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"隠れた真実"の重要さを説く「ZERO to ONE」

発売直後くらいに買ったのに、ずっと放置してしまっていたPeter Thielの「ZERO to ONE」を今更ながら読みました。どうやら発売は2014年だったので、9年も積読してしまっていたことになるようです。

やはり巷で名著と評されるだけあって、PayPal、Facebook、Palantir含む多くの巨大な優良ビジネスを作ってきた経験に裏打ちされたThielの事業づくりと起業の教えは示唆深いものが多かったです。

一方で、頭脳明晰かつ冷徹なイメージが強かったThielですが、意外と人間臭い考え方をしてる部分も垣間見えて、興味深かったです。

以下、本書から印象に残った点を抜粋・コメントしておきます。

マクロレベルの水平的進歩を一言で表わすと、「グローバリゼーション」になる。ある地域で成功したことをほかの地域に広げることだ。
ゼロから1を生み出す垂直的な進歩を一言で表わすと、「テクノロジー」になる。テクノロジーとはコンピュータに限らない。正しくは、ものごとへの新しい取り組み方、より良い手法はすべてテクノロジーだ。

ほとんどの人はグローバリゼーションが世界の未来を左右すると思っているけれど、実はテクノロジーの方がはるかに重要だ。今のままのテクノロジーで中国が今後二〇年間にエネルギー生産を二倍に増やせば、大気汚染が二倍になってしまう。インドの全世帯が既存のツールだけに頼ってアメリカ人と同じように生活すれば、環境は壊滅されてしまう。これまで富を創造してきた古い手法を世界中に広めれば、生まれるのは富ではなく破壊だ。資源の限られたこの世界で、新たなテクノロジーなきグローバリゼーションは持続不可能だ。

本書では"グローバリゼーション"と"テクノロジー"を対比的に述べていて、後者が重要だと説き続ける。

アメリカ人は競争を崇拝し、競争のおかげで社会主義国と違って自分たちは配給の列に並ばずにすむのだと思っている。でも実際には、資本主義と競争は対極にある。資本主義は資本の蓄積を前提に成り立つのに、完全競争下ではすべての収益が消滅する。

グーグルのような独占企業は違う。独占企業は金儲け以外のことを考える余裕がある。非独占企業にその余裕はない。完全競争下の企業は目先の利益を追うのに精一杯で、長期的な未来に備える余裕はない。生き残りを賭けた厳しい闘いからの脱却を可能にするものは、ただひとつ ── 独占的利益だ。

なぜ人は競争を健全だと思い込んでいるのだろう?それは、競争が単なる経済概念でもなければ、市場において人や企業が対処すべきただのやっかいごとでもないからだ。何よりも、競争とは イデオロギー なのだ。社会に浸透し、僕たちの思考を歪めているのが、まさにこのイデオロギーだ。

どんなスタートアップも非常に小さな市場から始めるべきだ。失敗するなら、小さすぎて失敗する方がいい。理由は単純だ。大きな市場よりも小さな市場の方が支配しやすいからだ。

ニッチ市場を創造し支配したら、次は関連する少し大きな市場に徐々に拡大してゆくべきだ。アマゾンはそのお手本と言える。
正しい順序で市場を拡大することの大切さは見過ごされがちだ。大成功している企業はいずれも、まず特定のニッチを支配し、次に周辺市場に拡大するという進化の過程を創業時から描いている。

独占:テスラは自分たちが独占できる極めて小さな市場からスタートした。ハイエンドの電気スポーツカー市場だ。
ほとんどの環境企業が差別化に苦労する中で、テスラは隠れた真実を発見し、その上に独自のブランドを築いた。

"競争"と"独占"の対比。前者は人間社会に蔓延したイデオロギー。真に価値あるイノベーションを産むには、ニッチ市場で"独占的利益"を作り、周辺市場に拡大していくこと。

遠い未来に大きなキャッシュフローを生み出すのは、どんな企業だろう? 独占企業はそれぞれに違っているけれど、たいてい次の特徴のいくつかを合わせ持っている。プロプライエタリ・テクノロジー、ネットワーク効果、規模の経済、そしてブランドだ。

プロプライエタリ・テクノロジーは、ビジネスのいちばん根本的な優位性だ。それがあれば、自社の商品やサービスを模倣されることはほとんどない。たとえば、グーグルのアルゴリズムは、他社より優れた検索結果を生み出している。

