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211028【マークシート攻略法】

その年の2月、自分は大学受験のために上京してきた。恥ずかしながら一人で行く東京、一人で乗る新幹線は初めてだった。当時、彼女も居ず、誰かにエールをもらうことなく、親には「気をつけていってらっしゃい。」の教科書のような言葉と、不便にならない範囲のお小遣いで、決して可愛くない息子は新幹線に飛び乗った。校内には、カップルで大学受験に上京する生徒も居た。東京観光と大学受験、どちらに比重を置いているのか分からないが、青春っぽくて羨ましかった。そんな青春は、晴れて大学生になったら思いっきりやろうと思うが、大学受験でお互いに励まし合う経験は、とうとう訪れなかった。

東京、慣れない地での受験は、いつも以上に体力他消耗が激しいと勝手に思う。地方受験がある大学は、本当に助かる。東京に比べ地方は、慣れているせいか、時間がゆっくり過ぎるように感じる。まず、東京の人は、歩くスピードが速い。30代になり、日々生きるだけで体力の衰えを感じているのに、歩くスピードはすっかり東京仕込みだ。速く歩いて、早く目的地に着き、ゆっくりしたい。受験会場にも、地方に比べ電車の本数に余裕があるにも関わらず、早めに入った。

試験時間開始10分くらい前に、担当の試験官、監視のアルバイトスタッフが会場に入り、説明の後、問題用紙、解答用紙を配りだした。大学によって、解答用紙はマークシートなのか、記述式なのか、分かれている。もちろん、自分にとっては、マークシート方式の方が良い。選択式の問題であり、分からなくても正解する可能性が秘めているからだ。

時間は2021年の10月に飛ぶ。先日、資格試験を受けてきた。どうも、手応えは良くない。勉強不足と言ってしまえばそこまでになるのだが、どうも勉強できる時間を作り出すことが難しかった。最近、仕事の量は増え、また、プレッシャーで夜、眠れない日々も続いている、というのは大げさだが、夢で最近、仕事で携わる案件、人物が夢の中でファンタージに躍動して、自分を悩ます。朝5時前に娘の泣き声も無い中で目が覚めて、「ああ、夢か。」と思って再度目を瞑るが、それからは眠れないし、「あー、これやらなきゃ。」、「あれもある。」、「あの件、こうなったらどうしよう。」等、考え出して、朝7時、起きなくてはいけない時間になる。お酒を飲んだり、一回サクッとシコれば眠れるかもしれないが、そんなドーピングはしない。そんな環境下の10月に、資格勉強なんて満足にできなかった。頼みの土日にカフェに行ってテキストを開くが、スマホの中の誘惑に追われ、捗らなかった。

試験当日、学科試験と実技試験があるのだが、午前帯は学科試験だ。自分は昨年に受験した際に一部合格をしており、学科3科目のうち1科目は免除で2科目の学科試験と実技試験だった。4択問題が15問あり、指定のマークシートが配られ、鉛筆で回答番号を黒く塗る。過去問を解いたとおりにやれば、絶対に大丈夫、そう思って、この試験に挑むのは3回目、大学生だったら既に2浪している身であった。

マークシート方式。初めて出会ったのは中学時代の学力調査試験だったと思う。初めてマークシートを手に取った時、先生から新鮮な回答方法の指示を受け、問題を回答したことを思い出す。記述式に比べ、ヤマカンでも正解する可能性がある、画期的な回答方法だったと思う。「塗り具合が薄いと、正解と判別できない可能性があるから、しっかり塗るように。」とよく試験開始前に言われたものだ。回答に使う鉛筆の芯にもよるが、そんな薄く塗ることなんてあるのか、自分は疑問に思う。

そんなマークシート方式に挑む猛者が同じ学年に居たことが、ちょいと話題になっていた。隣のクラスの彼、あまり絡んだことはないが、オリジナルの歌を作り、クラスで披露するくらいには“面白いヤツ”だった。そのオリジナルソングの歌詞を秩序無くここに記すが、たぶん誰も得をしない。自分で書いていて、何を書いているんだと、自分に腹が立つ。ただ、ここに記す。

