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201224【デート明けのテスト】

突然の雨が降り出した6月の土曜日の夜、部活帰り、自分は好きでもない野球部の同期のマネージャーといた。街の夏祭りを邪魔する雨、「なんだよ、何も出来ないじゃないか。」と思いながら、駆け込んだのは田舎町にひっそり佇むファミレスだった。野球部の愚痴を話し合いながら、注文したハンバーグセットを食べた。オレンジジュース付き。彼女はドリアだったかな。覚えていない。本当は、一個上のマネージャーと行きたかった。とずうっと思っている。そんな事を目の前の彼女には言えないけど。

時刻は20時を過ぎた。なんだろう、店内の時計のチャイムが覚えている。今頃花火大会が始まる時間なのに、雨かぁ。

そんな雨がこれも突然のように止んだ。

「雨、止んだね。」

しばらくして、雨音は収まった外から聞こえたのは花火だった。その花火は店内の窓から少し見える。丸くないけど。

なに、このシチュエーション。そして、彼女の注文したメニューには入ってないオレンジジュースが店側からサービスで運ばれた。店のオーナー、鬼カッコいいじゃん。田舎の冴えない高校生男女が学生服で食べる夕ご飯に、雨上がりの夜空に花火、オレンジジュース。あのぉ、僕たち、付き合ってないんですけど。って店側に言うのも変だし、ごくごく飲んで、花火を見に、外に出た。商店街に立ち並ぶ露店街は活気だし、小さな街ながらも夏祭りは盛り上がった。何故か隣には好きでもない彼女。手を繋ぐこともなく、時間は過ぎていった。花火が打ち上げ終わり、夜も深まる中、終電の時間でお別れをすることになった。夏祭り、高校生ならカップルで楽しむのが王道なのに、その日は誰にも出会わなかった。出会ったら大変だから。厄介なことになるし。その点においては、「ふぅ、良かった。」と思っている。モテたいけど。高校最寄りの駅、一番線に彼女、線路を2本挟んで向かい側の2番線ホームに自分だ。一応、線路を挟みながらも対峙して喋る。夏祭りの終わりなのに、静かな駅だ。

「今日は有難う、明日も頑張ってね。」

そうか、明日も試合か。線路越しになんて返したかは覚えていないけど、明日も試合かとなると、面倒だなぁというのが頭に出てくる。何回か線路越しの会話のキャッチボールをしたと思うが、キャッチボールを遮るように電車が入線し、一応、お互いの車両からバイバイをして、その日は別れた。たぶん、3時間くらい彼女と一緒に居たけど、一回も興奮しなかったかも。ははは。帰り道、自宅の最寄りの駅までは、すでに終電が終わっていて、途中の駅で降り、親の迎えを呼んだのだが、軽く怒られてしまった。

親に言うのを忘れた、「今日、夕ご飯いらない。」って。

ちょっと心配もしていたようだ。基本的に、自分は部活後、自主練で残ることはなく、そそくさに帰る。練習時間の短さは野球部では屈指だと思う。ただ、ロードワークの距離も屈指だと思う。陸上部より走っていた時期もあったと思う。その時間が退屈で、後悔で、ただ、モヤモヤもしていた。ウチの両親は、ちょっと過保護すぎる。また、それに甘えている自分がいるのも現実。その当時、自宅に女の子を呼んだことはなかったし、恋人の存在なんて別世界の話だと思っていたと思う。「ウチの子はモテないし、そういう気がないから。」と保護者会でよく話していたと思う。そうそう、高校野球の保護者会の付き合いが、15年近く経っても続いているのを聞いて驚いた。年1回くらいのペースだと思うが、今年の秋も集まって飲み会をしたらしい。どこどこのお母さんが病気で倒れたとか、亡くなった話も、地方から離れて東京にいると、母から聞くことが多い。そういう場で、おばさんおじさんになっても、最後に集合写真を撮るようだが、この前送られてきた写真を見ると、顔じゃなくて、写り方が自分そっくりでビックリした。ああ、自分のこの母の子だ。って再確認もできたり。