確かな経験則から言えるのは、プロプライエタリ・テクノロジーは、本物の独占的優位性をもたらすようないくつかの重要な点で、二番手よりも少なくとも一〇倍は優れていなければならないということだ。
たとえば、ペイパルはイーベイでの取引を少なくとも一〇倍は改善した。アマゾンはとりわけ目に見える形で、いきなり一〇倍の改善を果たした。ほかの書店よりも少なくとも一〇倍の書籍を揃えていたのだ。

今自分が作っているモノは顧客の既存ソリューションの10倍優れているか、という問いは大事。

今流行りの戦略といえば、変わり続ける環境に「適応」し「進化」する「リーン・スタートアップ」だ。顧客の欲求に耳を傾け、MVP以外は作らず、うまくいったやり方を反復すべきだと言われる。だけど、「リーンであること」は手段であって、目的じゃない。既存のものを少しずつ変えることで目の前のニーズには完璧に応えられても、それではグローバルな拡大は決して実現できない。iPhoneでトイレットペーパーを注文するための最適アプリを作ることはできるだろう。でも、大胆な計画のない単なる反復は、ゼロから1を生み出さない。

「MVP」なんていうちっぽけな考えは捨てよう。一九七六年にアップルを創業して以来、ジョブズはフォーカス・グループの意見を聞かず、他人の成功を真似ることもなく、念入りな計画によって世界を本当に変えられることを証明した。短期的な変動の激しいあいまいな世界では、長期計画はたいてい過小評価される。アップルの株価グラフを見れば、この長期計画のもたらした恩恵がわかるはずだ。

リーン・スタートアップに対する批判と、その対としてAppleを例とした長期的かつ大胆な計画に対する賞賛。これは本当にその通りだと最近思う。リーン・スタートアップはボトムアップで学習と改善を重ねるのに適したフレームワークで、扱い方によっては近視眼的になってしまう危険性がある。実際にプロダクトづくりの現場でもこの病気に陥る場面は多い。
リーン・スタートアップか?長期かつ大胆な計画か?という二元論ではなくて、長期的な理想像と計画を描いたうえで、足元はリーン・スタートアップ的な"適応"と"進化"を活用するのが大事なのでは、と個人的には感じた。

実際、隠れた真実はまだ数多く存在するけれど、それは飽くなき探究を続ける者の前にだけ姿を現す。科学、医療、エンジニアリング、そしてあらゆる種類のテクノロジーの分野で、できることはまだまだ多い。

偉大な企業は、目の前にあるのに誰も気づかない世の中の真実を土台に築かれる。エアビーアンドビーができる前、旅行者はホテルに高い部屋代を払う以外にほとんど選択肢はなく、不動産所有者は空き部屋を信頼できる相手に簡単に貸し出すことはできなかった。エアビーアンドビーは、ほかの人たちにはまったく見えなかった、未開拓の需要と供給に気づいたのだ。

隠れた真実には二種類ある ── 自然についての隠れた真実と人間についての隠れた真実だ。自然についての隠れた真実はいたるところに存在する。だとすれば、どんな会社を立ち上げるべきかを考える時、問うべき質問は二つ ── 自然が語らない真実は何か? 人が語らない真実は何か?

"自然"と"人"が語らない真実。こういう考え方があるのか、と思った。まだ咀嚼しきれてないですが…

営業マンやそのほかの「仲介者」は邪魔な存在で、いい 製品 を作れば魔法のように販路が開かれると勘違いしている。特にシリコンバレーでは『フィールド・オブ・ドリームス(*2)』的な発想(「それを作ればみんなやってくる」)が一般的で、エンジニアは売ることよりもクールなものを作ることしか考えていない。でも、ただ作るだけでは買い手はやってこない。

販売を製品デザインの一部と考えるべきだろう。何か新しいものを発明しても、それを効果的に販売する方法を創り出せなければ、いいビジネスにはならない。

差別化されていないプロダクトでも、営業と販売が優れていれば独占を築くことはできる。逆のケースはない。
販売と流通はプロダクトそのものと少なくとも同じくらい大切だということだ。

Thielの逆張り思考、"隠れた真実"の1つとしてこれは印象的だったのと、強く共感した部分。「良いものを作れば売れる」というのは迷信で、販売と流通こそが独占へのKey Success Factorであるという点。

ペイパルの創業者六人組のうち、四人は高校時代に爆弾を作っていた。

マジか…。

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