアノバクテリアが現れた。





(2)シアノバクテリアにょる酸素発生型の光合成の開始



● 約27億年前、水の分解によって二酸化炭素を還元し、酸素発生型光合成を行うシアノバクテリアの仲間が現れた(もともと、地球の大気には酸素はほぼ含まれていなかった)。




語呂「酸素で死にな(シアノバクテリアが約27億年前に酸素発生型の光合成を始めた。死 でシアノバクテリア、にな で27を覚える。同時に、酸素の発生によって、多くの生物が死滅したこともイメージする)」

● 約20~30億年前の地層から大量に発見されたストロマトライト(主にシアノバクテリアの成長・代謝により形成される生物岩)は、初期のシアノバクテリアによってつくられたと考えられている。
*下図はストロマトライト(国立科学博物館より)。

ストロマトライト。



雑談:シアノバクテリアの中には、表面に方解石(カルシウムの炭酸塩鉱物)を沈殿させて石灰質骨格をつくるものがある。そのようなシアノバクテリアの活動によって形成されたものがストロマトライトであると考えられている(ストロマトライト:シアノバクテリアの成長や代謝により、堆積物の固着や炭酸塩の沈殿が起こることで形成される生物岩)。ストロマトライトは現在もオーストラリアで形成されている。約23億年前以降の地層から他産され、この時期は地球大気の酸素分圧上昇期と重なるため、シアノバクテリアによる酸素発生型の光合成が始まった証拠となる。

雑談:もともと、酸素は生物にとって猛毒なので、シアノバクテリアの光合成による酸素の発生は、生物によって行われた最初の大規模な大気汚染とも言える。
「「酸素」は「猛毒」で生物たちを死に至らしめる!!」荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』より エンポリオの言葉





(3)好気性細菌の出現



● シアノバクテリアの繁栄により、海水中→大気中に酸素が蓄積していった。やがて、酸素を利用して有機物を二酸化炭素と水に完全に分解し、エネルギーを効率よく取り出す好気性の生物(好気性細菌)が出現した(シアノバクテリアが酸素発生型の光合成を始める前は、地球にはほとんど遊離の酸素がなかったため、初期の生物は嫌気性であったと考えられている)。





発展:酸素の蓄積

①まず酸素は、海の中で鉄イオンと反応し、酸化鉄として海に沈殿した(しま状鉄鉱層[しまじょうてっこうそう]になった。現在、鉄鉱石は、しま状鉄鉱層から供給されている)。

②やがて大気中にも酸素があふれ、大気の組成が変わった(酸素が増加した)。

③酸素は紫外線によりオゾンに変わり、(おそらく5億年前までには)オゾン層が発達した(オゾン層は陸上に降り注ぐ有害な紫外線を減少させた)。

*紫外線はDNAに損傷を与える。

④オゾン層の形成により、生物の陸上化が可能になった。


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オゾン層の形成により、生物の陸上化が可能になった。


①酸素は、海の中で鉄イオンと反応し、酸化鉄として海に沈殿した(しま状鉄鉱層になった)。
②やがて大気中にも酸素があふれ、大気の組成が変わった。
③酸素は紫外線によりオゾンに変わり、オゾン層が発達した。オゾン層は陸上に降り注ぐ有害な紫外線を減少させた。




雑談:少し不正確な言い方だが、シアノバクテリアによる酸素の放出が原因となり、「海が"さびた"」のである(海洋中に溶けていた鉄が酸素と反応して酸化鉄となり、赤茶色を呈した)。




(4)真核生物の出現



● 約20億年前の地層から最古の真核生物と思われる化石が見つかっている。

● 真核細胞は膜構造が発達しており(膜で包まれた色々な構造を持っており)、さまざまな細胞小器官をもつ。

・膜構造をもつメリット:特定の酵素と基質を集中させ、効率よく反応を起こすことができる。

・デメリット:膜内に物質を輸送する仕組みやエネルギーが必要である。



雑談:生きている生物中の炭素は、最も一般的な12Cだけではなく、放射性同位体である14Cも含まれる。生物が死ぬと炭素の蓄積が止まり、その組織中の12Cの量は変化しなくなる。しかし、死んだときに蓄積していた14Cはゆっくりと減衰して、別の元素である14Nに変わっていく(半減期5730年で崩壊して14Nになる)。そのため、化石中の12Cと14Cの比率を測定することにより、化石の年代を決定することができる。








要点:好気性細菌が真核生物の祖先の細胞に共生してミトコンドリアが生じた。その後、シアノバクテリアが共生し、葉緑体が生じた。



● 共生説:ミトコンドリアと葉緑体は、真核生物の祖先の細胞に、それぞれ好気性細菌シアノバクテリアが取りこまれて共生してできたと考えられている。そのような説を細胞内共生説、または共生説という。共生説はマーグリス(マーギュリス)によって提唱された。

● 共生説の根拠→葉緑体とミトコンドリアは
独自のDNA(環状)やリボソームをもつ
②半自律的に分裂で増殖する(増殖に必要な遺伝子のほとんどは核内のDNAにあるためミトコンドリアや葉緑体は単独では分裂できない。したがって「半自律的に」増殖すると表現する)。
二重膜で包まれている(二重膜構造である)