「ゆうすけすけすけスケベ、ベーコンコンコン、こんにゃく、にゃくにゃくにゃくにゃく、さんまの刺身ぃー、、、みみみミミズ、ズズズズズボン、んんんんんんこ、ここここ~」

彼の名前は「ゆうすけ」であり、自分の名前から始まる20年以上も前のメロディが、まだ自分の頭の中に残っているのだから、彼のインパクトはスゴかったのだと思う。言葉遊びに過ぎない歌なのか、何が起きるか分からない呪文なのか分からないが、あの時代に誰でも配信できるプラットフォームがあったら、彼は中学生にして、巨大な富を得ていたと想像する。このメロディを、自分だけではなく、他のクラスメイトも歌えていたのだから、校内オリコンチャートなるものがあれば、ぶっちぎりの一位だ。ただ、給食の時間に流れたとして、聴きたいものではないけど。

さて、彼のマークシート方式との戦いについて書く。彼は、目の前に現れたマークシート方式の試験に対し、1から4まである選択肢の丸のうち、すべてを黒で塗りつぶし提出したのだ。試験後、その話がクラスを飛び越えて発信され、彼の行動を推測する調査委員会なる有志が昼休みに集まった。そこで出た指針としては、マークシートの回答用紙は、回答後、正解なのか、不正解なのか判断する機械に通され、自動で正解の番号が塗られているかどうかを判断するものと考えついた。ならば、すべての選択肢を埋めてしまえば、正解部分のみ塗りつぶされているかどうかを判断する機械側は、最初の問題から最後の問題まで、「塗られている=正解」として認識し、高得点、いや、100点が付くという算段だろうと考えられた。これはスゴい、マークシート方式の抜け道を見つけ出した彼は天才だと一同は思った、昼休みのベランダで。

ただ、その時間、当事者の彼は、回答用紙を回収した先生に呼び出されて、職員室に入って以降、なかなか出てこなかったという話を聞いた。おそらく、何かしらゲンコツが落ちたのだろうと想像する。

それ以降、マークシート方式の試験前には、「回答用紙には、正解と思った選択肢だけを埋めてください。」と一言添えられるようになった。彼の功績として、新たな条例が付随されたぞと、皆、思ったに違いない。あの時、マークシート方式に挑んだ彼は、何をしているのだろうか。元気にしているのか、未だにあの歌を口ずさんでいるのか。久しぶりに会って、またマークシートと戦わせたいと思ったり。

そんな、マークシート方式を30代になっても対峙していて、最終的には、ちゃんと勉強をしていればよかった、選択問題だからなんとかなるだろうと思っちゃダメだ、ということを感じている。また、記述式の試験にすれば、ヤマカン任せでなく、採点者側も時間を要すかもしれないが、正否がはっきりするのも分かる。大学受験時代、ほぼ、記念受験なる大学受験は記述式で、「ああ、これは無理だ。」と思い、試験終了まで、時間をどう潰そうか悩んだことがあった。やっぱり自分には、自身の偏差値から20も離れた一流大学へのステップは無理で、マークシート方式の、その日の奇跡、運勢にかけても合格できる大学しか、門戸は開かれてないのかと思った。特に大した感触を得られないまま上京での大学受験は終わり、最終日、新幹線前の時間に一個上の先輩、大学進学とともに上京を決めた成功者の一人である先輩と、ファミレスにてハンバーグを食べた。そこのハンバーグ、今でもチェーン展開をしているのだが、メインのハンバーグは大して美味しくなく、サラダバーにいつも満足している自分がいる。サラダバーに満たされた自分は、大学合格するのか不安のまま、帰路についた。あとは、マークシートの奇跡にかけるしかない。そう思ってリクライニングシートを傾けた。

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