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220317【広尾でヘルメット】

たぶん、自分は社会人における様々なスキルにおいて、全国何千万人と居る社会人ピラミッドの下の方に位置していて、それでもどっしり現状維持で構えているんだが、ひょんなご縁があって、自分が施工主の立場、担当者になり、とある公共建築物を作り上げるプロジェクトにジョインしている。これは貴重な機会、人生は思い出づくりだと思いながら、あらゆる協力会社の方々に迷惑をかけないよう、日々神経をすり減らして業務に取り組んでいる。一応。

少しは、このプロジェクトが一段階したところで、自分自身の社会人キャリアのプラスになればと思って。これも一応。

その日、広尾駅に降りた。

あまり来ない街、広尾。昔、まだ自分が20代だった時、とあるアイドルグループがまだイケイケで、その宣伝部長の接待合コンと銘打った飲み会で来たことがあった。店を手配してくれたのは広告代理店の営業の方。事前にいただいた住所だけじゃ、どうやってもたどり着かない場所に位置した、おしゃれなカフェ。

入ると、8人用の半個室で、立ち上がるのが嫌になるくらいのフカフカなソファー。4対4で女性陣が揃うと、アロマの効いた温かいおしぼりが配られた。ムダに長いタイトルの料理、何ちゃら添えばかりの料理、京都議定書くらい分厚いメニュー表とにらめっこしたにも関わらず、最初のドリンクは「泡」で乾杯。

なんでいつも乾杯の言葉は「お疲れさまでした。」なのか考えようと試みるが、パリコレモデルのようにスレンダーなグラスの乾杯の音は甲高く、そこから始まった自己紹介で、“広告会社で働いています”と言ってはみたものの、自分は広告業界のピラミッドの下の方で、ニッチにやっている会社だから、あまり深堀りしないでよ、外資系銀行で働くお嬢さん。

そこから、酒が進むにつれて、女性陣の偏差値の高い話に必死についていくことに。ギリギリここは渋谷区だけど、もうすぐそこは港区が見えているし、話している内容は“港区”な話なのよ。

ちょっとついていけないけど、時折体を張って笑いを取り、宴を盛り上げなくてはいけない。この慣習は、いつの時代も一緒なのだろうか。特にまとまった話も、印象に残った話も、次に続くような話もなく、それぞれの自慢先行のエピソードトークが幾つかあって、あっという間に時間は過ぎ、てっぺん前、女性陣はタクシーで西麻布の方に消えていき、もう1軒、行きつけのバーなる住処に行ったのだろう。そして自分たちは、言葉が強烈だが、クライアントをタクシーにぶち込んだところで、ようやく開放されたのだ。

外苑西通り、西麻布、六本木方面、まだまだまばゆい華やかな夜の光が照らす中、そこでどっと酔いが回ってきた。同席した広告代理店の方もかなり疲れていて、蛭子さんのマンガみたいな汗を額から流しているのを見た。また、ほとんどテーブルに並んだ料理を食べなかったため、早く、日高屋でいいからラーメンが食べたいと思った。ただ、そんなラーメン屋は広尾には無い。

そんな街、広尾、ってそんな街では無いのだが、一つの思い出はそれ。

2022年に戻す。広尾に来たのは、とある工事において、地縄立会いを行なった。建築工事のことなんて、さっぱり分からないし、あらゆる機器や自宅マンションでも取扱説明書を読み通したことがない自分には、新鮮な時間だった。渡された細かい設計図面を参照に、間違い等無いか確認する。ホントは、「もう全部おまかせしますよ、信頼してますから。」と言いたいのだが、施工主である以上、「この工程には必ず参加してください。」と言われ、はるばる慣れない街にやって来た。別のMTG後にこの現場に入ったため、場違いなジャケパンスタイルで来てしまったのだが、作業服の方々に混じってヘルメットを被り、しっかり立会った。職人肌強めの測量士に誘われ、あらゆる角度から高精度の測量計を除く。そのレンズの先には、図面と寸分の狂いもない数値が出ており、思わず拍手をしてしまった。

現場は、とても人通りの多いところで、作業は歩行者優先のため、途中途中止まることがあった。

「歩行者の数、多いんですね、それなりのトラフィックが取れそうですね。」

「そうなんですよ、あれ、見てください。」

どこかで見たことがあるマンションだ。

「もしかして、芸能人がお住まいの。。。」

作業員の皆さんたちと見上げた先には、要塞のようなマンションがそびえ立っていた。おそらく、あの新婚芸能人も住んでいるんだとか。そのマンション街にも通ずる道であり、1時間ちょっとの現場だったが、歩道は結構行き交う歩行者だった。そんなに行き交うもんだから、地縄確認の傍ら、偏見に振り切った人間ウォッチングをしていた。いろんな人が行き交うのだ。

どこの外国語か聞き取れないが会話が盛り上がっているに違いないであろう親子、どう見ても栄養が足りていない犬を連れ歩くマダム、曇り空の昼下がりなのに真っ黒なサングラスをする兄ちゃん、ハイブランドのちんどん屋等、通勤電車ではなかなか見ることができない人たちの行き交う姿を見ていた。たぶん、芸能人も居たのかもしれない。

一通り確認が終わり、サインをして、「引き続き工事、よろしくお願いいたします。」と告げて、広尾の街に開放された。

何の仕事をしたらこの街に住めるのか、考えてみる。次の予定まで、時間があるため、恵比寿駅まで西麻布の方まで歩き、六本木通りからバスに乗ることにした。

歩きながら考える。この街に住む人、たぶん、商社マンにスマホゲームで一発当てたクリエーターなのかなぁ。いやぁ、自分の今の仕事のままじゃあ、到底住むことができない。まあ、自分、この街には「住めない。」という意志の方が強いかもしれない。どうも、生活感が無いのだ。もちろん、調べれば出てくるのかもしれないが、チェーンのラーメン屋、ディスカウントスーパー、牛丼屋にとんかつ屋が無いと、困ってしまう。町中華も無いだろう、この街には。何か、憧れの街、手が届かない街、くらいのスタンスでこれからも広尾ブランドを形成してほしい。

あぁあ、宝くじ、当たらないかな。そんなことを思っていたら、もう六本木通りにぶつかった。ここもすごい街だ。東京は、どこまでも青天井。

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