「どこで食べたの、ちゃんと食べた?」なんてことを車の中で聞かれながら、土曜日は終わった。

開けて日曜日。今日は、自校近くの野球場にて練習試合だ。遠征や他校での試合に比べ、自校での試合は助かる。朝がゆっくりだからだ。野球道具を磨くこともできる。一応、道具は大事に扱っているつもり。どこかで神様が見ているかもしれないし。それぞれのルールがあるかと思うが、自校では、他の高校を招き、練習試合を行う場合、2試合をするのが通例だった。それぞれあるかと思うが、1試合目は比較的主戦力中心に試合をし、昼食の休憩を取り、午後2試合目は控え中心に行う。自分は高校2年生で、戦力的にも中途半端な立ち位置。呼ばれたところで行く感じ。ただ、夏のベンチ入りを目指す戦いの真っ最中。それなりに朝からのウォーミングアップは気合を入れる。ただ、隣には昨日の夏祭りデートのきっかけを作ってくれた先輩。先輩は、もう夏のベンチ入りなんて考えておらず、ただ堂々としていた。

「昨日はどうだった。」

「それが、雨が降ったじゃないですが。」

そんな導入から一通り話しながら、身体を温めた。

キャッチボールを始めようとしたタイミングで、1試合目のスタメン、また登板予定のピッチャーも発表され、自分はなかったため、キャッチボールは早々に切り上げ、ダラダラしていた。まあ、想定の範囲内よ。2試合目、3イニングくらいで継投での登板かな。試合前のシートノック時は、ノッカーである監督の隣に位置づけ、ボールを渡す役割。先発する時以外は、卒業までこのポジションだったな。そして、1試合目が始まった。自分は、どうせ登板がないので、ベンチを離れ、アルプス席にいた。

試合中は、スタンド席等に飛び込んだファールボールの処理に部員が散らばっていて、皆、バットを用意しているの。これ、飛んできたファールボールを打ち返すのではなく、表裏攻撃の合間の時間は、素振りをしているんだって。どんだけ努力するんだ、疲れちゃうよと思う。自分は、怒られないようにバットは抱えているが、もちろん、バットを振ったことはなかった。何を考えていたかな。たぶん、エロいことを考えていたと思う。自分は会社の後輩にも口酸っぱく言っているんだけど、エロいことと悪いことを考えろ。その時が一番頭を使うからと。エロいヤツ、強いてはモテるヤツと、犯罪者って頭良いでしょって。それを営業会議で発表したらドン引きされた。まあ、人それぞれですよ、はい。

アルプス席にいて、西日が心地よくて眠くなる時ってどうしてもあるよね。ちょっとクラっとしていた時にファールボールが襲ってきて、飛び上がるように目が覚めたことが過去にあったなぁ。あの時は恥ずかしくて、身体が熱くなった、変な汗をかいた。まあ、何事もほどほどよ。

1試合目を観戦しながら何を考えたのか覚えていないし、試合結果もやっぱり覚えてないけど、1試合目が終わった。試合後のグランド整備を済んだところで、監督に呼ばれ、「2試合目、頭から行けるところまで行くから。」と伝えられた。その監督はよく「行けるところまで。」という言葉を自分に使っていた。「行けるところまで」、これはどこまでなんだ。自分の頭の中では、他のピッチャーも投げさせたいため、絶対完投は無いんだろうけど、もしパーフェクトピッチング、ノーヒットノーラン的な奇跡的なピッチングをしたら、それは交代なし、完投もさせてもらえるのか、疑問に思っていた。ただ、聞き返すことはなく、ここだけ「ハイ!」とキリッとした返事で答えた。監督の後ろには、昨日デートしたマネージャーがいた。

昼食をサクッと済ませ、後輩のキャッチャーを捕まえて、キャッチボールを始める。そうそう、その前に対戦高校にフラッと足を伸ばした。その高校には、中学3年時県選抜チームに選ばれた際のチームメイトがいて、自分と同じく、強豪私立高校からのオファーを断り、田舎の公立高校に進んだのだが、1年生のときからバリバリレギュラー。1試合目の先頭バッターとして出場していた。こういう時だけ、妙な社交性と、「あ、自分、この人と繋がっているんで。」アピールをする。

「久しぶりぃ。」

「お前、生きてたの。」

自分は中学時代のグローリーデイズから、鼻をへし折られ、下り坂をフルスピードで駆け抜けている。これも青春だ。

話す内容は、当時の戦友、アイツどうしてる。的なことばかり。プロ野球だと、最近は対戦相手と試合前に話すシーンをよく見たりするが、自分が高校時代はまだそんな画はなく、また、自分も単独で対戦校と話すなんて、稀有な画だった。先輩や監督から変な目で見られないうちにじゃあまた。と引き上げ、2試合目に向けて調整を進めた。先発ピッチャー。ほぼ、夏のベンチ入りへ向けたテストの一つ。やるしかない。なにか、昨日のデートのパワーも借りて、自分は試合に挑んだ。

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