語呂「共生したのはまーぐれです(共生説、マーギュリス)」


ミトコンドリアと葉緑体。

*上の図はミトコンドリアと葉緑体のイメージ。縮尺は統一していない。実際は葉緑体の方がミトコンドリアよりだいぶ大きい。



● 共生の過程で、二重膜構造が形成されたと考えられている。宿主(真核生物の祖先)は古細菌の一種であったと考えられている。




下図は少し詳しいイメージ。
*核は描いていない。また、好気性細菌・シアノバクテリアが真核生物の祖先の細胞(おそらく古細菌の細胞)に入った瞬間に、そのままミトコンドリア・葉緑体になったわけではない。好気性細菌・シアノバクテリアの持っていたDNAの多くが、真核生物の祖先の細胞がもっていたDNAに移動するなど、様々な変化があったと考えられている(その機構はわかっていない)。
多くの遺伝子が移動したので(不正確な言い方をすれば、もともと好気性細菌・シアノバクテリアが持っていた遺伝子が、真核生物に奪われたので)現在、もうミトコンドリア・葉緑体は、細胞外では単独では増殖できなくなっている。したがって、ミトコンドリア・葉緑体は生物とは呼べない)。


共生説。




雑談:好気性細菌の共生の場合、宿主の古細菌由来の膜は消失し、好気性細菌由来の外膜と細胞膜が残ったと考えられている。また、シアノバクテリアは2枚の膜(外膜と細胞膜)で包まれている(外膜の役割についてはよくわかっていない)。共生が起きた際、宿主細胞の細胞膜が加わったとすると、葉緑体は計3枚の膜をもつはずである。現在見つかっている2重膜構造を持つ葉緑体は、そのもともとあった3枚の膜のうち、1枚を失ったことになる(葉緑体の内膜はシアノバクテリアの細胞膜由来、葉緑体の外膜は、宿主の細胞膜またはシアノバクテリアの外膜由来と考えられている)。
*ただし、好気性細菌とシアノバクテリアの共生の過程については謎が多く、完全には解明されていない。
*葉緑体の膜(葉緑体と一次共生、二次共生)については以下の資料に少し詳しく記した。



雑談:ミトコンドリアを獲得したタイミングの前後で、真核生物の祖先の細胞は、自身の細胞膜を折り曲げて核膜を形成したと考えられている(自身のDNAを守ったか?スプライシングの場所を確保したか?理由は明らかになっていない)。なお、ミトコンドリアの獲得と核の獲得のどちらが先に起こったのかは明らかになっていない(上の図で、長ったらしく「真核生物の祖先の細胞」と書いたのは、いつ核が獲得されたのかが厳密には明らかになっていないからである)。下図は核の形成のイメージ(細胞膜がくびれて核膜ができた)。



雑談:まず好気性細菌の共生が起こり、その後、すでにミトコンドリアを獲得した初期の真核細胞にシアノバクテリアの共生が起こったと考えられている。「ミトコンドリアをもつが葉緑体をもたない細胞」は存在するが、「ミトコンドリアをもたずに葉緑体をもつ細胞」は存在しないからである。

雑談:ミトコンドリアDNAは、変異の速度が速く(理由不明)、核DNAより多量に存在するので、分析しやすい。また、ミトコンドリアDNAは卵細胞にのみ由来する(細胞質を通して母性遺伝する)ので、起源をたどりやすい。

雑談:ミトコンドリアDNAの解析によって現生人類の祖先と推定された女性(約20万年前にアフリカに居住)は、ミトコンドリアイヴと呼ばれることがある。ミトコンドリアイヴの探究に関しては、進化速度が大きく、高度に多型となったミトコンドリアDNAの非コード領域が使われた。



(次回の講義から、先カンブリア時代~新生代まで見ていく)

講義動画【生物の変遷】




講義動画【原核細胞と真核細胞】







まだわかっていないこと

● 生命はどのように生じたのか。

● なぜ生命は1度しか生じなかったのか(現生の生物は共通祖先から進化してきた)。現在、自然発生が起きていないのはなぜか。

● リボザイムを含め、多くのRNA(高校では習わないようなRNA)が、様々な機能を持つことが明らかになりつつある。RNAとタンパク質の役割分担はどのように起こったのか。RNAワールドからDNAワールドへの転換はどのように起こったのか。

● どのように、ミトコンドリアや葉緑体から核に遺伝子が移動したのか(たとえば、ミトコンドリアの呼吸鎖を構成するほとんどのタンパク質は核ゲノムにコードされている)。

●ミトコンドリアの分裂や融合はどのように制御されているのか。

●ミトコンドリアDNAの変異と、老化の関係が指摘されているが、その機序に関してはほとんど明らかになっていない。

●ミトコンドリアDNAの変異の速度は、核DNAや葉緑体DNAよりずっと速いことが知られているが、その理由については明らかになっていない。